247 / 405
第13章
再会
しおりを挟むその後も、ひたすらに原初について書かれた書籍を探し回っては読み漁り、気づけば結構な時間が過ぎ去っていた。
どうやら没頭しすぎていたらしい。
十六冊のうち、最後の一冊を本棚に戻した俺は、背筋を反らせ思いっきり伸びをする。
「う~ん…………いてて、首凝ってんな………」
生粋の猫背が災いして、長時間不自然な体勢で固定されていた背骨や俯き気味だった首が悲鳴を上げる。
アイリスにも注意されたけど、こりゃさすがに姿勢の矯正した方が良いかもな………。
このままではいつか猿人みたいな体勢になってしまいそうだ。
人類の祖先に戻ってしまう。
「…………よし、ジパング行くか」
冗談はさて置き、誰に返事を求めるでもなく俺はそう呟いた。
まぁここには誰も居ないので、独り言なのは当たり前なのだが…………。
─────────もうすぐ会えるね………。
「っ!?」
耳元で声がした。
そっと囁くような甘い吐息が耳をかすめ、何とも言えない懐かしさが胸を抜ける。
どこかで聞いたことがある声色だ。
反射的に右手の手のひらに魔力を練り、それが霧散したことで我に返る。
……………そう言えばここ、魔法使えないんだったな……。
どういう原理かは定かでないが、どうやらここでは魔法が使えないらしい。
おそらく盗難防止や破壊防止のためだろう。
本を取るために飛行魔法を使おうとして失敗したことを思い出し、また反射的とは言え、すぐに戦闘態勢に入ろうとする物騒な自分を恥じ、目を逸らしながら頬をかいた。
「一旦落ち着こう………」
今のは気のせいだったのだろうか。
いや、確かに女の子の声が聞こえた。
最初は誰か別の人が新しく入って来たのかと思ったが、今のところそれらしき気配はこの空間に居ない。
それにあの脳内に直接語りかけられているような声は聞き覚えがあった。
どこで聞いたんだ……?
ふとそんな疑問が頭の中に過ぎるが、首を横に振って霧散させる。
今はそれよりも、こっちの方が大切だ。
"原初の大妖魔"。
イナリにシンパシーを感じられる彼女について、もっと知りたくなった。
と言うのも色々な書籍を読んだが、原初の大妖魔だけ明らかに記述が少なかったのだ。
かつては盛大に暴れ、聖魔戦争のラスボス的な立ち位置に居た存在にしては情報が無さすぎる。
"九尾の狐"と恐れられたキツネの獣人。
意図的な隠蔽なのか、それとも情報を残せるほど原初の大妖魔に接近出来なかったのか………。
真相は分からない。
だったら当事者に話を聞けば良いのでは?
そんな結論に至った。
目的としては、同じ"九尾"という名に縁のある原初の大妖魔について調べることで、今イナリに起きている現象を知ることができるのではないか。
また当時の話を聞くことで、今後起こるであろう原初との衝突に際して有意義な情報を得られるのではないか。
そんなところかな?
そうと決まれば早速明日行ってみるか………。
善は急げってやつだ。
イナリや皆の様子も見ながら、可能なのであれば少し出かけさせてもらおう。
◇◆◇◆◇◆
後日。
結論から言うと、皆は快くジパングに向かうことを許してくれた。
喜ばしいことにイナリの体調が若干落ち着き、熱も下がり気味だったので後は任せて欲しいとの事だ。
皆、優しすぎて泣きそう………。
出かける前に少しイナリとある事について話し、それが終わってから俺は家を出た。
ジパングにはすでに一度行ったことがあるので、転移魔法でひとっ飛びだ。
家の前で魔法を発動すると共に、視界が特有の引き伸ばされる感覚に陥り、気づいた時にはもう別の場所に居た。
和風な内装のされた部屋は我が家の一室に比べて少し大きく、整頓された家具は昔ながらのものが多く自然と安心感をもたらす。
どこかレトロとは違った"昔のもの"。
それこそ江戸時代と言った方が分かりやすいだろうか。
………いや、まぁ本当にこんな部屋が江戸時代にあったかは知らないけどさ。
きっと再現しようと思ったらこんな感じになるんだろうな………そんな部屋だった。
ここはシュカが用意してくれた、俺達専用の部屋だ。
俺が転移魔法を使えると知ったシュカは、いつでも来れるようにとわざわざ城の中の一室を取ったのだ。
そりゃまぁ人前に転移する訳にもいかないから、こういう場所があれば気軽に来れるけどさ………。
なんだか申し訳ない。
ちゃっかり家具まで用意されてるし、泊まること前提の作りだ。
適当に物置みたいな質素な作りで良いものの、シュカのこだわりを感じる一部屋である。
「さて、シュカはどこ居るのかな~………っと」
あ、今更だけど居ない可能性もあるのか………。
何せ相手は一国の主。
そもそも気軽に会える存在ではない上に、きっと今は原初の件の後処理なんかで大忙しだと思われる。
失念していた。
そうだよな、相手の都合もある訳だし…………ううむ、予定を聞いて一回出直すか?
