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将軍とともに国境にある砦まで向かった。
道中では見知った顔や見知らぬ顔が測量を行っていた。彼らはとっくにアラビア数字をマスターしたらしい。誰か数字について教えてほしいという人間がいたらできるだけ教えろ、という指示を出している。商人や徴税人ならその価値に早く気が付くはずだ。
国境近くに着くと、狭くて入り組んだ地形を利用した頑強そうな砦が見えてきた。簡単に落ちそうな砦には見えないのに、これが抜かれたのか?
「ここでどういう負け方をしたんですか?」
「数で押されました。敵の高機能の鎧のせいで我々の弓は通らず、攻城用の槌で城門を破壊され、ほぼ一方的に蹂躙されたと聞いています」
攻撃手段が無いところが一番キツいな。
「アラヒトさんならどう戦いますか?」
「この砦の先に似たような隘路があれば封鎖し、その上で砦周辺の山ごと削り落とします。生き埋めにする感じです」
通常武器が効かないのであれば、大質量なもので対抗するしかない。
「その作戦は既に考えていましたが却下されました。精霊が納得してくれないというのです」
預言者様がそれでは国にとって先が無いと言っているのか。他にどうすればいいんだ?
「打って出ようにも武器自体が効かないワケですし・・・砦の向こうの地面はどういう状態ですか?」
「水はけのよい岩のような場所ですが・・・」
「大量の粘土を用意しておきましょう。焼き物が立派でしたから粘土も用意はできるはずです。敵の出陣を確認したら粘土を路上に散布。雨が降らないようなら大量の水を流し込みます。重装歩兵ならそれで動けなくなるでしょう」
「そんな足場にしてしまったら我々も動けませんよ?」
「底が広い、木の皿のようなものを作って履けば動けます。あとは弱って動けなくなるまで待って、重いこん棒かなにかで叩けばいいでしょう。相手の装備も奪えます」
「本当にそんなもので浮くんですか?」
「あとで試してみるといいでしょう。沈まなければいいんです」
「ふむ・・・検討してみます」
素人考えだが、地形戦としては悪くないはずだ。
次に攻めて来る時もおそらく相手はこちらをナメてかかってくる。そこを突けば一度くらいは退却させられるだろう。
「指揮官の首のひとつでも取れたら、王も溜飲が下がるのではないでしょうか」
「その程度で落ち着いてもらえればいいんですがね・・・どうにも前線に出たがるので・・・」
行き帰りの移動中に軍の編成について将軍に聞いてみたが、なんというかかなり適当だった。
王直下の騎馬隊がざっくり300。指揮官は王の下に将軍がいて実質的な指揮をする。その下では有力な名家が子飼いの連中を従えて戦闘する。
鎌倉武士のようなものか。数については把握すらしていないようだ。
軍人は屯田兵のようなもので、ふだんは別の仕事をしていて戦争になると甲冑を持って戦いに出る。職業軍人がいてひとつの軍があるという感じではない。ナントカ家という家の名のもとで戦っていて、家同士の連合軍が国難に立ち向かうという印象だ。
「連携が取れないとなると集団戦が難しいですね」
「そもそもとして一騎打ちこそが誉れだという感覚があるのですよ。集団で少数の敵を叩くとなるとやる気を失いますね」
うーん・・・
国軍として再編成ができないのであれば、せめて軍らしい布陣を使えたらいいんだが。
五人編成、十人編成、百人編成、という具合に教えた。各部隊には長がいて、長の命令で動く。長が倒されたら副長の指示で動くか、他の隊に編成し直す。
数で連携することで、個の強さではなく集団としての強さへと変える。一人で戦うよりも死角は減るし、疲れたら休める。人を集団として捉えて戦うという意識が無いのは、おそらく数字の欠如に因るものなのだろうな。
古代中国では既に組織化された軍隊があった。だがこの世界ではまだそういう常識は無い。
「家で管理するのではなく、数で管理して軍を運用するということですか」
「そうです。家をひとつの塊として考えると戦力が極端にバラつきます」
「戦場では細かい数では戦えませんよ。戦場の空気というものがありますから。なにより一騎討ちの否定など王は認めますまい」
そういう側面もあるのだろうが・・・それほど常識化しているというのであれば、組織として動かせればますます効果的だろうな。
「他国の軍隊でもそういう考え方なのですか?」
「家が基本であり、武勲は一騎討ちに拘ります。私もできることなら強い相手と一対一で戦いたいですよ」
ということは、兵の質や組織で負けているのではなく、純粋に武器の質だけで負けているのか。
強い武器だけ教えて作って今の軍で戦ってもらう・・・いや、大量生産ができないな。一日一個作れても三ヵ月で100個作れるかどうかだ。まともな運用はできない。やはり軍自体を再編させた方がいいが、ここまで頑なな相手にそこまで迫れるのか。
「・・・少し考える時間をください」
既に存在している社会制度や通念ほど壊しづらいものは無い。
変化や破壊には数世代もの時間がかかるだろう。もしくは国が滅びるほどの強いインパクトが変化のきっかけになるかもしれないが・・・
道中では見知った顔や見知らぬ顔が測量を行っていた。彼らはとっくにアラビア数字をマスターしたらしい。誰か数字について教えてほしいという人間がいたらできるだけ教えろ、という指示を出している。商人や徴税人ならその価値に早く気が付くはずだ。
国境近くに着くと、狭くて入り組んだ地形を利用した頑強そうな砦が見えてきた。簡単に落ちそうな砦には見えないのに、これが抜かれたのか?
