リトル君の魔法学園生活

鬼灯

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77_黒の王

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フィルside


「ララに誓って。ご大層な事だ。だから、闇につけ込まれるんだよ」

「ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。光の王、火の王」

七つの大罪は理事長室で罰の悪い顔をしている。特にルクスリアは顔を真っ青にしている。

「処分は死刑でよろしいかと思います。既に上層部にも伝えております」

「それを決めるのはお前じゃない。黒の王だ」

闇魔法を統べる黒の王。世界一の嫌われ者。
しかし、性格は歪んでいるが無慈悲ではない。減刑の余地を見出すだろう。

「これで分かっただろう。リトルにちょっかい出すんじゃねぇよ。普通に学園生活送ってろ」

「任務ですから」

「任務ねぇ…」

ため息が出る。なんでこうも頭が固いのか。

「黒の王には連絡取れたのか?」

「水晶で通信を図ってはいんすが、なんせ気まぐれな方でありんす。返事はありんせん」

「あいつ…。俺が直接連れてきてやろうか…」

「辞めなんし。黒の王に関わると気力が減るでありんす」

遠い目をするレルクに俺は頷く。

「はぁ、一時的な処遇はお前が決めてくれ」

「そうでありんすね…。とりあえず無期限の謹慎でありんす」

「それだと、任務が遂行できません」

納得がいかない様子で抗議をする。立場を分かっているのか。

ピクっ

俺は人の気配を感じた。ここにいるメンバーのものではない気配、レルクも気づいた様子でため息をついた。魔法で姿を消し、この状況を楽しんでいる変わり者。正体は分かる。

「異論は認めはせん。ただし…そこにいる黒の王が直接処遇を決めるなら、話は別でありんすが」

パチンッ

俺が指を鳴らすと、何もなかったはずの場所の空気の流れが変わる。そこに現れたのは魔物の骨を頭に被った男だった。

「やぁやぁ、フィル、レルク。久しぶりだねぇ」

顔で唯一見えている口をニヤニヤさせている。

「久しぶりじゃねぇよ。連絡しろ」

「ごめんねぇ、寂しかったよね、フィル」

「…殴る」

「辞めなんし、いつものことでありんす。殴るだけ無駄でありんす」

「ちっ」

俺は舌打ちをして、拳を納める。

「7つの大罪にはまた処遇を通達するでありんす。今日は帰りなんし」

「任務の遂行を優先にご検討ください。処遇が決まるまでここにいます」

「だめだよぉ、王の言うことに逆らっちゃ」

黒の王がそう言うとアワリティアは諦めたように目を伏せた。

「分かりました。ホームに帰還します」

そう言うと、転送魔法で去っていった。ホームとは彼らの所属する暗部の拠点だ。

「んで、どうするんだ」

俺が尋ねると黒の王は考えるように顎に手を当て、なにかを思い付いたように手をポンッと叩いた。

「お咎めなし、ってのはどうかな?」

「あ?」

「怖い怖い、でもねぇ、予想外だよ。ルクスリアを入り口にするなんて。それに向こうはある程度情報を持ってるみたいだしねぇ。フィルの弟子…息子かなぁ…クク、名前はなんだっけ」

「リトセクトル、リトルだ」

「そうそう、リトル君だ。リトル君の友達は全員擦り傷ですんでいたでしょ。本人は傷だらけだったのに。あれは謀られたんだよ。意図的に」

「そうだろうな」


「とりあえず、あの子達には今後入り口にされないように魔法をかけておこうねぇ。今後もあの子達には護衛もかねて任務に当たって欲しいからねぇ」

「対策としてはそうしてくれ。任務は、戦力としてはまぁまぁだが…」

「戦力ならうちの生徒会や風紀委員もいんす」

「手厳しいなぁ…あの子達に学園生活を送って欲しかったんだがねぇ」

「難しい話でありんす」

7つの大罪。それぞれが罪人であり、存在を消され、暗部として新たに名前を与えられた魔法使いたち。到底、普通など求められる立場ではない。

「それに、リトルは色欲と共鳴した。今後も誰かとどこかで闇と共鳴する。それが7つの大罪とは限らない。なるべく、闇からは遠ざけるべきだ」

「それは過保護すぎるねぇ。過保護と言うより現実逃避かなぁ?ねぇ、7つの大罪は人数を減らしつつ、側に置いておこうよ」

「…わざと7つの大罪に共鳴させる気でありんすか?」

「変に敵に共鳴するくらいなら目の届く範囲で味方に共鳴してもらった方がいいでしょ。それにルールがあるでしょう。共鳴するのは8人……。元々、7つの大罪は共鳴が始まった際に生け贄にするはずだったでしょ?」

「生け贄って言うな…。昔から決まってたことだ」

「何を恐れているのかなぁ…。それとも、野放しにして囮として使うかい…?」

ククっと笑いをこらえる黒の王が腹立たしい。分かっている、自分が甘かった。共鳴はいずれ起こることだ。それでも、ずっと平穏が続けばいいと思っていた。どうにもならない。これが運命だ。昔から決められたどうしようもない運命……。

「はぁ、レルクはどう思う?」

「今は情報が少ないでありんす。そもそも、相手の情報源はどこでありんしょう。リトセクトル君のことは極秘事項でありんす。今は守ることしかできんせん……理事長としてわっちの生徒を囮にするのは気が進まないでありんす」


「くそっ…」


分かっている。不確定要素が多い中では、それが最善策だ。俺はリトルこの流れを止められない……。

「決まったみたいだし、私は帰るよ。また会おう、同胞よ」

黒の王は転移魔法で去っていく。レルクは息を吐き、コーヒーをいれ始めた。

「どうも悪い方向に進んでいる気がするな…」

「否定はしないでありんす」

目を伏せ、床をみる。王になっても守れないものは存在する。一番守らなければならないものが手からこぼれ落ちていく。

「あいつはほんとに不幸だな…」

「…あの事件が起きたときから予想できた未来ではありんす。リトセクトル君が何を抱えて、何を思うか。道を踏み外さないよう周りが見守るしかないでありんす」

「なんだかなぁ…」

差し出されたコーヒーを受け取り、お礼を言って飲み始める。広がっていく苦味に息を吐く。


「フィル、きっとリトセクトル君にとっての要はお主でありんす。どんなに忙しくても手を離してはだめでありんすよ」

「分かってる…」


我、天命の罰に繋がれし咎人なり。
願わくば、我…苦しみの海に消えることを…
そして、
再び大空へ羽ばたくために翼を与えたまえ。


ー…汝は愛すべき黄昏の子なり。

「トワイライト…」


俺の呟いた言葉は、部屋に響いて消えた。
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