リトル君の魔法学園生活

鬼灯

文字の大きさ
91 / 102

91_本物

しおりを挟む


目が覚めると見慣れた保健室の天井だった。最近は保健室の常連になっている。

「起きたか」

ベットの横の椅子に居たのはスペルビアだった。べーっと舌を出して、青いバラを俺に見せた。

「見たんだな、僕の罪を」

「ごめん…」

「いいや、謝らなくても良い。リトルに知られたってやることは変わらない。残り768人の命を探すだけだ」

「そうか…」

「止めないのか…?」

「止めることが正しいのかな…。止められても、なにコイツって俺なら思う。俺が正しいと思うことが、スペルビアにとって正しいことだとは思わないよ。ただ俺は、スペルビアがこれ以上傷ついて欲しくないっとは思う。命を奪う行為がお前を傷つけるならやめた方が良い」

「…やめられはしない。偽物が本物にはなれないように、罪人が聖人になれないように、恨みが愛情に変わることがないように、僕が強欲な願いを捨てられることはない」

「そうか…」


スペルビアは覚悟を決めているのだろう。その結果が、どのようなものであっても必ず受け入れるのだろう。

「お茶会をしよう…雨も止んだ。お前と2人でお茶会がしたい」

「分かった」


ミーナ先生には勝手にベットから動いて怒られてしまうだろうな。それでも今は、お茶会をしよう。









############







シープさんがお茶会の準備をしていく。シープさんは確かに首を落とされたんだけど、土人形は死ぬことはないらしい。良かった。

「僕は人より魔法が得意で、マナー苦手だった。そんな僕を見かねて、母は定期的にお茶会をしてくれた。それが僕には嬉しくて、大切な時間だった」

だから、スペルビアはお茶会をしようと最初に言ったのだ。確かにお茶会の時間はメンバーがメンバーなだけに大変だったが楽しかった。

「シープさんも一緒に飲もう!」

「いえ、私は執事ですので」

「いいからいいから!」

俺は強引にシープさんを椅子に座らせる。シープさんは驚いているが、かまわない。

「どういうつもりだ」

「良いんじゃないか」

「は?」

「本物とか偽物とかそういうの。うまくは言えないんだけどさ、これは偽物じゃなくて別の本物なんじゃないか。シープさんはスペルビアの執事で俺はスペルビアのお茶会仲間」

スペルビアは目を大きくしてビックリしている。俺、変なこと言ってしまっただろうか…スペルビアは大きく息を吸うとゆっくり吐いた。



「不思議だ。なんだか久々にお茶の味を感じた。シープ、お前のお茶はあいつと同じ味がしたんだな」

スペルビアのこんな穏やかな笑顔を初めてみた。いつもは自信家で偉そうで、しかめっ面が多い人だった。

「今、スペルビアがシープさんの名前呼んだよ!」

「光栄でございます、坊っちゃん!」

シープさんは嬉しそうにスペルビアにおかわりのお茶をいれる。ほら、人形なんかじゃない。これは絆だ。

「うるさい!名前がないと困ると言ったのはお前だろう」

「そうだよー!呼びやすくて良い名前だろ!」

「はい、とても良い名前でございます。ありがとうございます」

「甘やかすな、シープ」

そっぽを向いて恥ずかしそうにしているスペルビアがとてもかわいく見えた。






ーまるで僕の弟のよう。






「ッ!」

俺は急に立ち上がった。その衝撃でティーセットが倒れ、紅茶はテーブルクロスに染みを作る。

俺に弟なんていない。おかしい、自分の中になにかがいる。


「フィルさん…」

俺は震える手でケータイを出して電話をする。コール音が聞こえる。

『もしもし、リトル?』

フィルさんの声が聞こえるのに手がうまく動かない。耳に当てることもできず、小さな声でフィルさんが何度も呼んでる。しゃべらなきゃ。

「シープ、あの同室者を呼んでこい。落ち着けリトル、白の王に連絡しているんだろう。しっかり耳に当てろ。ゆっくりしゃべれ」


スペルビアは冷静にその場を指示すると、俺の手を支え、ケータイを耳に当ててくれた。

「フィ、ルさん」

『リトル、何かあったのか!?どうした?』

「自分の、中に誰かがいる…。誰かの記憶が…」

『大丈夫だ、リトル。お前はお前だ。お前の中に何が居ようとお前だ。お前の近くに誰がいるか?』

俺はスピーカーにしてスペルビアにも聞こえるようにする。

「七つの大罪の強欲だ。僕がいる」

『強欲、リトルの耳にピアスがあれば、魔力を流してくれ』

「わかった」

スペルビアは耳のピアスに触れた。魔力を流してくれる。暖かい魔力が体を巡っていくのが分かる。

そこで俺の意識はなくなった。








しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

もう観念しなよ、呆れた顔の彼に諦めの悪い僕は財布の3万円を机の上に置いた

谷地
BL
お昼寝コース(※2時間)8000円。 就寝コースは、8時間/1万5千円・10時間/2万円・12時間/3万円~お選びいただけます。 お好みのキャストを選んで御予約下さい。はじめてに限り2000円値引きキャンペーン実施中! 液晶の中で光るポップなフォントは安っぽくぴかぴかと光っていた。 完結しました *・゚ 2025.5.10 少し修正しました。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

俺の居場所を探して

夜野
BL
 小林響也は炎天下の中辿り着き、自宅のドアを開けた瞬間眩しい光に包まれお約束的に異世界にたどり着いてしまう。 そこには怪しい人達と自分と犬猿の仲の弟の姿があった。 そこで弟は聖女、自分は弟の付き人と決められ、、、 このお話しは響也と弟が対立し、こじれて決別してそれぞれお互い的に幸せを探す話しです。 シリアスで暗めなので読み手を選ぶかもしれません。 遅筆なので不定期に投稿します。 初投稿です。

ラベンダーに想いを乗せて

光海 流星
BL
付き合っていた彼氏から突然の別れを告げられ ショックなうえにいじめられて精神的に追い詰められる 数年後まさかの再会をし、そしていじめられた真相を知った時

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

処理中です...