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第10章
北門
しおりを挟む王都を囲む外壁の門は、全て強固な扉で閉ざされていた。
建国時、仮にスタンピードや他国との戦争が起こった際に国民を守るため、また戦を優位に進めるために築かれたこの外壁。
全体に魔法陣が埋め込まれており、門を閉じて魔力を流すことをトリガーに結界術が発動する仕組みだ。
王都という広範囲を守る結界でありながらその強度は魔王の一撃すら余裕で耐える。
通常の結界術では、範囲を広くするほど比例して強度が低くなってしまう事が難点だったが、かの初代宮廷魔術師が空間魔法を宿したアーティファクトとの併用を提案。
見事その目論みは成功し、成された偉業は後世まで語り継がれている。
オルメスト王国が世界有数の大国になり得たのも、この結界が一役買っているのだ。
もちろんそういった用途で使われない事に越したことはないが、今日この瞬間、再びかの結界が目を覚ます。
パキパキとあっという間に形成されて行く結界を見上げ、グルサスはため息をついた。
「グルサス副騎士長殿、全隊配備完了致しました!」
「ご苦労さん。…………はぁ、気が滅入るなぁ」
軍部の者達からの報告を受け取り、再びため息。
苦笑い気味のグルサスの視線の先の荒野には、横一線に土煙が立ち上っていた。
先程からドタドタと地面を駆ける振動が続き、よく見ればその土煙は少しずつこちらに近づいているのが分かる。
もうそろそろ肉眼でも正体が見えてくる頃だろう。
偵察隊によれば、あれは魔物の大群らしい。
しかもただの魔物ではなく、図鑑でしか見れないような古代種も紛れ込んだ。
水平線を埋め尽くす程のあれが、全て魔物?
にわかには信じ難い…………と言うか信じたくは無い光景と話だ。
間違いなく近年で最大の大厄災である。
グルサスは北側で戦闘員の指揮を任じられた。
集まったのは騎士団や軍部だけでなく冒険者も居るため、いつも以上の統率や情報交換が求められる重大な役割。
もし失敗したら取り返しがつかない。
グルサスの胃がキリキリしたのは言うまでもなかった。
「こういうのは性にあわねぇんだよ…………」
とは彼の弁。
普段から王国騎士団副騎士長の座にいるくせに何を言ってるんだか。
そう思うかもしれないが、実際彼は割と小心者なのである。
副騎士長もカルマに推薦されたから断るに断りきれず、名ばかりと言っても過言では無い。
だから本当は他の人の方が適任。
───────────と、本人は考えている。
どっこいせ、と重い腰を上げ、そろった全騎士、そして軍や冒険者達に聞こえるよう声を張り上げる。
「各隊戦闘用意!…………いいか、俺達が最後の砦だ。ここで絶対に食い止めなきゃならねぇ」
全体を見渡せる指揮台の上で、各地から響く武器を抜く音や構える音を聞きながら。
「俺からの命令は二つ。お前ら死ぬ気で戦え!だが死ぬことは許さん!おらっ、気合い入れろ野郎ども!!」
「「「「「 おおおおおッ!! 」」」」」
カリスマ性は無い。
だが常日頃、彼がどれだけ周りを気にかけていただろう。
グルサスに世話になったやつは大勢いる。
尊敬している人も沢山いる。
だから自然と付いていく人は増えて行った。
まさに日頃の行いってやつだろう。
魔物達はもうそこまで迫っている。
士気の向上と共に、場は緊張感で満たされた。
グルサスは指揮台から降り、そのまま最前線へ。
一番安全な所で命令だけするのは性にあわないんだと。
つくづく指揮官に向かない性格である。
「そんな事は無いと思いますけどねぇ………」
「そうか?」
部隊の最前列で、グルサスと共に目の前まで迫った魔物達に目を向けるのはイナリだ。
彼女もまた、マシロからここを頼むよう言われていたのだ。
先程まで原初を相手にしていたのはグルサスも知っているため、戦力として実に嬉しい存在だった。
「にしても数が多いな…………正面からぶつかるのは分が悪い」
「あ、じゃあ私が正面突破しますね」
「おう………………ん?ちょっと待て、今なんて──────」
「行きますよぉ~~っ!」
ダダンッ!
グルサスが引き止めようとするが止まるはずもなく、イナリは助走をつけその圧倒的なフィジカルで大きく跳び上がる。
まるでバネのようにしなやかな肉体だ。
軽々とビル五、六階程までジャンプすると、落下の勢いも乗せて最前列の魔物を粉砕。
振り下ろされた拳は地面にクレーターと亀裂を生み、余波だけで数十体は巻き込んでぶっ飛ばした。
まさかの先手必勝。
突然襲来した謎のキツネに巻き込まれた魔物達が驚愕の表情を浮かべ、思わずかかったブレーキの波は北側一帯に電波して行く。
まだ何が何だか理解出来ていないのが多数の中、何とか復活した少数の魔物達がイナリの四方を囲む。
唸り声で威嚇するものの、どこか引け腰感が否めない。
それもそうだろう。
何せ空から拳が降ってくるなんぞ、誰も想像していなかったのだから。
「かかってこいやぁ!ですぅ!」
イナリは突然の事態に混乱する魔物達を見据え、好戦的な笑みを浮かべる。
もはや取ってつけたかのような"ですぅ!"にツッコむ人は誰一人居なかった。
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