さよならルーレット

夏目とろ

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 どこまでも青い空と澄んだ空気。それに目の前に広がる海が、あの頃の僕らの全てだった。

「ロンドン、か。遠いね」

 フェンス越しに眼下に広がる青を眺め、思わずぽろりとこぼしてしまう。短期留学生のジョンは当然、留学期間を終えれば帰国する。この海を渡って、ずっとずっと遠くの国へ。

「くる?」
「え」
「ロンドン。いつか」

 案内するよとジョンは笑って、少しだけジョンが住む街の話をしてくれた。ジョンの両親がビートルズが拠点としていたアビー・ロード・スタジオの近隣に移住したのは、両親が結婚した直後のことだったらしい。
 ジョンの両親もうちの両親と同じように、大人になってもバンド活動を続けるほどの音楽好きで、ジョンも子供の頃から自然と音楽に触れていた。ブルースハープやギターも僕と同じように父親から教わっていて、そうなると屋上では自然とセッションが始まった。


 アコースティックギターを持ち込めればよかったが、ギターは目立ち過ぎて無理だった。だからどちらかが歌えば、もう一人がブルースハープで応戦する。

「ラララ……」

 英会話ができない僕だけど、歌詞になると話は別だ。分からない所は『ラララ』でごまかしながらも僕らの音楽は空へと消えて行く。


 ジョン。君は分かっていたんだね。案内するよと言ってくれたけど、それは叶わない夢だって。
 それでも君は笑って、僕は無理矢理、君に約束させてしまった。

「ほんと? 約束だよ。じゃ、指切りげんまん!」
「ゆびきりげんまん?」

 君はそれをどう思ったのか、それでも笑って指切りしてくれた。


 ねえ、ジョン。僕と過ごした短い時間、君は幸せだったのかな。僕は君に出会えた。それだけで幸せだったと断言できるよ。
 結局は君が急に帰国したことが悲しくて、君を忘れようとしてしまったけれど。

「よう、木田。久しぶり」
「あ、村田くん。村田くんもうち受けてたんだ」
「あのさ、ジョンって覚えてるか?」
「……あ、うん」
「ジョンさ。帰国したその日に亡くなったらしいよ」

 中学の卒業式以来だったかな。久しぶり会った村田にそう言われた。

「え」

 大学の入学式。三年振りぐらいに顔を合わせた講堂で。

 その一言をどうしても信じたくなくて、子供だった僕はその一言と一緒に、君と過ごした日々の記憶までもを消してしまった。
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