よく考えたらアポ無し訪問ってマナーがなってないか………。
ラフな関係なおかげですっかり忘れていた。
危ない危ない、このまま友達のノリで行ったらとんでもない迷惑野郎だ。
…………………あ、でも一応城には居るみたい。
シュカの気配を見つけた。
どうやら走ってか早歩きかで移動しているらしく、少し動くのが早い。
やっぱり忙しいのかな…………あれ、この感じ………この部屋に向かってる………?
不意におかしな動き方をする気配が気になって首を傾げる。
ここはどちらかと言うと接待に使う向けの部屋が多いから、執務とかで来ることは滅多にないと思うんだけど………。
「────────ろぉ!」
「………ん?」
今、なんか聞こえなかった?
また"繫縛の間"で聞いた例の声か、それとも幻聴………?
「───────シローー!!」
いやこれ、明らかに現実だわ。
部屋の外。
おそらく通路の向こう側から響いてくる聞き覚えのある声に、思わず苦笑いする。
"なぜ彼女がここに居るのだろう"。
そんな疑問が頭の中に浮かぶが、仲良いもんな………であっという間に片付いた。
「マシローーーー!!」
「うわっぷ!?」
出会った時も、イナリやクロを連れて再開した時も変わらなかった、もはや出会い頭の挨拶と化したダイレクトアタック。
真正面の扉をぶち破って飛び込んできた何者かが俺の頭を抱き寄せ、視界が褐色に塞がれる。
な、なんて柔らかい感触なんだ………!
ここは天国か!?
後頭部に回された腕に力が籠ると共に、顔面に押し付けられた凶器がふよんふよん、と形を変えて俺を包み込む。
このままではダメ人間になってしまいそうだ。
だが落ち着け夢咲真白、御歳二百数歳(自分で言っててびっくり)。
お前には大切な嫁が居るだろう、とりあえず落ち着け。
何とか深呼吸を繰り返し、冷静な心を保とうと……………。
「んんっ、そんな熱心にワシの匂いを嗅ぐとは………ワシも会いたかったぞマシロ」
「酷い語弊だ!?」
違うわ!
こっちはただ心を落ち着かせようと……………………あれ、傍から見たらおっしゃる通りでは?
なんか逆に冷静になれた気がする。
そう、冷静になった。
だから随分と艶めかしい彼女の嬌声になんて反応してないし、ザラザラした舌で頬を舐めるのも何とも思ってない。
……………………………嘘です、めっちゃドキドキしてます。
顔や後頭部を抱きしめる全体的に柔らかい感触や、鼻孔をくすぐる独特の甘い匂い。
頬を舐めるザラザラした舌や息遣い。
これでドキドキしない方がおかしいだろう。
もししない奴がいたら、そいつは本物の聖人だ(断言)。
すみません、男子ってこういう生き物なんです………。
「…………久しぶり、センリ」
「うむ。また会えて嬉しいぞマシロ!」
俺の上に覆い被さった猫又の少女ことセンリは、にかっと懐かしい笑みを浮かべた。
17
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる