リトル君の魔法学園生活

鬼灯

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81_月夜の夜に言葉は消える

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合宿に朝は早い。空が白んできたばかりの時間に集合とか何なの。

ヒルエに起こされるまで、しっかり寝たはずなのに眠い。点呼を取る声を聴きながら、俺は欠伸をした。

「今日の合宿は各クラスの担任と生徒会長が同行するようになってるから、何かあったら声かけるように」

そう言えば、野外に出るときは会長か副委員長が同行するって言ってたな。じゃあ、会長は護衛のために来るのか。この黄色い声援の中、ご苦労様だ。

「合宿先は黒の森手前だ。奥には行くな。強い魔物が居るぞ。本格的に黒の森に入るのは明日だからな。転送魔法は今日は使わんから、各々のグループ馬車で移動してもらうぞ。指定された馬車に乗れよ」

コウヤ先生の号令で各々指定された馬車に乗り込む。馬車と行っても空間魔法で中は広い。流石、コウリアだ。

「俺様もここに乗る」

そう言って、乗り込んできたのは会長だった。やっぱり護衛で来たのか。各々が挨拶していく。

「会長、よろしくお願いします」

「合宿の内容には一切手出ししないから頑張れよ」

頭をポンポンと叩かれる。そうしている内に馬車は出発した。

「そう言えば、何で馬車なんだ?転送魔法でいったらダメなのか?」

「リトル君可愛いこと言うね」

インディアが俺のほっぺをつつきながら言う。何も可愛いこと言ってねぇよ。

「リトル、転送魔法だと干渉されたら、どこに飛ばされるか分からないでしょ」

セルトが優しく笑いながら教えてくれる。

「干渉とかできるの?」

「お前…魔法の勉強もう少ししろよ」

「まぁ、レアケースだし知らなくても仕方ないだろ」

ヒルエが呆れた目で見てくる。それをギルがなだめてくれる。ヒルエが隣に座ってくれたらこんな目を見なくてすんだのに。インディアと会長っていうイケメンに囲まれる俺の気持ち考えろよ。ちなみにインディアは強引に隣になった。喧嘩になりそうだった。止めた俺凄い。


