193 / 405
第10章
異変
しおりを挟む夜闇が空を覆い、光の灯った街灯が点々と辺りに参列する真夜中に。
バルガンの館を囲む塀の上に、三つの影が揺れていた。
右から黒装束に身を包んだクロ、そして漆黒のローブを羽織ったイナリとシルフィだ。
こんな暗い中でこの色の服装ともなると、間近で光を当てでもしない限り、月明かりだけで視界に捉えることは困難であろう。
風でなびくスカーフを直し、クロは懐から一枚の紙を取り出す。
そこにはこの館の全体図、構造、怪しい部屋や点などが箇条書きで記されていた。
筆跡からも分かる通り、全てマシロが事前に調べた内容である。
「うぅ………本当に行くっすか……?」
「ん、当たり前。もし主の予感が当たってたら、すでに不味い状況」
「ですね。このまま放っておいて一大事になっちゃったら、目も当てられません!」
目的は不正が記された書類の確保、さらにあぶり出し。
今はまだ激しい戦闘をするつもりはない。
しかし、万が一という場合も無きにしも非ず。
念の為の用意もバッチリだ。
「クロは左。二人は右に行って、書類を探す」
「はい!」
「クロさん、奥の部屋は気をつけた方がいいっすよ…………風が気持ち悪いっす」
「ん」
奥の部屋とは、マシロが異様な瘴気を感じた例の部屋の事だろう。
あそこには確実に何かある。
危ないとは分かっているものの、調べないと何も始まらない。
いくらクロと言えど、細心の注意を払う必要がある。
「じゃあシルフィさん、お願いします」
「りょ、了解っす!自分も腹を括るっす!」
ふんっ!と鼻息を漏らして気合いを入れると、シルフィはクロとイナリ向けて右手を掲げた。
二人を向いた手のひらの中央に淡い緑の光が宿り、それは次第に大きくなってそれぞれを包み込む。
まるでバリアのように二人を覆う緑の障壁。
これには遮音を始め様々な効果が付与されており、隠密行動を行う際、その精度を格段に上げてくれる。
会話をする時もこの障壁を纏った同士の会話はできるが、それが外に漏れることはないという優れもの。
音だけでなく足跡や匂いなども消すため、現代のような監視カメラが無い限り見つけるのは困難を極める。
さて、準備は整った。
早速侵入開始だ。
イナリのとある能力によって玄関を無視して中に突入。
二手に別れて、各々の目的のものを探す。
クロは通路を駆ける。
モタモタしている時間は無い。
彼女の主たるマシロの予想が正しければ、すでに─────────。
「ん、やっぱり居た」
『グルアアアア…………』
例の瘴気を放つ部屋の前で、あたかもそこを守護するかのように、どこからともなく現れた異形の怪物が立ち塞がった。
様々な魔物を組み合わせたような歪な形のキメラだ。
あちこちに岩石が紛れ込んでおり、より一層グロテスクな見た目になってしまっている。
体を弄ったせいか魔力もごちゃごちゃで、安定せずに時々溢れ出したり急に弱々しくなったりを繰り返す。
しかし、平均してそんじょそこらの魔物よりは圧倒的に強い。
こいつだけでもB級上位はあるだろう。
もしかしたらA級かもしれない。
こんなのが居るとなると、いよいよ誤魔化すことは出来なくなった。
完全に当たりだ。
『グガアアアア!!』
「うるさい」
斜めに振り上げられた爪の攻撃を避け、反撃の一閃でキメラを瞬殺。
崩れ落ちる死体には目も向けず、さらに奥へ進む。
件の部屋まで残り数メートル。
角から先程と似たキメラ達が続々と姿を現す。
もはや隠すことは諦め、時間稼ぎに徹しようという訳か。
廊下の壁や天井を使って自由自在に動き回り、まるで何事も無かったかのようにキメラ達の間をすり抜ける。
もちろん、全て斬り伏せるのも忘れない。
おそらく最後であろうキメラ。
明らかに先程までの個体とは違って天井にまで届きそうな巨大な体躯を誇り、厳つさも魔力も増し増しだ。
だがクロは止まらない。
姿勢を一段と低くし、キメラの攻撃に備えて─────────。
ガッ、ズガァンッ!!
クロが動く一瞬前に、突然角の向こうから飛び出してきた残念キツネことイナリの蹴りが土手っ腹に炸裂し、館の壁を突っ切ってキメラがぶっ飛ばされる。
遥か向こうで何やら崩壊する音が。
ちらりと見るも、もはや瓦礫に埋もれてキメラの姿を伺うことは出来なかった。
十中八九、原形を留めていないだろうが。
「クロさんっ………!」
「ん、分かってる」
そのままイナリと共に部屋のドアをぶち破り、瘴気溢れ出す気味の悪い部屋へと足を踏み入れた。
広い。
他のどんな部屋よりも大きく作られていて、それにも関わらず生活感を感じさせるものは何も無い。
何よりも異質なのは床に大きく描かれた魔法陣。
紫色の怪しい光を発し、暗い部屋の中を照らす。
どうやら瘴気の発生源はこれのようだ。
獣人なため感覚の鋭い二人にとっては、この部屋にいること自体が拷問に近しかった。
まだシルフィの障壁があるだけマシだが、それでも気持ち悪さが抑えきれない。
「くくく、随分と来るのが早いじゃないか………!」
声のした方向に目を向けると、ちょうど魔法陣の中心部に見覚えのある男が立っていた。
今回の騒動のキーマン、バルガンその人である。
口ぶりから推測するに、どうやってかは知らないが二人がここに来ることを知っていたらしい。
「俺を止めに来たのか?だがもう遅い………!アダル様、イル様!私に力を──────!!」
バルガンが両腕を真上に掲げると共に、床の魔法陣が光輝いた。
反射的にクロとイナリが反応するが、一歩遅かった。
バルガンの後ろからゴツゴツした巨大な腕が出現。
ニタニタとねちっこい笑みを浮かべるバルガンを踏み潰して、のっそりとその巨体を持ち上げる。
キメラなんか比較にならない。
圧倒的な大きさを誇るそれは館の天井をバキバキとぶち破り、巨大な風穴を空けても尚、窮屈そうに唸る。
開けた夜空から月光が注ぎ、目の前のゴツゴツした漆黒の皮膚を照らした。
『ギャオオオオオオオオ!!!』
漆黒の皮膚に覆われ、額から二本の角が生えた巨大生物。
咆哮と共に広げられた翼も相まってその大きさは他に類を見ない。
おそらく三、四階建てのビルくらいの大きさはあるのではないだろうか。
そのぎょろりとした紅の瞳で二人を見下ろすのは、超巨大な漆黒のドラゴンであった。
これだけでも随分びっくりなのだが、なんとこのドラゴンの頭上に誰か乗っている。
ローブを羽織った二人組。
顔が見えなかったものの、ご丁寧にフードを外して月光の元その素顔を晒した。
「人って、本当に愚かだよな~」
「君達もそう思わないかしら?」
少年と少女。
まだ十数歳であろう幼い見た目ながら、ゾッとするような怪しい笑みを浮かべ、二人にそう問いかけた。
38
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
主人公は高みの見物していたい
ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。
※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます
※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる