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夢と始まり
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あれから、三時間ほどの時が流れた。
先程まで生暖かい風が吹き、星の煌めいていた漆黒の空は、晴れ晴れとした晴天が広がっている。――様に見えるのも、特殊な構造で建てられた、この部屋、この”建物"だからだろう。
異質で奇抜、それでいてほぼ不可能に近い最高傑作な建造物。初めにこの建物を建てた関係者達に、皮肉とも称賛とも捉えられる言葉を伝えたい程だ。
カーテンの隙間から差し込む陽の光に目を細め、少しダルさの残る身体をベッドから起こした。ギシリーーと軋むベッドの音でさえ、寝起きの耳には響いて仕方ない。不愉快な感覚に眉をひそめた。
「……もう朝かぁ」
不意に出た言葉。
朝が苦手な私にとって、ソレの存在は余りにも邪魔で憂鬱でしかない。ハアーと深い溜め息を一つ吐き、ベッドの周りに散らばる下着などを拾い集めて、素早く何も纏っていない体に身につけた。
広さ二十~三十畳程の、部屋の一角に置いてある全身を見る事が出来る鏡ーーそれに映る自分の姿はシンプルな黒のワンピース姿。ワンピースの胸元に付いているワインレッド色の細いリボンを手早く結び、跳ねてクシャクシャになった髪をテーブルに置いてあった櫛で手入れした。
起床して十五分、身なりの整った少女の姿をポツリと佇む鏡が捉える。パッチリと開いた紅色の瞳は時々長い睫毛を伏せ、春を連想させる様な形の良い桜色の唇は潤いを帯びている。寝室の窓から吹き抜ける初春の風が、少女の腰まで伸びた艶やかな黒髪を撫で上げた。
少女、聖は服の中に入れていた携帯を取り出して時刻を確認する。液晶画面に記される時は、八時半を過ぎていた。またまた深い溜め息を一つ吐き出し、先程まで自分が寝ていたベッドを一目して部屋の扉に向かって歩く。
二重構造の、内側から見れば木製のレトロな扉の前に立ち、ドアノブに手を掛けた直後もう一度部屋を見渡す。初春の風が真っ白なカーテンをユラユラと揺らす。
生暖かく心地いい春の風。
限られた家具しかないシックな部屋。
さっきまで恋人と肌を重ね、一緒に甘く幸せな時間を過ごしていた場所は、静寂だけが流れ、少しだけチクリと胸が痛んだ。
「行かなきゃ、ね」
存在もしない誰かに語り掛ける様に、聖は一つ言葉を口から洩らして部屋を出た。部屋の外に広がる景色も、とてつもなく寂しいものだった。
コンクリートで出来た先が見えない程の長い廊下が続いていて、廊下の壁には一定の間隔でオシャレなランプが置かれている。廊下には人の気配はなく、進む度にただ自分の足音だけが木霊した。
天井に取り付けられた換気扇からは渇いた音だけが響き、静寂に包まれたその場所を一匹の蛾が浮遊している。
「……君も、可哀想だね」
歩く足を止めて、パタパタと宙を舞う蛾に言う。物言わぬ蛾は、廊下に灯された僅かなランプの周りに縋りついていた。
もう二度と、外の世界には出られない事を悟っているかの様にーー。
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