「ここでどういう負け方をしたんですか?」
「数で押されました。敵の高機能の鎧のせいで我々の弓は通らず、攻城用の槌で城門を破壊され、ほぼ一方的に蹂躙されたと聞いています」
攻撃手段が無いところが一番キツいな。
「アラヒトさんならどう戦いますか?」
「この砦の先に似たような隘路があれば封鎖し、その上で砦周辺の山ごと削り落とします。生き埋めにする感じです」
通常武器が効かないのであれば、大質量なもので対抗するしかない。
「その作戦は既に考えていましたが却下されました。精霊が納得してくれないというのです」
預言者様がそれでは国にとって先が無いと言っているのか。他にどうすればいいんだ?
「打って出ようにも武器自体が効かないワケですし・・・砦の向こうの地面はどういう状態ですか?」
「水はけのよい岩のような場所ですが・・・」
「大量の粘土を用意しておきましょう。焼き物が立派でしたから粘土も用意はできるはずです。敵の出陣を確認したら粘土を路上に散布。雨が降らないようなら大量の水を流し込みます。重装歩兵ならそれで動けなくなるでしょう」
「そんな足場にしてしまったら我々も動けませんよ?」
「底が広い、木の皿のようなものを作って履けば動けます。あとは弱って動けなくなるまで待って、重いこん棒かなにかで叩けばいいでしょう。相手の装備も奪えます」
「本当にそんなもので浮くんですか?」
「あとで試してみるといいでしょう。沈まなければいいんです」
「ふむ・・・検討してみます」
素人考えだが、地形戦としては悪くないはずだ。
次に攻めて来る時もおそらく相手はこちらをナメてかかってくる。そこを突けば一度くらいは退却させられるだろう。
「指揮官の首のひとつでも取れたら、王も溜飲が下がるのではないでしょうか」
「その程度で落ち着いてもらえればいいんですがね・・・どうにも前線に出たがるので・・・」
行き帰りの移動中に軍の編成について将軍に聞いてみたが、なんというかかなり適当だった。
王直下の騎馬隊がざっくり300。指揮官は王の下に将軍がいて実質的な指揮をする。その下では有力な名家が子飼いの連中を従えて戦闘する。
鎌倉武士のようなものか。数については把握すらしていないようだ。
軍人は屯田兵のようなもので、ふだんは別の仕事をしていて戦争になると甲冑を持って戦いに出る。職業軍人がいてひとつの軍があるという感じではない。ナントカ家という家の名のもとで戦っていて、家同士の連合軍が国難に立ち向かうという印象だ。
「連携が取れないとなると集団戦が難しいですね」
「そもそもとして一騎打ちこそが誉れだという感覚があるのですよ。集団で少数の敵を叩くとなるとやる気を失いますね」
うーん・・・
国軍として再編成ができないのであれば、せめて軍らしい布陣を使えたらいいんだが。
五人編成、十人編成、百人編成、という具合に教えた。各部隊には長がいて、長の命令で動く。長が倒されたら副長の指示で動くか、他の隊に編成し直す。
数で連携することで、個の強さではなく集団としての強さへと変える。一人で戦うよりも死角は減るし、疲れたら休める。人を集団として捉えて戦うという意識が無いのは、おそらく数字の欠如に因るものなのだろうな。
古代中国では既に組織化された軍隊があった。だがこの世界ではまだそういう常識は無い。
「家で管理するのではなく、数で管理して軍を運用するということですか」
「そうです。家をひとつの塊として考えると戦力が極端にバラつきます」
「戦場では細かい数では戦えませんよ。戦場の空気というものがありますから。なにより一騎討ちの否定など王は認めますまい」
そういう側面もあるのだろうが・・・それほど常識化しているというのであれば、組織として動かせればますます効果的だろうな。
「他国の軍隊でもそういう考え方なのですか?」
「家が基本であり、武勲は一騎討ちに拘ります。私もできることなら強い相手と一対一で戦いたいですよ」
ということは、兵の質や組織で負けているのではなく、純粋に武器の質だけで負けているのか。
強い武器だけ教えて作って今の軍で戦ってもらう・・・いや、大量生産ができないな。一日一個作れても三ヵ月で100個作れるかどうかだ。まともな運用はできない。やはり軍自体を再編させた方がいいが、ここまで頑なな相手にそこまで迫れるのか。
「・・・少し考える時間をください」
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