「まぁ、予防できるところはしていかないとな。馬車なら魔法で干渉された時に分かりやすいし、守りやすい」

「すいません…」

なんかここまでしてもらって申し訳無い。

「俺様が護衛に来てるんだ。安心しろ」

「それはとても安心ですよ」

会長に勝てる生徒なんて居ない。

「僕もリトル君の護衛なんだけどなぁ」

インディアは俺に抱きつく。辞めろ、離れろ。押し返してもびくともしない。抵抗している俺の体は誰かに引っ張られた。

「調子に乗らないで」

引っ張ったのはセルトのようで、俺はセルトの腕の中に収まっている。

「リトルはここに座って」

セルトは先ほどまで座っていたヒルエとギルの間を譲ってくれた。セルトは会長とインディアの間に座る。

「まるで姫様だな、リトル」

「あはは…」

会長が面白そうに笑っているのを、俺は乾いた笑い声で返した。







######







馬車が止まり、降りると開けた平原だった。森の入り口だ。他の馬車も続々と集まってくる。森の中に入るには明日からだから、今日はここで纏まって過ごすのだろう。



「各々、テントを展開して行けよー」


コウヤ先生がダルそうな声で言った。テントの展開って何だ。

「ギル、頼む」

ヒルエがギルに向けて、魔力玉を投げた。

「それ、何だ」

「錬金術だ。魔力玉の中に物質が入っていて、魔力を入れるとテントならテントの形になる。込める魔力量や質でテントの形も変わる。俺たちにはギルが居るから安心だ」


確かに魔力量で言ったら、ギルが最強だ。


「俺に上手く出きるか分からないが、やってみる」

ギルは魔力玉に魔力を込めていく。透明な魔力玉が黒くなった。その魔力玉を地面に向かって投げる。

投げた場所には大きなテントが建っていた。

「流石、ギル。立派なテントだね」

セルトが中に入って感動している。俺も続いて中に入った。

「広っ、」

すごく広い、普通に俺の部屋以上ある。これはもう合宿って言うレベルじゃない。通常はSクラスと一緒に合宿することはないから、ラッキーだった。

「ちょっと魔力を込めすぎたか?」

「広いに越したことないだろ」

ヒルエがさっさと中に入って寛ぐ姿は流石としか言いようがない。

「インディア、入らないのか?」

「あ、あぁ、入るよ…」

インディアはテントの前で立ち止まっていたが俺が声を掛けると、中に入ってきた。

「夜は真っ暗になるね」

「そっちの方が寝やすくて良いだろ」

明るいテントなんて逆に聞いたことない。

「荷物片付けたらご飯作らないとだね」

そうか、今日は自炊になるんだもんな。材料は支給されているし、水も火もヒルエとセルトが居るから困らない。あれ、このメンバー最強なんじゃないか。


「じゃあ、俺は材料切る係で。水と火はヒルエとセルトよろしく」

「じゃあ、僕も切るよ」

「俺もその辺でしか役に立たないから」

インディアとギルと俺が料理を作る事になり、セルトとヒルエがその他準備に回った。









#######









「ん…」

俺は暗い中、目が覚めた。携帯で時間を見るとまだ深夜だ。トイレに行きたい。

俺はテントの中にある簡易トイレに向かう。トイレもちゃんと水洗で個室ってギルの魔力凄い。布団を敷いても余裕で通路できてるし。

トイレをすまし、自分の布団に帰ろうとすると、外で火が揺らいでいるのが見えた。そう言えば、インディアが居ない。俺は外を覗く。

「怖くないよ…怖くない。大丈夫、朝が必ず来るから、大丈夫」

自分の膝を抱えて、ぶつぶつ呟いているインディアがいた。夜が怖いのか…?

「インディア…?」

俺はインディアに声をかける。インディアはゆっくりと顔を上げる。七つの大罪はみんな赤い目をしている、その赤い目が俺をまっすぐ見つめる。

「リトル君…。どうしたの?こんな時間に」

「トイレに目が覚めて…。インディアは?」

「僕はね…。暗いところが嫌いなんだ。テントの中には入れなくて」

俺はインディアの隣に腰を下ろす。夜が怖いんじゃなくて、暗闇が怖かったのか。

「大丈夫か?」

「火を炊いてれば大丈夫だよ」

「ちょっと待ってて」

大丈夫には見えない。俺は室内に入り、荷物を漁ると目的のものを持って外に戻る。

「光は平等に世界を照らす救いなりーライト」

俺は詠唱する。回りは白い光に包まれる。まぁ、回りに迷惑にならない程度に。

「あか、るい…」

驚いているインディアに俺は手に持っていたチョコレートを手渡す。

「くれるのかい?」

「一緒に食べよう。ライトの魔法は夜明けまでつけておくから」

インディアはフィルムを開けてチョコレートを口にいれる。

「チョコなんて食べたの久しぶりだな」

「そうなのか?」

「任務で忙しくて、食事は栄養を取れれば良いって思ってたから。でも、いいね。こういう味があるんだね」

微笑んで言うインディアに俺もつられて笑う。
多分、二人っきりになったこと怒られるだろうけど、無視することはできない。

「ふぁー」

俺は欠伸を漏らす。眠たい。

「リトル君、寝て良いよ。魔法は起きてなくても持続するんだし」

「でも…」

「大丈夫、リトル君が寝不足になる方が僕は悲しいよ」

インディアは俺を風魔法でテントの前まで運ぶ。インディアは風属性だったんだな。

「じゃあ、お言葉に甘えて…」


俺はしぶしぶテントの中にはいる。もしかしたら1人になりたいのかもしれないし。


















「ああ、また欲しくなってしまう。後悔なんてしたくないのに」


月夜の空に言葉は消えた。
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