リトル君の魔法学園生活

鬼灯

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90_強欲の罪

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明日は雨だと昨日は何回も思ったが、本当に雨が降ってしまった。俺はいつもの庭園を温室で眺めている。ちなみに、今日はヒルエだけに着いて来てもらった。セルト達に迷惑をかけるのはまだ気が引けるため、今日は中止と言っておいた。

「スペルビア、雨でもお茶会すんの?」

「しない、雨は嫌いだ。それに…」

スペルビアはシープさんを作り上げる。しかし、いつもより脆いようで動く度に砂が溢れている。

「雨の日はコイツとの相性が悪い。しゃべることもできないから、今日は給仕がいない」

「シープさんと話せないのは残念だな」

「ただの土人形だ。名前も勝手につけるな」

「いや、名前は必要だよ」

俺は食いぎみにスペルビアに返した。スペルビアは眉間にシワを寄せる。無言が少し続き、無言破ったのは、ヒルエだった。

「そんなことより、強欲は共鳴しかけてる自覚はあるのか?」

「ある…。だが、不思議な感覚だ。伝えるのは難しい」

頬杖をついてつまらなそうに外を見る。雨は激しく降っている。帰るときは傘をさしていても濡れるだろう。火属性のヒルエは嫌がるだろうな。

「雨が嫌いなんだな…」

「嫌いだよ、雨は…伏せろ!」

スペルビアは俺の頭を手で押さえ床に押さえつけた。目の前にはシープさんの首があった。

「執事…」

「おい、何も魔力を感じなかった。強欲は!?」

「一瞬だけ魔力を察知した。出来が違うんだ。でも、もう魔力は感じな…い」

スペルビアはフラフラと倒れる。意識はあるようだ。

「何なんだ、この匂い…」

「匂い!?」

ヒルエが回りを見渡す。そこには一輪の花が落ちていた。

「リトル、口を塞げ!眠り花だ!っ」

ヒルエは叫んで俺を呼ぶが、そのまま床に倒れる。

「ヒルエ!?」

俺も意識が薄くなっていく、これはまずい。レンの魔力玉もこんな意識の中じゃ使えない。この場から逃げないと。2人を連れて…。

「危害を加えるつもりはないから、そのまま寝なさい」

誰の声か分からない声が聞こえた。そこで俺の意識はなくなった。









#########










また同じ感覚だ。体は動かせない。誰かの記憶の中ー…。いや、スペルビアの記憶の中だ。

目の前には幼いスペルビアと執事の人。お腹に包帯を巻いて、民家のベットに寝ている。顔には生気がなく、呼吸は浅い。

「俺を追いて行かないで…!死なないで、●●」

「おいたわしや。どうしてこんな苦痛を坊っちゃんが味わなくてはならないのか。私はもう終わりです、坊っちゃん。強く、気高く生きてくだされ」

目を閉じた執事にもう息はなかった。スペルビアは泣き叫ぶ。しばらく泣き叫ぶと、今度は嘘みたいに冷静になっていた。その目には光が宿っている。綺麗な光じゃない。誰かを憎む光だ。

「強く、気高く生きるよ。貴族の誇りをもって」

スペルビアは執事の体を土で包む。土葬する習慣ではないが、火葬する時間はないのだろう。スペルビアはガウンのフードを被って家の外に出る。

広場には人だかりができていた。スペルビアは人混みの奥へと進んでいく。人にぶつかろうが、ただ前だけを見ている。

奥には処刑台があった。
そこに居るのはスペルビアの父親と母親。
母親はもう死んでいた。

「悪の貴族に制裁を!石を持て!投げろ!」

意思を投げる民衆達。それがどれだけ残酷な行為なのか分かっていない。一人一人が石を投げることを正義だと勘違いしている。

暫く石を投げられていたが、父が声をあげた。もうしゃべることできないっと思っていた民衆は手を止めた。

「石を投げること、それが君たちの総意なら仕方がない。しかし、私たちは訴えることをやめない。私たちは貴族として間違ったことは決してしていないと!意思もなく、流されるまま投げる石では私達は屈しない。殺意と怨みと悲しみだけだ。私達が受け止めるのはそれだけだ!」

叫んだ父親はそのまま息を引き取った。それでも、石を振りかぶり民衆は死体に向かって投げる。

スペルビアは処刑台の上に上がり、石を防いだ。幼い少年が魔法を使ったことに驚いた民衆は石を投げる手を止める。


「貴族の誇りのために、強く生きよう」

スペルビアは魔法を発動させる。その魔法は土石流を起こし民衆を飲み込んでいく。逃げ惑う民衆達。スペルビアはこの年にして高等魔法を極めていた。

土石流が広場を埋め尽くす。土と石にまじって死体の山ができあがっていた。

「数えなきゃ…」

「あーあ、沢山の魂をありがとう。僕を呼び出してしまったね」

スペルビアの後ろには幼い少年が立っていた。どこから現れたのか分からないが、スペルビアはくすんだ瞳で少年を睨む。

「悪魔…」

「正解、君は賢いね。僕は強欲のマモン。さぁ、君の望みを言ってごらん。契約しよう。君の魂が欲しい」

悪魔は強引に契約しようとする。スペルビアは抵抗しない。

「可愛い子、教えてよ。君の欲望を」

「僕達を陥れた2306人の命が欲しい!」

「そう…あと1567人の魂の回収だね。その願い聞き届けたよ。強欲ぼくに相応しい願いだ」

「僕は強欲で良い。それが貴族だ。父とは同じになれなかった貴族だ」

「契約成立だよ。可愛い僕の子」

悪魔はスペルビアの口を手で塞ぐ。悪魔はそのまま指を口の中に入れてスペルビアの口を開くと、舌を引っ張りだし、顔を近づけ、舌を噛む。顔を歪ませるスペルビアの舌には青いバラが咲いていた。


「この子をあげよう。君の魔力で何度でも蘇る土人形だ。貴族には執事が必要だからね」

「偽物だ…」

「どうせ君も偽物だよ」

「そうだな…。僕は貴族の皮を被ったただの罪人だ」

「良いんだよ、偽物でも罪人でも。その強欲な願い。僕が愛してあげるさ」

「スペルビア…」

スペルビアの名前を小さく、そこで俺の意識は闇の中に消えた。
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