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第2章 出会い アイリス、クロ編 (16話〜48話)
"紅魔の魔王"グレン③
しおりを挟む最初に動き出したのはグレンだった。
巨体からは想像できないほどの速度で接近し、袈裟斬りを繰り出す。
俺はそれを逆袈裟斬りで迎え撃つ。
ぶつかり合った二本の剣は決して譲ることなくせめぎ合い、圧力に負けた地面にヒビが入って円形に陥没してしまう。
「オ゛オッ!!」
またあの紅黒い魔力が体から吹き出し、急にグレンの押す力が強くなった。
ギャリギャリと甲高い金属音とともにグレンがニヤリと笑うと、互いの剣技が相殺されて二、三十メートル近くも後ろに吹っ飛んだ。
さっきから急に力が強くなったり元に戻ったり…………緩急が不規則すぎて厄介だな。
指を地面に突き立てて勢いを殺し、一瞬だけ早く体勢を立て直した俺は、走りながら愛剣に光属性の魔力を流して鋭い突き技を放つ。
煌めく神速の一閃は僅かに反応の遅れたグレンの大剣を弾いて大きく仰け反らせ、そのままがら空きになった脇腹に深々と突き刺さる。
「げっ、意外と硬いな………」
「ははっ、良い剣技だ………だが、頭上が空いているぞ!」
かなり力を入れて突いたはずが、刀身の三分の一しか刺さっていない。
あまりの硬さにぶつかった衝撃が右腕にビリビリ響く。
だが痛がってる暇はない。
真上から振り下ろされた大剣がすぐそこまで迫っている。
すぐさま剣を横に振り払い、ゴパッ!と溢れる血に身を隠して距離をとる。
「グオオオオオオオッ!!」
グレンの咆哮がビリビリと大気を揺らし、標的を失って振り下ろされた大剣が地を砕く。
さらに舞い上がった土煙を切り裂いて真下から大剣が跳ね上がり、捉えた俺をまるでダンプカーに跳ねられたかのような衝撃で後方にぶっ飛ばす。
重い。
俺の体が無造作に宙を舞う。
「オオオオオオッ!!」
大きく飛び上がって追いついたグレンが、畳み掛けるように紅黒い魔力を纏った大剣を真上から振り下ろす。
最初のとは比べ物にならない衝撃が俺を襲い、ドバンッ!とおおよそ剣が当たったとは思えない音を残して地面に叩きつけられる。
波状の衝撃波が果てた大地にクレーターを作り、大量の瓦礫を辺りに散らした。
真上に昇った太陽の中央でギラリと何かが輝く。
次の瞬間、ソニックブームと共に降ってきたのはグレンの拳。
それだけで俺の上半身はあろうかという拳がメキメキと体を押し潰した。
体を突き抜けた衝撃は陥没した地面にさらに大きな亀裂を走らせ、エネルギーの奔流に耐えきれなかった辺り一帯が閃光に飲まれ崩壊する。
とんでもない威力だ。
周辺が生命の果てた大地だったから良いものを、あと数キロ王都に近かったら"王都壊滅!"、なんて事態にもなってたかもしれない。
…………いや、どちらにしろここで倒さなければ、近い内にこの魔王は必ず王都を滅ぼしに行く。
このレベルの魔王に襲われたら、王都に抵抗できる人材がいるかどうか怪しいな。
唯一戦えるとしたら王都在住のX、SSランクの冒険者と王族だけだろう。
冒険者の方は言わずもがなだが、王族は代々勇者を伴侶にしてきたという歴史があるため、ほとんどの世代が圧倒的な力を持っているのだ。
特に、今の王様の娘は十三歳ながら天災級の魔物の撃破に成功したらしく、今までの王族の中でも随一の実力があるんだとか。
そう言う人達なら戦えるかもしれない。
だが、あの紅黒い魔力を纏った時のグレンはそうでない時と格が違過ぎる。
明らかにおかしい。
グレンの能力なのかは分からないけど、何か秘密があるのか………?
無言のまま弾け飛んだ瓦礫の間をすり抜けて後退しながら、この違和感に思考をめぐらす。
「どうした!反撃しないのか!」
瓦礫を蹴散らして迫ったグレンは獰猛な笑みで大剣を右肩に担ぐように構え、振られた紅黒い光に包まれた切っ先が俺の肩口を捉える。
ザシュッ!という重く鋭い斬撃。
さらに、振り切った大剣がその勢いのまま孤を描いて反対側に跳ね上がり、もう一度振り下ろされた刃が先程の斬撃と合わせてXを描く。
二つの軌跡が重なった点に、とどめの一撃とばかりに大剣の突きがお見舞いされた。
剣技スキル〈クロス・リーブ〉。
クロスを描く斬撃と突きの混じった三連撃技だ。
圧倒的なパワーで吹っ飛ばされ、その勢いは間にあった古城を半壊させただけでは飽き足らず、その先の山一つぶち抜いてやっと勢いを衰えさせた。
いたた………やっぱあのオーラがあると、元から化け物みたいに強かったのにさらに化け物じみた強さになるな。
限界突破みたいなもんか?
いや、でもそれだと断片的にその状態になってるのに違和感があるし………。
自分の上に積み重なる瓦礫の山をどかして、痛む首をゴキゴキやりながら立ち上がる。
「あれを喰らって尚、無傷とは………。驚いたぞ」
「ぺっ。それはこっちのセリフだよ。そのオーラは何?なんか嫌な気配がする」
土の混じった唾を吐いて唇を拭い、上空に立つ紅黒いオーラを纏ったグレンを睨む。
上手く言えないが、アレはやばい。
なんかこう………体の内側から湧き出てくる原始的恐怖っての?
負ける気はしないんだけど、本能的にあれがよろしくないやつだっていうのを感じるって言うか。
根拠はないから全部俺の勘なんだけどさ。
「ふっ、俺を殺せたら教えてやろう」
「ほ~?その言葉、忘れるなよ?」
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