さよならルーレット

夏目とろ

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 それでも、

「ジョン、足……」

 きちんと足もあるし。そう(幽霊)じゃないと思いたいけれど、

「うん。日本人じゃないからね」

 目の前にいるあの頃のジョンが、それを半ば冗談ぽくも否定する。

「ジョン、ゆうれい……? ってか白日夢?」
「さあ。でも、どっちでもいいじゃん。こうやってもう一度会えたんだし」

 会いたかったと笑った笑顔も当時のままのジョンで、思わず自分の頬をつねってしまった。

「いたっ!」

 そしたらびっくりするほど痛くて、訳はわからなかったけれど、何かの拍子に異次元に紛れ込んでしまったんだろうと自分に言い聞かせる。
 だから、ジュンの日本語も片言じゃなく流暢りゅうちょうなものだし、死んでしまったはずのジョンが僕の前に現れたんだろう。何よりさっきまで向き合っていた村田もどこかへ消えて、僕は少年の姿であの頃の中学校の屋上にいる。

「ジュン。会いたかった」
「うん。僕も……」

 余計なことを考えるのはやめにした。きっと、ジョンは僕が呼んでしまったんだ。うじうじ考えてばかりの僕を心配して、ジョンは僕に会いに来てくれた。
 そう考えるとご都合主義すぎるけど、これは僕が見ている白日夢なんだろう。


(――言わなきゃ)

 不意にそんな一言が頭に浮かんだ。だけど、目の前にジョンはいる。あの頃のまま、僕の大好きな笑顔を浮かべて。
 そんなジョンに、どうやって『さよなら』を言えばいいんだろう。ジョンがいないからさよならが言えなくて、いたらいたで、やっぱり言えなくて。

 僕らが通った中学校の屋上。しかも、今の姿はあの頃の二人。一瞬、あの頃に時間が巻き戻ったような錯覚さっかくおちいる。

「ねえ、ジュン。覚えてる?」

 それを、そんなジョンの一言が現実に引き戻した。

「ジュンの家でさ。村田と三人でボードゲームをしたよね」

 車の形をした駒に、乗り切れないほどの子沢山。ゲームの中では幸せな一生。ゲームをするたびにいつも、ジョンはそんな幸せな結末を迎えていた。

「あの時さ。実は、漠然ばくぜんと自分の未来図が見えていたんだ」

 なのに人生とは皮肉なもので、その未来図を実際に描くことなくジョンは逝ってしまった。

「ルーレットを回してあの頃に戻りたいって、そう思うけど……」

 だけど。ジョンは続ける。


 それにしてもジョンってこんなに男らしかったっけ。

 ああ、そっか。この話し方と運命を全て受け入れたような晴れ晴れしさが、そう感じさせるんだ。
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