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第12章
転機
しおりを挟む隙だ。
隙が必要だ。
何か、この膠着状態とも言える現状を崩す、予測不可能な出来事。
異分子の介入。
神野悪五郎の虚を突き、ほんの一瞬だけでも隙を作る方法…………。
目まぐるしく動き回るイナリと男を前に、火球を飛ばしながらシュカは歯ぎしりする。
布石は全て打った。
もう準備は完了しているのだ。
それなのに、いつまで経っても行動に移せない。
何故かは言うまでもないだろう。
今、仮に策を発動した所で、すぐ抜け出されてしまうのがオチだ。
せめてもっと弱っていないと話にならない。
と言うかそもそも、策を発動する暇を男が与えてくれるとは到底思えない。
やつは今とても警戒している。
千年に渡る封印が、精神的に相当効いたのだろう。
もう二度と封印されまいと全力で抵抗するはずだ。
失敗は許されない。
失敗し残されるのは死の未来だけ。
だからおいそれと使うことは出来ず、結果的に膠着状態が今も続いている。
この展開は非常に不味い。
まずなんと言っても妖力には限界がある。
仮にイナリとシュカのどちらかが妖力切れに陥ってしまった場合、あっという間にゲームオーバー。
クニもろとも滅ぼされる。
次にネックレスによるバフの時間制限。
正確に数えられていないので定かではないが、着実に限界は迫っているはずだ。
非常に不味い。
「やあ!」
ザシュッ!と袈裟斬りが決まり、男の肩口から胸にかけて血が垂れる。
しかし、やはり浅い。
「何度言ったら分かる………。貴様らがいくら攻撃しようと、我を殺すことはでき───────」
次の瞬間、この場の全員が……………かの神野悪五郎でさえ、自身の目に映ったその光景に言葉を失った。
顎からドロっとした生温かい何かが垂れるのを感じ、ふと手で触れた。
するとどうだろう。
男の指に付着していたのは、赤黒く粘り気のある血液だった。
吐血したのだ。
何の前兆もなく突然、唾液のように口から溢れた。
今まで見たことがない光景に、ほんの一瞬男の思考が停止した。
ぴちょん…………。
血が地面に落下した微かな音で我に返る。
現状は未だに理解できない。
しかし危機を察知し、すぐさまその場を離れようとする────────が、それよりも先にシュカが動き出していた。
言うなれば経験の差だろう。
イナリより早く動き始めた神野悪五郎。
だが、シュカの方がさらに早い。
彼が封印されていた千年の間、修羅場を潜り続けてきたシュカだからこそ、先に反応できた。
千載一遇のチャンス。
これを逃せば後は無い。
足元に血の陣を描き、乱暴に手を押し付ける。
パリッと紅の妖気が流された。
ズガガガッ!!
「グッ…………な、にぃ………!?」
男が引く寸前、陣による命令を受けた術式が発動。
男の体を突き破って、内部から血色の剣山が飛び出す。
背中、腹、胸や肩。
至る場所から計六本の突起が姿を現した。
男がさらに吐血する。
実は男の内部に侵入させた血液の塊は、内部発火に使用したので全てではなかったのだ。
ご覧の通り別の術式が刻まれたものを六つ、男の体内に残していた。
これが一つ目の布石。
妖気を霧散させる効果がある妖術を組み込んだおかげで、倦怠感を抱いたであろう男がふらりとよろける。
まだここで終わりじゃない。
さらにもう一度妖気を流し込むと、今度は電気のように周りに広がって各所で分岐と統合を繰り返す。
出来上がったのは巨大な陣。
男を中心とした半径七メートル四方で区切られた、超巨大な陣だ。
各要点を結ぶのは攻撃のさなか密かに混入させた標石。
シュカの妖気が込められた特別製である。
バリバリッ!と先程とは比べ物にならない紅の魔力が迸り、大規模な術式が行使される。
標石から生成されたのは鈍い光を放つ楔だ。
血色のそれは一瞬で伸びて男の体を貫通し、雁字搦めにして強制的にその場に固定する。
「くっ、馬鹿な………!何故破壊できんのだ!」
何度も引っ張ったりして楔から逃げようと試みるが、決して解放されることはなく全て失敗に終わる。
「うへへ~。君の妖気がほとんど枯渇してる状態で助かったよ~。万全の体勢だったら、普通に負けてただろうね~」
そう、男こと神野悪五郎は万全の状態ではなかった。
封印から解除されたばかりなのだ。
当然と言えば当然なのだが、妖気は枯渇し身体的にもかなり鈍っている方だろう。
彼が全力なら、もうとっくのとうに殺されている。
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