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閑章 マシロ家の日常 (49話〜59話)
主を食す
しおりを挟む主を釣ってから数時間後。
湖周辺はジュージューと焼ける美味しそうな音と匂いに包まれていた。
あちらこちらで焼かれたり蒸されたりしているのは、皆で解体した主の切り身の一部だ。
あの後、俺とクロが主を釣ったことはあっという間に村中に知れ渡り、一目主を見ようと村人や商人、冒険者や観光客までもが大量に押し寄せて来た。
子供達は巨大な主に目を輝かせ、まるでお祭り騒ぎのような賑わいっぷりだった。
しかし、そんな中問題が一つ。
当然主はこれだけ化け物みたいな見た目をしていても生魚なため、いつまでもこんな場所に放置していたら腐ってしまう。
だったら【ストレージ】に入れて保存しとけば良い話なのだが、正直この量の魚を消費しきれる気がしない。
だってほら、二階建て家屋くらいの大きさよ?
長期的に考えれば食べられなくはないけど、絶対にいつか飽きる自信がある。
それじゃあせっかくの主がもったいない。
そこで、村の料理人や宿の女将達を集めて盛大なバーベキューを開催する事にしたのだ。
バーベキューセットは全てこちらから貸し出し、料理を作りたい人が好きに作れるようにした。
今のところは二十セット貸出中。
プロの料理人が腕を振るうだけでなく、有志や旅館の女将さんなどが大量の料理を作って振舞ったりしてくれている。
その中でも、特に自分のお店を持っている人達の力の入りようは凄まじい。
皆にはお持ち帰り用の主の切り身もプレゼントしたので、それを調理すればお店でも同じ料理が出せる。
ここでその料理がアピール出来れば、もしかしたらお店にも足を運んでもらえるかもしれない。
そのため競うように料理を作り、長蛇の列を伸ばしている団体がいくつか見当たるのだ。
ちなみに主の身には質の良い脂が十分に乗っていて、白身魚とは思えないその引き締まった身は、部位によっては肉にも引けを取らない食感と味わいがするらしい。
意外と筋肉質な事に驚いた。
ものすごい丸々太ってたから、てっきり脂っこいのかと。
けどよく考えたら、あの巨体であれだけ速く動こうと思ったらそりゃ筋肉は必要だもんな。
そういう意味では納得だ。
「ご主人様、そろそろできますよ」
コンロに向かっていたアイリスがこちらを振り返って笑顔で手を振る。
お、待ってました!
俺は腰を下ろしていた丸太から立ち上がり、お皿を取ってきて机に並べる。
もちろんスプーンも忘れずにだ。
やー、楽しみだ………アイリスの料理、本当に美味しいもんなぁ。
思い出しただけでもヨダレが止まらない。
アイリスは根っからの料理好きで、その腕はプロの料理人と大差ないと言っても過言ではない。
最近は本人からのお願いで毎食アイリスに作ってもらっているのだが、全て頬が蕩け落ちそうなくらい美味しい料理ばかり。
もう自分でも分かるくらい胃袋掴まれちゃってる。
そんなアイリスが初めて見た食材でどんな料理を作るのか凄く楽しみだ。
あとそれとは別に、アイリスのエプロン姿やばない?
料理作る時に必要だろうと思って、つい最近プレゼントしたお手製のエプロンなんだけど、アイリスに似合いすぎててやばい。
いや、アイリスにって言うか…………キッチンに立つエプロン姿のアイリスが尊すぎてやばいって言うか………。
とにかく可愛い。
二人で料理してる時とか、あまりにもアイリスの嫁力が高すぎてニマニマしてるもん。
もう永遠に見てられるわ。
眼福眼福ぅ………。
「さぁ、出来ましたよ~!」
フライパンを木の板の上に乗せて机に移動させ、閉じていた蓋を開ける。
一気に閉じ込められていた湯気が溢れ、食欲をそそる良い匂いがふわりと鼻をくすぐる。
カレー粉もどきで味付けされた薄茶色のお米に、ど真ん中には分厚い主の切り身が一つ。
さらに彩りとしてカラフルな野菜をいっぱい加えた、主のパエリアだ。
とにかく食欲をそそる匂いと見た目のインパクトがすごい。
真ん中にドカッと居座る切り身は大きすぎてフライパンに入り切っていない。
すごいな…………こんだけデカかったら、身の旨み成分とかすごいんじゃないか?
あー、もう我慢できん!
目の前で身をほぐし、お皿によそってもらう。
ワクワクする。
どんな味するのかな~。
「はい、どうぞ~。まだアツアツなので気を付けてくださいね?」
「うんっ。いただきま~す!」
アイリスからパエリアの乗ったお皿を受け取り、早速手を合わせてからスプーンを取る。
………ふぅー、ふぅー……………もぐもぐ………。
微笑ましそうな笑顔でアイリスに見つめられる中、俺はかちゃんとスプーンを一旦置いて、右手で額を抑えながら天を仰ぐ。
「うあーー………美味しぃーー!!」
心の底から至福のため息が出るほどの美味しさだ。
こりゃやべぇ、美味しすぎて涙が出てくるわ。
なんて言うんだろ、具材全体に旨みが染み渡ってて身もホロホロだし…………うん、とにかく美味しい!
下手な食レポは無しで。
と言うか、この味は言語化出来ないと思う。
それほど美味しいのだ。
今まで食べてきた料理の中でも間違いなくトップを争うレベル。
う~む、こりゃビールが欲しくなるな。
しかも辛口の。
でもこの世界、ビールないんだよなぁ…………。
数年前、死に物狂いで世界中を探したが、残念な事にビールは存在しなかった。
似たようなものはあった。
しかしあれは麦を発酵した甘めのラガーみたいな物。
俺が求める辛口ビールとは程遠い味わいなのだ。
いっそ今度、自分で作ってみるのもありかも………と最近思い始めている。
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