さよならルーレット

夏目とろ

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 思えば、人生って本当に皮肉なものだ。

 ジョンと過ごした記憶に蓋をした僕は、大学時代に花苗と出会い、大学卒業後に結婚。すぐに華が生まれた。
 ゲームの中ではあんなにも子宝に恵まれていたジョンは、子供どころか新たな家族を得ることなく、寂しく独りで短い人生を終えてしまった。

 もしも、あの時の運命が変わってジョンが今も僕のそばにいたら、どんな毎日を送っていたのだろう。そんな絵空事えそらごとを考えては胸を痛める。
 そしたら脳裏に浮かぶ、舌足らずに笑う華の笑顔。


 ねえ、ジョン。もう一度、人生を決めるルーレットを回せるなら回して欲しい。
 ゲームオーバーになるには早すぎる。僕はまだ君にさよならは言えないよ。

 濡れねずみのまま浴室を後にして、再びソファに身を沈めた。腰に一枚、タオルを巻いた姿で。普段は華がいる手前、こんな姿でうろつくことはない。今日は特別に許してもらおう。

 時間はそろそろ正午に差し掛かろうといったところで、いつもならまだ夢の中にいる時間だ。保育園に華を送り出し戻って二度寝しているであろう時間帯で、テレビをつけると普段見慣れないバラエティー番組をやっていた。
 ぼんやりと画面を眺めながらも、内容も何も頭に入っては来ない。ジョンがいた季節が特別過ぎて、ジョンがいない現実を受け入れられない。


 ごめんな。村田。せっかく後押ししてもらったのに。ロンドンまでジョンに会いに行ったのに事実を突き付けられて現実を見据えるどころか、あの頃の楽しかった思い出ばかりが蘇る。

 花苗の死と向き合い、その意味も理解したつもりでいた。村田もそんな僕の様子を見て、もう大丈夫だと判断したんだと思う。
 それなのに、現実はと言えばジョンの死と向き合うどころか、時間が経つごとにジョンに会いたい気持ちが募る。


 もしもあの頃に戻れるなら、僕も一緒にルーレットを回すから。だからお願い。何も言わずに僕の前から消えないで。
 30を目前にして、年甲斐もない自分に苦笑う。軽く前髪を掻き上げると、水の飛沫しぶきがぱらりと散った。
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