ち○○で楽しむ異世界生活

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9 預言者

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 異世界の酒が効いたのか、朝までぐっすり眠れた。起きたらもう食事の準備が出来ていた。
 俺個人が生き延びられる可能性は出てきたが、この国が生き延びられるかどうかはまだ分からないな。とは言っても俺だって戦略ゲーム程度の知識しか内政や外交や戦争については分からない。戦場で実際に戦うハメになったりしたらどうしたもんやら。
 朝食後の会議で地図を見せたら、王も王妃もひっくり返っていた。二人とも一目でその価値が分かるか。重要な情報であるので軍で測量を行い、地図の作製方法は軍人に俺が教えるということになった。教えるにはずいぶんと時間がかかるだろうが、やり方さえ伝えられれば勝手に地図が出来上がるようになる。軍事、内政、農業、商業に関して長く議論をしたが、結局は地図が作られて国の実情が分からないことにはどうにもならないという結論になった。手持ちのカードが明確ではないというのはなんともお粗末な気もするが、逆に言えばこの時代ならば手持ちのカードを明確にできるというだけで国として強力な武器になるかもしれない。

 次は預言者か。
 「預言者はどんな人なのかな」
 「預言者様です。信仰を軽視するようなものの言い方はアラヒト様であってもよろしくありません」
 信仰対象と話ができるのだ。神が人間に近い世界では預言者は特別扱いされるか。これは俺の落ち度だったな。
 「その預言者様はどういうお方なんだろう?」
 「預言者、神託の巫女、精霊と隣り合う者。多くの異名がありますが、だいたいどこの国でも重要視されています。災いを未然に防げたりできますからね」
 預言者様の凄さではなく、性格とか見た目を知りたかったのだが、まぁいいか。会えば分かるな。
 「これより先は私は入れませんので、お一人で行って来てください」
 城にある塔のひとつ。ここに預言者様がいるのか。

 ノックをしても返事が無い。部屋に入ると明らかに他の部屋と違う雰囲気があった。
 静かで清潔。赤いビロードの絨毯があり、クッションに少女が座っていた。ふわりとした空気感を持った高級そうな洋服。金髪に深紅の瞳。どことなく人間というよりも動物を連想させる。危険な小型の野生動物だ。
 「アラヒトさん、ですね」
 「アラヒトです。預言者様ですか?」
 若すぎるな。俺の興味の対象では無い。
 「ふふっ。あなたよりは年上ですよ」
 俺の思考が読めるのか?
 「人が考えていることが分かるのですか?」
 「この国の守護精霊が語りかけてくるのです。わずかな気持ちの変化を精霊が読んだのでしょう」
 どういうことができる人なのか、まずはそこが知りたいな。
 「預言者様はどういうことができるんでしょうか?」
 「予言しかできません。しかも精霊がすべてを教えてくれるというわけでもないのです」
 万能では無いということか。
 「あなたがこの世界に飛ばされるということは教えてくれましたよ」
 「今まで預言者様が予言されたことってどのようなことでしょうか?」
 「北の山が崩れる、農作物があまり獲れない、川の水が溢れるというものです。事前に知っていれば人命だけは助かりますから」
 その土地に起こる天災について予言するということか。
 「解決策は人間に任せるのですね」
 「なんでも教えられればいいというものではありませんから」
 預言者様に紅茶を勧められたのでいただいた。ストレートだ。俺の嗜好程度は精霊が教えてくれるらしい。

 「きっとあなたは、この国を存続させるために私が使えないかやって来たのね」
 「まぁそうですね」
 俺には彼らの信仰は重要ではない。
 美しい女たちのために国をどう守ればいいのか。今はそれだけを考えている。
 「私には予言しかできませんよ。ですが精霊が嫌がることをしたらあなたに教えましょう。それは国にとっても不利益を産むものですので」
 「精霊が嫌がることと言いますと、どういったものなのでしょうか?」
 「地形を大きく変えたりすることはだいたい嫌がります。どこかが山なり丘なり川になるというのは、理由があってのことなのですから」
 この文明レベルで山を切り開くとか農地を増やすということまでは考えていなかったが、土壌開発とか開墾とかは方法としてアリだな。あとは物流の高速化と貨幣の流通速度を早くしたらどうにか内需が作れるか?
 なんにせよ間違ったことをやった時には予言者が止めてくれるということが知れただけでもありがたい。
 「お会いできて光栄でした。間違っていたら止めてくれるという存在がいるというだけでも気が楽になるものです」
 「ふふっ。人の気持ちをラクにさせるのが私の仕事ですから。そう言ってもらえると嬉しいですわ」
 いったい年齢はいくつくらいで、どれほどのものを見て来たのだろうな。
 「そういえばなぜサーシャはここに入れないのですか?」
 「・・・あの子が浴びて来た血の匂いを精霊たちが嫌うのです」
 それは国のためにやってきたことだろう。
 信仰対象に嫌われても汚れ仕事をやってきたというのか。
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