ゲームの世界に来てもチート級な力を手に入れれなかった結果。

yuki*

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1章 冒険が始まってしまった

2話 想像とは違う妖精

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神殿に着くと、まず圧倒的な大きさに魅了された。白くて太い柱に、綺麗な水を噴き上げる噴水。開けるのが大変そうな大きな扉。道なりに植えられている花に寄る蝶々。人が全くいなくてがらんとしているが、それがさらに幻想的で、ここが現実なのを忘れそうになる。…いや、現実じゃないのかもしれないけど。

「ここは初めてかい?」

横からいきなり声をかけられて、びくりと体が跳ねた。慌てて声のした方を向くと、鎧に鉄兜を被り、さらに腰から剣を提げている戦士がいた。
…ん?

「うわぁ!?」

「わぁ、どうした?」

俺の声に驚いた風の戦士が、目をぱちぱちさせながらこっちを見る。俺は恐る恐るその戦士の腰を見ると…間違いない。あれは絶対に剣だ。

「変な子だなぁ。まぁいいや。君もクレアさんに会いに来た口だろ?あの人と話す気ならメンタル強く持てよ!」

じゃ、頑張れよ!と、一方的に話しかけられ、戦士は神殿の中に入って行った。
…あぁもうダメな気がする。なんだアイツ。コスプレか?コスプレだよな?あんな長い刃物持ってたら即刻警察に逮捕だぞ。
そんなことを思いながら中に入ると、途端に大理石でできた床と壁が目に入った。神殿と言われてるだけあって、どこか神聖な感じがする。辺りを見渡しながら真っ直ぐに歩いていくと、何十段とありそうな階段が目の前に現れた。材質はやっぱり大理石だろうか。俺はとりあえず階段を上がってみようと一段目に足をのせた。

『おい待て。そこの…えーっと、いかにも平凡そうな男。階段のぼるな。足を置くな。早く退けろ』

キーンという耳鳴りと同時に、可愛らしい声が脳内に響いた。だけど可愛らしさがあるのは声だけで、言葉遣いは生意気な男子中学生そのものだ。階段に足をのせているのは俺だけだし、なにせ周りに人がいない。

『早く退けって言ってるだろ!!ボケナス!!』

ぷに、と顎の下らへんで何かが触れた感触がした。階段から足をおろし、一歩引くと、丁度さっき俺が立っていた場所に、上へ腕をまっすぐ上げた(多分俺にアッパーをかけたのだろう)小さな人間が浮いていた。

「…え」

『全く、これだから初心者は…。ここが神聖な場所というものが分からないから、案内人なんてうけたくなかったんだよ…まったくもう──』

腕を下ろし、ふぅとため息をつく動作をする、そいつ。
脳内に相変わらず響く、皮肉めいた言葉。それを発しているのがこの小さな人間だと気づくのに、それほど時間がかからなかった。
深緑の髪をサイドで二つに束ね、ふわふわとした薄黄緑のワンピースを着ている。目は強気な性格を思わせるつり目で、淡いピンク色の唇はきゅっと閉じられている。例えると、どの学校にも一人はいるような、特別可愛い女の子だ。そして背中には、普通あるはずがない透明の羽。

「…CG?」

咄嗟に出た言葉はそれだった。
まさか、現実にこんなものがあるわけない。妖精?精霊?あれ、もしかして実は俺死んでるとか?死んで、ここは天国みたいな?それなら合点がいくよな。
なるほど。俺は死んだのか、と一人納得していると、小さな人間は空中で羽を器用に羽ばたかせ、座る姿勢をとると、偉そうに足を組んだ。

『なぁ人間。お前初心者だろ。こっちの世界にまだ慣れてねぇな?』

「え?まぁ…慣れてけど」

そう言うと、いきなりキッと睨まれた。

『"けど?"あたしがいつタメ口で良いなんて言ったんだよ。敬語だ敬語。敬語を使え。ちゃんと敬意をしめさないと罰だから』

なんだこいつ。ちっさいくせに妙に態度デカイな…。
片手で握って、捻り潰したくなる思いをぐっと抑え、「慣れてないです」と嫌々ながら敬語を使った。

『だろうな。装備も全部低ランクだし。剣すらも持ってない。こんなんじゃスライムにも負けるぞ』

「は?スライム?負けるってどういうことだよぅぶっ」

べしんと顔面に四角い何かが激突する。咄嗟にそれを引きはがすと、激突してきたのは本だと分かった。

『学習しろ。あたしの前では敬語』

「ってぇ~…何だよこれ…」

本には"初心者のすゝめ"と書かれている。こんなものを顔面にぶつけられたのは初めてだ。ひりひりと痛む鼻の頭を抑え、本を開く。

『その本は、この世界のマニュアル本みたいなもの。しょうがないからタダでくれてやる。感謝しろよ』

「マニュアル本…?」

その言葉に反応し、俺は相変わらず生意気そうな表情を浮かべた妖精を見やった。そして、半ば強引に貰ったマニュアル本を相手に突き出した。

「いらねぇよ、こんなん」

『?…何で?』

「だって俺、マニュアルとか頼らねぇし」

なんのゲームをやるにしても、俺は大抵マニュアルとか説明書は見ない。文字を見るのが面倒なのもあるけど、いろいろなボタンを押してどんなアクションをするのかを、ゲームを通して学んでいきたい気持ちがどこかある。

『こんな風に貰ったものを返すなんて!なってない!殴ってやろーかクズ!』みたいに、何か嫌味を言われるのかと思ったけど、妖精は腕を組み、ちらりと俺が突き出しているマニュアル本に目を移した。

『ふーん…まぁいらないなら無理に渡さなくてもいっか。後で困っても知らねぇから』

「はいはい。…で。お前案内人とか言ってたよな。ここってどこ?俺、家でゲームやってからまったく記憶ないんだけど」

妖精が指を鳴らす動作をすると、ポンという音と共にマニュアル本が消えた。いろんな事が起こりすぎている今、本の一冊や二冊、目の前で消えたってなんとも思わなくなった。

『は?…知らないの?もしかしなくても、お前って馬鹿?ここ、かなり有名な所なのに』

「うるせぇ。いいから教えろ」

妖精は呆れ顔で俺を一瞥すると、静かに口を開いた。

 
『…ここは、エクエス国。お前のような男達は、強さで差別される国だ』

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