ミニチュア街での遊び方

穂鈴 えい

文字の大きさ
上 下
4 / 6

4

しおりを挟む
「や、やめて……」
無駄な抵抗とわかりつつも必死に頭だけ両手でガードする。ダメかと思ったけど、幸い海花の足はわたしの上には降ってこなかった。ズシンと大きな音と揺れを伴って振り下ろされた足はわたしのすぐ真横。ちょうど足の小指がすぐ横にあった。代謝の良い子どもの足からかなり強く汗の臭いが漂ってくる。
「海花の足の小指よりもお姉ちゃんの方がちっちゃいね。海花、学校では背の順前の方なのに」
海花がクスクスと笑っている。

海花の足が再び持ち上がった。今度は正確にわたしの上へと降りてくる。わたしの体は完全に海花の足の影に隠れてしまっている。
「や、やめなさいよ……」
声は完全に震えていた。巨大な妹の足から逃げる術なんてない。海花の足に踏み潰されてしまうのだろうかと思って泣きそうになっていると、いよいよ海花の足の親指がわたしに触れた。
「ほらほらー、お姉ちゃん、はやく海花の足どけないと踏み潰されちゃうよー」

楽しそうに笑う海花とは対照的に、わたしはひたすら取り乱していた。なんとかして逃げないと、海花の足に踏まれてしまう。先ほど海花の足の裏にへばりついていたぺしゃんこにされた車の映像がフラッシュバックした。わたしはあの車よりもずっと脆い。必死に海花の足の親指を押し返そうとするけれど、何も変わらない。じわじわと充満していく代謝の良い汗の臭い。ついにはわたしは海花の足の親指によって地面に寝かされてしまった。一応踏み潰さないように加減はしてくれているみたいだけど、充分重たい。

「おねーちゃん、本気で退けてくれないと海花踏み潰しちゃうよ?」
本気で抵抗はしているのだ。でも、海花のほうが圧倒的に強いのだから、わたしにはどうしようもない。
「やめなさいってば! 本当に潰れちゃうから!」
ケホケホと咳き込みながら必死に叫んだ。海花は冗談で踏み潰すなんて言っているのだろうけど、わたしにとって、それはシャレにならない。
「しょうがないなあ。お姉ちゃんが弱くて可哀想だからやめてあげる」
ゆっくりと足が退けられて、ようやく新鮮な空気が吸えた。

「ねえ、わたしが先にこの街で遊んだこと謝るから、はやく元のサイズに戻してよ!」
「やだなあ、海花別に怒ってなんかないよ? だから謝らないでよ」
「なら早く元に戻してよ……」
「うーん、それは嫌かな」
わたしのことを見下ろす顔は冗談を言っている顔ではなかった。あくまでも本気で戻さないつもりのようだ。

「な、なんでよ……」
「海花この小さな街好きだもん。この街の中だとどんなにおっきなビルだって海花の身長よりもちっちゃくてよわよわなんだもん。なんだかすっごい気持ち良いんだよね」
海花はうっとりとした表情を浮かべて街全体を見渡した。今のわたしからみれば見上げるような高い建物もたくさんあるこの街だけど、海花の視界の高さに何もないのだろう。一番高い建物だってせいぜい海花のお腹の辺りにあるだけだ。

「この街で遊ぶのは好きにしたら良いけど、まずはわたしを戻してからにしてよ! 戻してさえくれればどうやって遊んだっていいわ」
わたしの必死の主張を聞いて、海花はクスッと笑ってから地面にしゃがんだ。その風圧でわたしはまた吹き飛ばされそうになり、慌てて近くの道路標識の棒に捕まる。この棒も、海花の風圧を受けて今にも折れそうで怖かった。だけど、風圧よりも先に、乾麺を折るみたいに簡単に海花が標識を2本の指でへし折ってしまい、わたしごと持ち上げた。

「ねえ、お姉ちゃん。海花がこの指を開いたらお姉ちゃんはどうなっちゃうと思う?」
「い、いきなりなによ!」
わたしが必死に捕まっているこの道路標識の棒は海花の気分次第で簡単に落下してしまう非常に危うい状態にある。

「お姉ちゃん、海花の質問に答えてよ。じゃないとこのまま力入れすぎてお姉ちゃんごと摘み潰しちゃうかも」
海花が脅してくるから、わたしはモゴモゴと答えた。
「落ちて大怪我する……」
「そうだよね。もしかしたら大怪我じゃなすまないかもしれないよ。今のお姉ちゃんは、海花の気分次第で簡単にどうにでもできちゃうとってもよわよわな存在なんだよ?」
「何が言いたいのよ!」
イマイチ的を得ない受け答えにわたしはムッとした。

「今のお姉ちゃんはすっごく小さくて、とっても可愛いんだ。だから、この小さな街で小さなお姉ちゃんの面倒をずっと見てあげたいから戻したくないの」
海花はまたわたしのことを地面においた。さっきから持ち上げられたり下ろされたりを繰り返させられている。上空から下を見るのはもちろん怖いから嫌だ。けれど、地上から巨大な海花を見上げるのも怖かった。今のわたしは絶対にこの巨大な妹に逆らえないのだということを嫌でもわからされてしまうから……。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ドラゴンクエストデリュージョン〜繋がりし世界〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:214pt お気に入り:0

乙ゲー世界でもう一度愛を見つけます

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:20

【完結】婚約者様、嫌気がさしたので逃げさせて頂きます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:532pt お気に入り:3,105

聖女の私と婚約破棄? 天罰ってご存じですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:376pt お気に入り:1,607

悪女と言ったのは貴方です

恋愛 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:1,185

異世界で水の大精霊やってます。 湖に転移した俺の働かない辺境開拓

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,068pt お気に入り:6,584

最弱ステータスのこの俺が、こんなに強いわけがない。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:38

推しのおかげで、脱皮できました。

青春 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

処理中です...