さよならルーレット

夏目とろ

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 ぼんやりと月は今夜もそこにある。

 それから我に返った僕は、割ってしまったグラスも片付けて帰路に着いた。大学を卒業した年に家を出た僕は、そんなに実家から離れてはいないけれど両親から独立し、アパートを借りて華と二人で暮らしている。
 徒歩で5分ほどの近隣にあるアパートに帰る道すがら、見上げた夜空に薄くもやが掛かっていた。

 季節は初冬。ロンドンほどは寒くないが、それなりに肌を刺す冷気に身を縮めた。就寝は機内、墓参りだけが目的の日帰りの旅行だったが、一応は準備していた旅行鞄を手に帰路を急ぐ。
 いつの間にか時間は、そろそろ午前0時を迎えようとしていた。


 あれから13年が過ぎ、中学生だった僕も見た目には立派な大人になり、それなりに充実した毎日を送っている。13年の間にもいろんなことがあり、それは一言では語り尽くせない。
 その13年もの長い間、僕はジョンを記憶から消してしまっていた。その間も今も、ジョンは17歳の少年のまま。


 ねえ、ジョン。君は覚えているかな。10月の秋の運動会。君はほとんどの競技を欠場したね。それでなんとなく、体が弱いことには気づいていたけど。
 全校生徒でのフォークダンス。二人、手を繋いで何度も何度も練習したよね。

「ボク、女子になる」
「え。なんで?」
「女子になればジュンとおどれる」

 そんな突拍子もないことを真面目に言うから笑ってしまった。一瞬、ジョンが女の子になってしまった場面も想像してしまって。
 結局、本番は一緒に踊れなかったけれど、練習では何度も何度も繰り返し、しっかり手を繋いで踊った。

「あ。イギリス」

 運動場の上空、柱と柱を結んだ国旗の群れ。その中にイギリスと日本の国旗を見つけ、君と二人。はしゃぎ合った。
 校長先生の奥さんが作ってくれた弁当を広げ、初めての外でのランチに君は興奮してたっけ。最初はぎこちなかった箸の使い方も、帰国前には完璧だった。

 日本人よりも日本が大好きで、日本人らしかった君。君と一緒にこの季節を迎えたかった。


 軽い溜め息をついて見上げた空。

「あ」

 その視線の先に、見慣れた横顔を見つけた。
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