さよならルーレット

夏目とろ

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 それから昼休みが終わるまで、僕らはいろんなことを話した。

「ジュン」

 彼が僕を呼ぶその声は優しくて、名前を呼ばれるたびに胸がキュンとなる。僕は僕で『ジョンくん』そう呼んでいたら、

「ジョンでいい」

 そう言われた。それからは彼をジョンと呼ぶことになり、僕らは急速に仲良くなった。


 季節はそろそろ本格的な秋を迎えようかという頃で、

「ねえねえ、ジョンくん」

 とは言っても、休憩時間にジョンの周りの人垣が外れることはない。僕はと言えば、なんとなくその輪に加わるのは気が引けて、相変わらず遠巻きに見ているだけだった。

「なに?」

 ジョンは無理に僕を呼ぶようなこともなく、授業の合間の休憩時間や放課後にジョンと話すことはなかった。それでも、ぼんやりとその様子を遠巻きに見ていても、不思議と以前のような切なさはない。
 お天気のいい昼休み。いつしか僕らは、屋上で落ち合うようになっていたから。


「ジュンかして」

 青く澄み渡る空を背負って、青い瞳の彼が笑う。

「はい」

 ドキドキしながらそれを手渡すと、心地よいメロディーが流れて来る。

 その瞬間がとても好きだった。彼のブルースハープの腕前は僕とは比べものにならなくて、目を閉じているといろんな情景がまぶたの裏に浮かぶ。
 どこまでも広がる黄金色の麦畑、青い、青い空。空想の中の外国の景色のはずなのにどこか懐かしく、いつかどこかで見たような気がした。

 今になってようやく気づく。あの日、瞼の裏に浮かんだ情景は、彼が暮らしたロンドン郊外のこの風景だ。
 これもデジャブだと言っていいのだろうか。大学生の僕が意識して消してしまった記憶の欠片かけら


 ねえ、ジョン。君がもしもあの頃のままで僕の前に現れたら、今度こそちゃんとさよならを言うよ。
 いや、言わせて欲しい。だからお願い。何も言わずに僕の前から消えないで。

 ハモニカを君に手渡す時、ドキドキしていたのを君は知らないよね。君の唇がそっと触れた瞬間、間接キスだ、だなんて一人で喜んで。
 短期留学生っていう名前の通り、いつかは帰国してしまうって分かっていた。

 それでもちゃんとその時は、笑ってさよならを言おうと決めていたのに。
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