さよならルーレット

夏目とろ

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「ジュン。赤いのあげる」

 君はそう言って、赤い金魚を僕にくれたよね。

「黒いのはボク」

 そう言って、赤と黒、二匹の金魚をビニール袋に入れてもらった。

「あれ、兄ちゃん。それだけでいいのかい」

 ざっと見積もっても15匹はくだらなかった戦利品。

「うん。あとはいらない」

 君は一瞬、泣きそうな顔をしたけど、夜店の金魚は飼うのが大変だってことを知っていたんだね。きっとすぐに死んでしまうって。


 帰り道。黒い金魚を欲しがった理由をジョンは照れながら教えてくれた。

「ジュンの髪と目の色と同じ色だから。とてもきれいな色だから」

 黒が綺麗だなんねて初めて聞いた。真っ黒に塗り潰された、この色が綺麗?

「うん。とてもミステリアスで」

 ジョンは一瞬、真面目な顔をして、

「え、ちょっ!」
「じゃま」

 そう言って僕の眼鏡を奪ってしまった。

「目、かくすのだめ。きれいな目」

 言ってみれば僕のはぼんやりと月が浮かぶ漆黒の夜の空の色で、ジョンのは太陽が笑っているどこまでも青く澄み渡った空の色だ。


「ジュンはきれい。髪も目も、心もぜんぶ」

 君はそう言って、誰もいない神社の境内で抱きしめてくれたよね。

「ボクはきたない。思っちゃだめなこと。いま、思ってる」

 片言の日本語でそう言って、ジョンは口をつぐんでしまった。どうしてそんなことを言うのか聞きたかったけど、結局、僕は聞けないままで。


 ねえ、ジョン。君は自分が汚いって言っていたけど、それを言うなら僕も同じだよ。君は本当に綺麗だった。その顔も、心も、その存在の全てが。
 僕は、そんな君のことを独り占めしたくて仕方なかった。君が誰かと笑うたび、嫉妬で胸が張り裂けそうだった。少年の僕が初めて経験した感情は、少年の僕を散々、苦しめた。


「……ジョン?」

 あの時、君は顔を僕の首に埋めて、何か独り言を言っていたね。

『……純。俺、死にたくないよ。生きたい。だから帰ったらすぐ移植手術の準備に取り掛かる。絶対に約束を守ってみせるから』

 君が何を言ってるのかは分からなかったけれど、あの時、僕はとても幸せだった。
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