リトル君の魔法学園生活

鬼灯

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26_退院

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「んぅ」

俺は、心地よい眠りから目覚めた。めっちゃ眠っていた気がする。それはそれは爆睡だった。

「目覚めましたか?ちょうど良かった。ナツメ君がお見舞いに来ていますよ」

え?こんな清々しい気分なのにナツメ先輩?地獄に落ちる!

「こんにちわ、リトセルト君。おかげんはいかがかな?」

「ええ、だいぶ良いです…」

今日も見事に猫を被ってらっしゃる。

「では、私は晩御飯をとりに行ってきますので、ゆっくりして行って下さいね」

「はい」

嫌だ!どうして、ミーナ先生はこうもタイミングよく出て行くの!?

バタンッ

「リトル」

「はい!」

先輩のスイッチが入った。先輩が俺の事を略称で呼ぶときはそういう時だ。

「…大丈夫か?」

「へぇ!?あ、はい。順調に回復してます」

「そうか。なら、良かった。犯人だがな、すぐに捕まったぜ」

「そうですか」

ざまぁみろ。大好きなテンマ先輩にでも軽蔑されてろ。まぁ、テンマ先輩にはあんまり期待はしないけど。

「嬉しそうじゃねぇな」

「嬉しいですよ。ただ、犯人よりも一発殴りたい人がいるだけで」

「そうか。んじゃ、そいつ思いっきり殴ってスッキリしろ」

「先輩、今日は優しいですね」

ドンッ

先輩は不意に俺の寝ているベットを蹴った。

「…あぁ、俺は優しいよなぁ?いつも」

「はい!」

怖い怖い怖い!俺を見下している目がやばい!けれど、先輩はすぐに視線を逸らし、バツ悪そうにした。

「今回だけは生徒会の失態だ。悪かった。トラブルメーカーさんよ」

最後の一言に悪意を感じる…。

「先輩のせいじゃないっす」

「それは当たり前だ」

はっきりおっしゃった。さっきの謝罪はなんだったのだろう…。

「ありがとうございます」

「…ムカつく。治ったら覚悟しとけ」

「治すのが嫌になってきました…」

「じゃあ、死ね」

「酷い…」

先輩は扉に手をかける。電光石火のような人だな…。

「お大事に。リトセルト君」

「はい」

先輩は出るときに抜かりなく猫を被って行きました。凄い。ここまでくると特技だよ。

その後、俺は先生が持ってきた晩御飯を美味しくいただいて、眠りについた。





次の日。

いよいよ、退院の日だ。だが、その前にこの身体中の傷を治してもらう。それには、コウヤ先生も立合うようだ。コウヤ先生は攻撃系の光属性だけど、魔力が足りない時のために一応側にいてくれるらしい。

「じゃあ、始めるけど、多少痛いと思うから頑張って下さいね」

「はい。多分自分でするより痛くないと思うんで、大丈夫です」

「確かに、お前がするよりはるかにミーナの方が痛くねぇだろうな」


癒し系の光属性の魔法には多少なりとも痛みが生じる。それは、魔法使いの経験だったり、魔力量だったりが関係している。フィルさんほどになれば痛みなんて無いに等しく治すことができる。ミーナ先生も痛みが少ないと人気なのだ。ちなみに俺の治療はめっちゃ痛いと思う。怪我した時と同じくらい痛い。

「リトル君も経験を積めば上手くなりますよ」

「だと良いんですけど。自分で治すのも痛くて」

「コツは相手の魔力量に合った分の魔力を使用することです」

ミーナ先生は俺の両手を優しく握る。

「こんな感じに」

ポゥ

淡く白い光が俺の手を包み込む。少し、電気が走ったようにビリビリする程度で痛くは無い。凄い…。

「ふぅ、終わりました。フィルさんはこの調節を寸分違わずしてしまうんですよ」

「ミーナ先生も凄いです!ビリビリする程度で痛くなかったです!」

「それは良かった」

ガラッ


「失礼します。治療は終わりましたか?」

「終わりましたよ。どうぞ」

入ってきたのは会長だった。手には荷物を持っている。というか、俺の荷物だ。

「迎えにきた」

「え?」

「え?じゃねぇよ!明後日は舞踏会だぞ?今日から泊まりがけで練習だ」

「えー!」

忘れてた!というか、俺の代理を立ててくれよ!

「話は俺らが誤魔化しておく」

「ありがとうございます」

先生もすごく協力的だし…。

「魔力玉は?」

「ここにあります」

俺は服の中から首に下げていた赤い勾玉を取り出す。

「ほぉ、よく出来てんな。流石だ」

「魔力量も凄い入ってますね」

「当然です」

先輩の自信は先生の前でも霞まないらしい。

「じゃあ、行くぞ。今日は俺様が魔力を込めてやる」

「あ、今日は安静にさせてくださいね!」

「はい、分かってます」

お母さんか。と俺が心の中で突っ込んでいる間に、先輩は魔力玉に魔力を込め始めた。俺は来るであろう感覚に備えて目を閉じた。












「これで、やっとひと段落ですね」

「おう。お疲れ様」

伸びをするミーナにコウヤは労いの言葉をかける。

「疲れました。でも、リトル君が元気になって良かった。最初は本当に焦りましたよ」

「あぁ、あれは酷かったな。いくら何でもやり過ぎだった」

コウヤは特に酷かった足の火傷を思い出す。赤く腫れて、皮膚が焦げ、酷い匂いだった。アレを治すのにミーナの魔力が足りないほどに。

「ミーナ、手を出せ」

「はい?」

コウヤはミーナの手を握ると魔力を送り始める。

「ん…はぁ」

「終わったぞ」

「ありがとうございます」

ミーナは少し頬を向上させていた。コウヤはそのままタバコに手を伸ばす。

「ここ、禁煙ですよ」

「…咥えただけだ」

コウヤは火をつけつけようとした手を引っ込める。ミーナはそれを確認してコーヒーを淹れた。

「禁煙しないと長生きできませんよ」

「いざという時は、お前がいるだろう」

「はいはい」

呆れたようにため息をついてミーナは話を変えた。

「そういえば、知ってたようですよ。テンマ君」

「だろうな。それより心配なのは、リトルが絶対壊れないことだな」

「ですね…。あの子は不思議ですね、本当に」

「あぁ…」

2人は笑みを浮かべながら、コーヒーを啜った。

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