リトル君の魔法学園生活

鬼灯

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96_記憶

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俺はゆっくりと呼吸をする。その呼吸に合わせ、セルトは涙を流していく。

「こんな僕をリトルは軽蔑する?」

「しないよ…。俺はセルトの友達だから」

抱きしめて背中をさせると、徐々に鮮明になる鼓動。ああ、分かってる。この悲しみに不覚にも俺は潰されそうになっている。なんだか寝てしまいそうだ。混濁していく。

「リトル、セルトから離れろ!」

ヒルエは俺とセルトを勢いよく引き離す。引き離されたセルトはギルが受け止めて抱きしめている。

「ヒルエ、急にどうしたんだ??」


「ギル、いったんセルトに魔力を流して落ち着かせてくれ、リトルが共鳴しかけた」

「それは大丈夫なのか……」

混濁する意識が徐々に戻っていく。

「ヒルエ……?」

俺が名前を呼ぶとヒルエは苦い顔をした。

「リトル、共鳴する人数は決まっている。これはとても大事なことなんだ。8人、七つの大罪とは必ず共鳴しなければならない。罪と闇と強さ。厳選されたメンバーなんだ……」

「8人……。あと1人は?」

「それはいずれわかる……。お前にとって最も憎らしいやつだよ」

俺にとって最も憎らしいやつ。俺は俺以上に恨んでる人間なんていない。

「リトル……。ごめんね……。僕は結局迷惑をかけたままだ……」

セルトはギルと離れ俺に近づいてくる。俺もヒルエと離れる。

「セルト、セルトの気持ちは分かったよ。でも、俺はヒルエのルールを変えることはできない。セルトとギルを傷つけたくないんだ。これはセルトたちに対する信頼とは別で…友達だから嫌なんだ」

「分かった…」

セルトさん、なんだか顔が近い気がする…。俺が思わず目をつぶると、ちゅっという軽い音と額に柔らかい感触があった。

「これで、僕は納得してあげる。いずれ、ここにも頂戴ね」

小悪魔のような顔で指で自身の唇をなぞる。イケメン、滅べ。真っ赤な顔でパクパク口を動かすことしか出来ない俺は突然腕を引っ張られてバランスを崩す。

ちゅっと今度は頬に柔らかい感触があった。ギルが頬にキスをした。

「ズルいだろ、それだけは」

顔を赤らめて言ったって俺の方が恥ずかしいに決まってる。なんなんだコイツら。

「ヒルエー、平凡で癒して」

とりあえず、ヒルエに抱きついて顔を隠す。こんな顔は見られたくない。見られたくないんだ。

「おー、よしよし。という訳でお前らはもう帰れ。俺は寝る」

ベリっと俺を剥がすとヒルエはお風呂の準備を行う。

「今日はもう遅いから、帰るね。バイバイ」

「長いして悪かった」

「全然平気、また来いよ」

明日は休みだし、少しホッとする。いや、心の準備はさせて欲しい。キスなんてした事ないんだから、まぁ、口じゃないしいいけど。

2人は手を振って帰っていく。

「ちなみにお前、ファーストキスはもう済んでるぞ」

「え、」

ヒルエさんは何を言っているのだろうか。俺の記憶にはそんなものは無い。

「覚えてないか…」

「ヒルエ?」

俯くヒルエの顔を覗き込む。最近のコイツは何を考えてるのか分からない。

「いや、馬鹿だなっと思って」

「ヒルエさん?急に罵倒するのはどうかと思う。俺がヒルエより先にお風呂に入っちゃうよ?」

「風呂場で犯すぞ?」

「嘘です、ごめんなさい」


いつもの調子のヒルエに安心する。俺の日常がどれだけ変わっても、ヒルエとフィルさんはいて欲しい。違う、いなきゃダメなんだ。そうでなきゃ、いけない気がする。でもどうして…。フィルさんは大切な俺の家族で、ヒルエは……。

「記憶を探るな。まだ早い」

ヒルエが手で目を覆うと俺の意識はそこで失くなった。



----------

眠りについたリトルを抱えてリトルの部屋に戻る。最近、色々あって寝不足だ。丁度いいだろう。



「焦りすぎたな…」


いずれバレる事なのに焦って、誤魔化して、傷つけて、忘れさせて。きっと最後には嫌われて、捨てられる。ゲームで言うところの裏切り者のラスボス。主人公に倒されて、消えていくだけ。

それでいい。それでもいいっと覚悟を持ってあの時選択したんだ。

全てはこの国と愛しい人のために。

「はぁ…」

ため息が響いて消えれば、心は落ち着く。
お風呂に入ろう。今日は重い話が多くて疲れた。

リトルの額と頬にキスを落とす。

「消毒だ…」

俺は部屋を出て風呂場に向かった。
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