さよならルーレット

夏目とろ

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 ジョンの口がまるで歌っているかのようにゆっくり動くのを、僕は身動きもせずにぼんやりと眺めた。

「間に合わなかったね。あの時、決断のルーレットを回すのが遅すぎた」

 だから僕は死んだんだ。そう泣きそうな顔をして笑うから、僕もつられて泣きたくなる。
 あと三年も命の期限はあったはずなのに、ジョンの心臓は17歳で止まってしまった。


「ねえ、ジョン。ジョンに言わなきゃいけないことがあるんだ」

 言わなきゃ、僕は前に進めない。なのにジョンを目の前にしたら、どうしても言葉にならない。だって、あの頃のままのジョンが目の前にいる。あの頃と同じ笑顔で笑っている。
 それなのに、さよならなんて言えないよ。だってジョンは今ここに、目の前にいる。


 さよならを言う代わりに、僕はジョンにしがみついた。なんで幽霊のくせに触れるんだよ。幽霊のくせに足だってちゃんとあるし、流暢な日本語で話すし、触れた体もあの頃のように暖かい。
 どうしてなのかジョンに聞いたら、これはジュンの夢だからだよって言われたけど。

 僕の夢だから、今の僕が会いたい姿で現れたんだそうだ。どうやら夢を見ている人間の会いたい姿に見えるようで、だから僕はあの頃のジョンに再会できたんだろう。
 さよならの代わりに、もう僕の前から消えないで。そんなネガティブな一言が口から飛び出してしまいそうだ。

 だけど言わなきゃ。言わなきゃ、僕はジョンの所に行きたくなる。時に衝動的に、突然に。それを華の無邪気な笑顔と村田が止めてくれた。


 ねえ、ジョン。どうやら僕は周りの人間に恵まれているみたいだから、そちらにはまだ行けそうにないよ。分かっていたけど、だからこそ、今ここで君にさよならを言わなきゃいけない。

 苦しくて、悲しくて、涙が溢れた。それにそっとジョンは口づけて、黙って僕をただ抱いてくれる。
 幻でもなんでももういいから。君に再会できたことに感謝しつつも、君にさよならしなくちゃいけないね。


 うつむいた顔を上げると、あの空よりも海よりも深い青と目が合った。その顔がぼんやりと、輪郭から消えて行く。

「待って!」

 まだ僕は言えていない。なのにジョンの口が僕より先にさよなら、そう動いて。
 ねえ、ジョン。僕を置いていかないで。そんな言葉をぐっと飲み込んだ。

「ジョン。ジョンに会えて本当によかった。さ……」

 僕の口がさよならと動いたその<ruby>瞬間<rt>とき</rt></ruby>、ジョンはまるでロンドンの霧のようにどこかに消えてしまった。
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