さよならルーレット

夏目とろ

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 その日は本当に不思議な一日だった。いくら考えてみても堂々巡りでどうにも要領を得ない。
 しばらくそうした後、いよいよ本気で行動しなければと思い立ち、僕はテーブルに置いておいた眼鏡に手を伸ばした。

 実は一時期、ジョンに言われて少しの間だけコンタクトに変えていたことがある。中学から掛け始めた眼鏡をハグする時に邪魔だと言われ、軽いジョークのようなものだったのに真に受けて。
 視力はあの頃と変わらず、遠くが見づらいだけで日常生活には不自由はない。それでも、裸眼だとなんとも落ち着かなくて、今でも日常的に眼鏡を着用している。

 精神的な部分が大きいんだろう。眼鏡を掛けていない時は、裸の自分をさらけ出しているようで。

 一人でいると、あれこれ考え込んでしまう。このままじゃいけないと不意に思い立ち、気合いを入れてソファから立ち上がった。髪は自然乾燥で乾かすとして、取りあえずは服を着なければと思い立って自室へ向かう。
 普段からこんなふうにあれこれ考えているわけじゃなく、昨日の特別な出来事が原因だろう。今日は考えがどうにも纏まらない。

 一度は前向きに行こうと決めたのに、考えるたびにジョンとの思い出が溢れ出す。あの楽しかった日々を思い出すたびに、ジョンにもう一度会いたい気持ちが募る。
 一度、蓋をしたまま、そのままにしておけばよかったのかな。今更どうなることでもないのに、そんなことを思う。

 洋服ダンスの中から白いシャツを出して、取り敢えずはそれに着替えた。このシャツは仕事着としても重宝していて、同じものを何着も持っている。
 村田には、もう少し明るい色のシャツも着てみろとずっと言われて来たけど、ジョンが僕には白が似合うって……。

 そんな自分に苦笑う。封印していた記憶を取り戻してからこちら、どんな時にもジョンの思い出が付きまとう。
 不思議なもので、ジョンがこの世にいないこととようやく向き合えたのに、なぜだか前以上にジョンを近くに感じた。


 結局、その日は一日そんなふうで、わざわざロンドンまで出向いても、何も変わらなかった自分に気づく。ただ、もう一度ジョンに会いたい気持ちが募るだけで、それを村田が現実に引き戻してくれた。

『今夜、店に行くから』

 村田にしては、いつもより絵文字が少ない珍しく真面目なメール。不意に昨日の出来事を思い出して胸が騒ぐ。それは、村田のことを初めて意識した朝のことだった。
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