19 / 41
19
しおりを挟む
いったん蓋を開けてしまえば、封印する直前の出来事まで鮮明に思い出すから不思議だ。大学の入学式の当日。実は記憶を取り戻すまで完全に、その日の記憶がまるまる抜け落ちていたと言うのに。
「ジョン、さ。生まれた時から心臓に疾患があって、二十歳まで生きられないって宣告されてたらしくてさ」
村田が何を言っているのかが理解できなくて、その後のことは今も思い出せない。それでも妻の花苗が先立って一年が過ぎ、ようやく落ち着いた頃に村田は言った。
「なあ、ジョンの墓参り行かねえ?」
花苗の死を経験して、ようやくジョンの死にも向き合えた。村田の誘いを受けたのが一ヶ月前のことだ。結局、村田は急な用事が入って来られなくなったけど、それって僕に気を遣ったのかどうか、娘の華と二人でこちらに来たのだ。
少年の僕らが憧れた町。君が死の直前まで暮らしていた町。いつか一緒に歩きたかった。アビーロードの横断歩道、ロンドンの町並みを君と。
「それとさ。お前があんまり落ち込んでたから言いそびれてたんだけど……」
帰国する直前、ジョンは村田にぽろりと零したらしい。帰国したらすぐに準備に取り掛かって、心臓移植手術を受けるって。
二十歳までにはまだ少し命の期限があり、それに賭けていたジョン。移植手術は二十歳に受けると決めて、ギリギリまで我慢することで自分に負けないでいるってそう考えて。
なのに、運命は悪戯に二十歳までの期限、たった三年を待ってはくれなかった。僕ら、クラスメートにも何も言わずに帰国したジョン。急激に体調を崩したのが原因で、そのまま掛かり付けの病院に入院。
そしてそのまま……、逝ってしまった。
ねえ、ジョン。君は覚えてるかな。秋祭りの縁日で、君が意外な才能を発揮したこと。
「ちょ、ジョン。すごいよ!」
君と二人、初めて挑戦した金魚すくい。僕は何度か経験したのにさっぱりで、反対に君はまるで網で掬っているかのような大漁だった。
赤いのや黒いのがぴちぴち跳ねながら、アルミのお椀にするりと移動して行く。その様子はまるで魔法のようだった。
「やるな、兄ちゃん。金魚すくいのプロだな」
お店のおじさんにそう褒められて、君はまるで子供のように無邪気に笑っていたっけ。
「ジョン、さ。生まれた時から心臓に疾患があって、二十歳まで生きられないって宣告されてたらしくてさ」
村田が何を言っているのかが理解できなくて、その後のことは今も思い出せない。それでも妻の花苗が先立って一年が過ぎ、ようやく落ち着いた頃に村田は言った。
「なあ、ジョンの墓参り行かねえ?」
花苗の死を経験して、ようやくジョンの死にも向き合えた。村田の誘いを受けたのが一ヶ月前のことだ。結局、村田は急な用事が入って来られなくなったけど、それって僕に気を遣ったのかどうか、娘の華と二人でこちらに来たのだ。
少年の僕らが憧れた町。君が死の直前まで暮らしていた町。いつか一緒に歩きたかった。アビーロードの横断歩道、ロンドンの町並みを君と。
「それとさ。お前があんまり落ち込んでたから言いそびれてたんだけど……」
帰国する直前、ジョンは村田にぽろりと零したらしい。帰国したらすぐに準備に取り掛かって、心臓移植手術を受けるって。
二十歳までにはまだ少し命の期限があり、それに賭けていたジョン。移植手術は二十歳に受けると決めて、ギリギリまで我慢することで自分に負けないでいるってそう考えて。
なのに、運命は悪戯に二十歳までの期限、たった三年を待ってはくれなかった。僕ら、クラスメートにも何も言わずに帰国したジョン。急激に体調を崩したのが原因で、そのまま掛かり付けの病院に入院。
そしてそのまま……、逝ってしまった。
ねえ、ジョン。君は覚えてるかな。秋祭りの縁日で、君が意外な才能を発揮したこと。
「ちょ、ジョン。すごいよ!」
君と二人、初めて挑戦した金魚すくい。僕は何度か経験したのにさっぱりで、反対に君はまるで網で掬っているかのような大漁だった。
赤いのや黒いのがぴちぴち跳ねながら、アルミのお椀にするりと移動して行く。その様子はまるで魔法のようだった。
「やるな、兄ちゃん。金魚すくいのプロだな」
お店のおじさんにそう褒められて、君はまるで子供のように無邪気に笑っていたっけ。
0
あなたにおすすめの小説
暮色蒼然
珊瑚
BL
「まだ書いているのか」
「君も書いてみたら良いじゃないですか。案外好きかもしれませんよ」
「じっとしているのは俺の性に合わん」
「でしょうね」
間髪入れずに言い放った春壱に、奏介はカチンとし彼を小突いた。彼はまるで猫の戯れだと言わんばかりにさっと躱し、執筆を続けた。
「君は単調ですねぇ。これで遊んでいてくださいね」
そう言って、春壱は奏介に万華鏡を投げて渡した。奏介は万華鏡を素直に覗いたりもしたが、すぐに飽きて適当な本を開いた。
しばらくの間、お互いのことをして過ごしていたが、ふと春壱が口を開いた。
「君、私のこと好きでしょう?」
「⋯⋯? いや」
「はて、私の勘違いか。随分私に執着しているように感じましてね。いや良いんです。違うのなら」
「何が言いたい」
「私も同じ気持ちだなぁって思っただけですよ」
俺はこの頃をどんなに切望したって、時はやり直させてはくれない。
だから、だからこそ春壱のことを見捨ててはいけなかった。
---------
数年前に書いたもので、今見ると気恥ずかしさがありますが、
初めてきちんと最後まで書ききった思い出の作品です。
こういう二人が癖なんだな~と思って読んでいただけると嬉しいです。
※他のところにも掲載予定です。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
クズ彼氏にサヨナラして一途な攻めに告白される話
雨宮里玖
BL
密かに好きだった一条と成り行きで恋人同士になった真下。恋人になったはいいが、一条の態度は冷ややかで、真下は耐えきれずにこのことを塔矢に相談する。真下の事を一途に想っていた塔矢は一条に腹を立て、復讐を開始する——。
塔矢(21)攻。大学生&俳優業。一途に真下が好き。
真下(21)受。大学生。一条と恋人同士になるが早くも後悔。
一条廉(21)大学生。モテる。イケメン。真下のクズ彼氏。
サラリーマン二人、酔いどれ同伴
風
BL
久しぶりの飲み会!
楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。
「……え、やった?」
「やりましたね」
「あれ、俺は受け?攻め?」
「受けでしたね」
絶望する佐万里!
しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ!
こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる