最強ご主人様はスローライフを送りたい

卯月しろ

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第13章

捕まった

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まだどこか夏の暑さを保ったままの日差しが照らす森林の中で、ギンギンッ!と甲高い金属音のようなものが響き渡る。
天井が開けた空間でぶつかり合うのは、細かく動く五本の蜘蛛の脚と、それを迎え撃つ黒猫の爪、さらに短刀である。

一見マスコットキャラ状態のシュカとセンリは動きに制限がありそうなのだが、その小さな体を上手く駆使して土蜘蛛と渡り合っている。
意外と小回りが効くらしい。

てっきり腕が短すぎて攻撃が届かない、っていうオチになるんじゃないかと思ってたけど、全然そんな事なかった。
特にセンリは黒猫の姿で戦い慣れているのか、動きがだいぶ俊敏な上に的確だ。
爪攻撃もただのひっかきだと中々侮れない。

切れ味だけで言えばそこら辺の刀よりは断然鋭いだろう。
そんな爪を隠した肉球で顔面を踏まれていたと思うと軽くゾッとする。
なんだか今後ふみふみされる時、素直に楽しめない気がしてきた。



ちなみに俺はと言うと、相変わらずのお縄状態で未だに放置されている。
一体いつになったら俺は開放されるのだろうか。
こう、ずっとぽつんと座ってるの、色々な意味で結構辛いんですが…………。
もはや完全に置いてけぼりである。
悲しくなってきた。
…………あれ、目から汗が出てきたぞ?


悲壮感漂う背中(猫背)で、衝突を繰り返す三人に目を向ける。
今のところ、どちらかと言えばシュカとセンリが優勢だろうか。
センリの爪攻撃を脚で弾き、続いて振り下ろされた短刀を上半身を逸らして避ける。


「"妖糸ようし"」


胸を逸らしたまま、土蜘蛛がそう呟き掲げた手のひらから白い糸が伸びる。
細く光沢を持った糸は一直線に手前のシュカの衣服にくっついた。
土蜘蛛がくいっと手首を後ろに曲げる。


「うへ!?」


とても強い粘着力を持っていたのだろう。
突如として横から引っ張られたのに、取れることもちぎれることも無く、あっという間に土蜘蛛の手中に手繰り寄せられてしまった。

そこからはまさに早業。
手のひらにシュカが到着するとほぼ同時に、もう片方の手のひらからも白い糸が飛び出し、彼女をぐるんぐるんに巻いて簀巻きを完成させた。
繭みたいだ…………って、呑気なこと言ってる場合か!

空中で身をひるがえし、俺の近くに着地したセンリの体にも、いつの間にか白い糸が付着していた。
舌打ちが聞こえる。
次の瞬間、ついにセンリまでもがぐるぐるの簀巻きになってしまった。
完全に四肢の動きを封じられたセンリがその場にぽてっと倒れる。


「くぬっ………相変わらず固くて鬱陶しいのぉ………!」
「うへへ~。これはこれで暖かくてありかも~」
「シュカ、頼むから目を覚ましてくれ………」


土蜘蛛の糸に包まれた状態に、一種のくつろぎを覚えたらしい。
確かに寝袋とか似たやつはあるけどさ。
あれとは違ってなんと言うか…………絵面的にアウト。

あの糸の中は意外と暖かいらしい。
あと肌触りも中々良きとのこと。
もしかしたらなんだかんだ言って、案外余裕があのかもしれない。

………………ともかく、これで二人は捕獲完了。
そう簡単には抜け出すことが出来ないはずだ。
鮮やかな手際に感服である。


「捕まっちゃったね~」
「この姿では限度があったかのぅ………」
「うふふ、決着ね~。また今度遊びましょう」


手に抱えていたシュカもセンリの隣に下ろしてから、妖艶な笑みを浮かべた土蜘蛛は俺に歩み寄る。
どうやらまだ諦めていなかったらしい。

さっきまで三人でやり合ってくれていたのが幸いして、まだそこまで距離が近くない。


「じゃあ坊やは…………マシロ君は私が貰っていくわねぇ~」
「…………ふっ、お前にできるならの」
「頑張ってね~」


その"頑張ってね"は果たして俺と土蜘蛛のどちらに向けられた言葉なのか………。
"頑張って逃げてね"なのか、それとも"捕まえるの頑張ってね"なのか。
まぁ、シュカのことだからどちらの意味も含まれているのだろう。
そのまま普通に睡眠を決め込みそうな彼女は、もはやさすがと言うべきである。

ピクリと土蜘蛛が歩みを止めた。


「あー、マジで腰痛い………」


歳的にはおかしくないものの、肉体の若さが帳消しされる絶望的なセリフで腰をトントン叩きながら、俺は凝り固まった体を伸ばす。
もちろん邪魔な縄は横に投げ捨てて、だ。

実はさっき、センリが近くに着地した時、こっそり縄を切っておいてくれたのだ。
おかげで一時間ぶりくらいに自由に体を動かすことが出来た。

自由って素晴らしい……。



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