さよならルーレット

夏目とろ

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「ほら、はな。起きて。じいじ達におやすみなさいしような」

 この店は一階部分が店舗で、二階部分が居住スペースになっている。当時の実家は既に老朽化が進んで今は取り壊され、今は店舗の二階部分で両親だけで暮らしている。
 僕と華、二人で暮らしているアパートに直帰してもよかったが、帰国後の後片付けやら何やらで華に構ってやる暇がない。

 ならばと少しの間、時差ぼけが直るまで華を預かってもらおうと村田にはこちらに送ってもらった。ズボンのポケットに入れてある店の合い鍵を指で探ると、営業中のプレートが目に入った。
 父さんが店を開けてくれているのだろう。この店は昼間は父さんが喫茶店をやっていて、夜は僕がマスターのちょっとしたバーをやらせてもらっている。

「いらっしゃいま……、おお。おかえり」

 入店してみると案の定、父さんがカウンターでシェイカーを振っていた。


 基本的に内装はそのままに、バーとして運営する夜間だけ棚にそれらしく酒瓶を並べている。カウンターの周りにもそれらしく並べたら、昼間の喫茶店から一変、ショットバーとして利用できるのだ。
 恥ずかしながら花苗の死をきっかけに、それまでやっていた高校教師の仕事を辞めてしまった。それから今の仕事を始めたのだけれど、父さん、母さん、それから村田にもいらない心配をかけてしまった。

「父さん、ありがとう。開けててくれたんだ」
「いや、まあな。まあ、たまには夜もいいもんだ」

 今でもバンド活動をしている父さんは、孫がいるようにはとても見えない。ともすれば僕よりも若く見られがちで、昔はとてもモテていたんだそうだ。
 父さんの傍ら、心配顔で父さんを見守っているのが正規のバーテンダーとして働いてくれている高橋くんで、父さんは高橋くんにシェイカーを渡すと、

「ほら。はな、おいで」

 華を抱えて二階へ上がって行った。


 店内に流れているBGMはビートルズ。基本的に、特別な企画やイベント以外の日にはビートルズの曲を流している。

「高橋くんもありがとう。せっかくの休みだったのに、父さんに駆り出されて災難だったね」
「いや、別に」

 無口な高橋くんはそう言って、父さんから取り戻したシェイカーを振り始めた。
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