さよならルーレット

夏目とろ

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 それから更に何日かが過ぎ、幾分か気温が下がったからか、ようやく過ごしやすい気候になった。僕はと言えば相変わらずで、問題はどうやって彼に近づくかということだった。
 彼の周りにはいつも誰かしらがいて、話し掛けるきっかけがどうにも掴めない。陰からこっそり彼を見つめるも、子供だった僕は、彼に声を掛ける勇気も出ないでいた。

「……はあ」

 大きな溜め息を一つ。目をゆっくりと閉じ、再び開けて顔を上げる。すると、

「わあ!」

 見慣れつつある顔のドアップが目の前に迫り、思わず大きな声を出してしまった。

「び、びっくりした。なに、村田くん」
「溜め息を一つつくと、一つ幸せが逃げてくんだってよ」

 あの頃から、神出鬼没だった村田はニヤッと不敵に笑い、後ろ手を振りながら向こうに行ってしまった。

「分かってはいるんだけどなあ……」

 分かってはいるけど、話の腰を折るのは悪いし、自然に話の輪に入るような高等な技もできそうにない。

「ねえ。ビートルズ好き?」

 何度も一人で練習はしてみるが、練習の成果を発揮する機会も訪れそうもない。

「……なーんてね」

 独り言なんて言って暗いやつだと思われないかな。いつもはそんなふうに思うのに、その時はそれどころじゃなくて。
 柄にもなく真剣に考えるも、いい考えはどうにも浮かばない。彼がうちのクラスに来てからそろそろ二週間になろうというのに、きっかけが掴めないまま、いつの間にか時だけが悪戯に過ぎてしまっていた。

(――なんとかしなきゃ)

 佐武くんと彼を中心とした話の輪を遠巻きに見遣りながら思う。村田もヘラヘラ笑いながらその輪に加わっていて、明るい笑顔の輪が広がっていた。
 その中でも一番綺麗な笑顔の持ち主が彼で、彼はまるでお日さまのように笑う。笑顔がこぼれるってよく表現されるけど、彼の笑顔で初めてそれを実感したっけ。

 給食の時間が終わった昼休み。授業と授業の間の普通の休み時間より、ちょっとだけ長い休み時間、

(……無理っぽい、な)

 今度はヘンなやつに思われないよう心の中で呟いて、僕はそっと教室を抜け出した。
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