さよならルーレット

夏目とろ

文字の大きさ
上 下
18 / 41

18

しおりを挟む
 不思議に思ってジョンに目線を移したら、ジョンは真っ赤な顔でふいと顔を背けたっけ。今になって思えば、その頃から僕のことを特別に思ってくれていたのかな。
 その日は日曜日。朝食を食べ終えた僕らは父さんがやっている喫茶店のほうへ行き、当時まだ作成途中だった音楽スタジオを見学させてもらった。

「いいね。パパさん、あっちはステージ?」

 これまた興味津々なようで、ジョンはキョロキョロとあちこちをうろついて、父さんも合わせて三人でセッションしたり。
 父さんと僕がエレキギター。ジョンはブルースハープとアコースティックギター。歌はそれぞれがそれぞれのタイミングで歌い、楽しい時間を過ごした。

 とにかくジョンは、ギターも歌も上手かった。それからブルースハープも。年齢的には無理があるけど、本当にジョン・レノンの生まれ変わりなんじゃないかと思うくらいに。
 父さんと三人、セッションを始めた曲はロックのスタンダードナンバー。ジョン・レノンがソロアルバムでカバーしている曲で、時間を忘れて没頭したっけ。


 どうして忘れられたんだろう。どうやって記憶から消してしまえていたんだろう。封印していた蓋を開けると湯水のように、あの頃の記憶が溢れて来る。
 君と過ごした三ヶ月と短い期間、君はいろんなものを僕にくれたよね。僕は君に何かをあげることができたかな。

 その日の夕方。僕らは再び浴衣を着込み、秋祭りに出掛けた。漁師町特有のささやかなもので、おみこしをかついで海に練り込むお祭りだ。
 体力に自信のない僕らは見学側に回り、大人に混じって先頭で担ぐ村田にエールを送った。ふんどしひとつの姿は見ているこちら側は寒いのに、額に球の汗が浮かんでいる。

「かっこいい。村田」
「うん。ほんと」
「ジュン、ある?」
「ん?」
「おみこし持ったこと」

 担いだことがあるかってことなんだろう。少し笑って、首を横に振る。

「ジョン。持ちたい?」
「うん。けど無理。だからジュンと一緒に見る」

 そう言って僕らは手を繋いだ。人込みの中、誰にも知られずこっそりと。

 今思えば君は、激しい運動は見学していた。君の命のカウントダウンは着実にゆっくりと、その時もされていたんだ。 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

BL / 連載中 24h.ポイント:6,583pt お気に入り:2,722

百鬼夜荘 妖怪たちの住むところ

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,831pt お気に入り:16

顔の良い灰勿くんに着てほしい服があるの

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:482pt お気に入り:0

役目を終えて現代に戻ってきた聖女の同窓会

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,970pt お気に入り:79

転生したら、ステータスの上限がなくなったので脳筋プレイしてみた

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:132

運命の番(同性)と婚約者がバチバチにやりあっています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,138pt お気に入り:30

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:22,941pt お気に入り:1,404

処理中です...