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42 式典
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論功行賞の式典は滞りなく終わった。
名家への俺のお披露目も兼ねていたので多くの人間から話しかけられたが、いちいち憶えきれないほど人間が寄ってきた。だからこそ近づいて来なかった人間の方が印象に残った。
あとでサーシャに聞いたところ、彼こそラドヴィッツ家当主、オナー・ラドヴィッツ。若いが戦いも統治も巧みだと評判が高い。その国内随一の名家であるラドヴィッツ家は今回の戦争に参加できなかったことを理由に、東側の街道を半分作ることを明言した。戦争に参加しなかった分だけ労働力や食料を提供する、というのが名家のしきたりなのだそうだ。他の名家の連中もラドヴィッツ家に倣い、食料提供や労働力を王家に提供することとなった。
カラシフによるとこれで冬には東から西へと街道がつながる目途が立ったとのことだ。高速流通網ができてしまえばモノの回転率も上がる。消費と生産が順次拡大し始めたらジャガイモだけで決済はしづらくなるだろう。
人に会いすぎて疲れたけれど、王城まで来たからには予言者様に顔を出さないワケにはいかないな。
「アラヒト様、どちらへ行かれるのですか?」
「預言者様に顔を出せって言われていたろ?ちょっとだけでも会ってくる」
「・・・お忘れかもしれませんが、アラヒト様はもう預言者様には会えませんよ」
・・・ああ、そうか。
俺が作った武器でいっぱい人が死んだんだもんな。精霊は血の匂いを嫌う、だったか。もうあの全てを見透かすような赤い瞳を見ることもできなくなったのか。戦争ってのは色んなものが変化するもんだな。
「忘れてたよ。もう預言者様には会えないんだな」
「今後は王妃様だけがお会いすることになるでしょうね」
・・・なんだろうな、この違和感。
国のために戦った人間を、穢れているかのような扱いをする預言者様と精霊に苛立っているのか?他の国でも預言者様や精霊はこういう感情を抱かれているのだろうか?だから預言者様の言葉は疎んじられ、国のために戦う人間には民衆や国がついて来るというかたちになってしまうんだろうな。
乱世が続く中で、預言者様は今後ますます立場が悪くなるかもしれない。
すぐに国がどうこうなるような話ではないが、なにか引っかかるものがあるな。
城を離れて事前に打ち合わせていた通り、顔を隠して城下町へと向かう。
なにが売られているのか見るためだ。
ジャガイモいくつと交換になるのか数字で書かれている。やはり商人というのは目ざといな。もう商売に数字を用いるようになっている。数字がこの国に出来てからまだ半年経ってないぞ。
ざっくり見たところジャガイモや人参といった根菜が多い。紅茶は質の高い高級品から安物までそろっていた。塩やコショウ、香辛料はやや高価か。果物も高い。自分の家で育てて自分の家でだけ消費するのだろう。
砂糖がアホみたいに高い。そういえばサーシャがジャムを好んで食べていたな。ウチだから食える高級品なのだろう。バターやチーズの類もあるがこれまた高級品か。鶏肉や豚肉は果物などよりは安い。珍しいところだと熊肉や馬肉も売られていた。
「大麦も小麦も高いな」
「収穫量が少ないからでしょう。一般的な人々にとってパンは特別な食べ物です。ふだんの主食はイモですね」
安い炭水化物とタンパク質があるという点だけがかろうじての救いという感じだな。燻製肉も売っているが、買うと高くつくのでたいていは村単位で作るそうだ。
うーむ・・・バターもチーズも、水車や風車が安定すればそれなりの量が作れるな。
塩は岩塩の発見を待たないと安くはならなさそうだ。
増やすなら麦か。大麦小麦なら保存も効く。
「来年は適当な土地を借りて、麦を育ててみるか。もっとたくさん獲れる麦の育成方法があるかもしれない」
「では用意させておきます。そろそろ時間ですので、私についてきてください」
諜報部に丸投げして良かったな。数日のうちに孤児の大将たちと会う約束が出来た。
広場に案内されると、見たことの無い美少女たちに囲まれて、いかにもヤンチャそうな美少年たちが大人しく座っていた。
何人かは生傷があるな。
俺は顔を表に出して、彼らに自己紹介をした。
「なんで君たちは怪我をしているんだ?」
「・・・異世界人が俺たちをまとめて潰しに来たと思って、逃げようとしたら返り討ちにされた」
「あなたたち。私たちが本気であなた達を潰したいのだったら、最初に会った時にもう潰していますよ。その程度の知恵も無いのですか?」
あんまり煽らないでくれないか、サーシャ。
「俺は話がしたいだけだ。君たちがここいらの子どもたちの親玉なんだな?」
「そうだ」
いい眼光だな。生きていくために何でもやってきたのだろうが、卑屈さは眼の光の中にはない。
「これから冬になる。どれくらいが生き延びられる?」
「ウチだと半数くらいですね。小さい奴はダメかもしれない」
「ウチは誰も死なせない。絶対に生き残ってみせる」
小さいながらも一国一城の主のような貫録がある。武力で集めるなどしなくて良かった。
「先ほどアレクセイ王様から正式に裁可をいただいた。君たちにものを教え、戦い方を教え、ものの作り方を教え、住む場所と食事とベッドを用意する。そういう場所に住んでみる気は無いか?凍えることもひもじくなることも無い」
何人かの表情が警戒するように変わった。
「俺たちにものなんか教えてなんの得がある?」
「優秀な人間はいくらいても困らないんだよ。君たちはそこを出た後に働いてたっぷりと報酬を得られるようになるし、軍や国は優秀な人間を得ることができる。考えてはもらえないか?」
顔つきを見るに、真剣に考えているな。
「牢獄とは違うのか?」
「ある程度働いてはもらうが、それは規律をしっかりと学んでもらうためだ。居たくなければ出て行ってもらっても構わない。眠っている時間、起きて働いて学んでいる時間は特定の場所に拘束するようなかたちになるが、それ以外の時間は君たちの自由だ。街に出たければ出ればいいし、林や森に入りたければ好きにすればいい。ただ盗みや犯罪は止めてもらう。そのために食事や場所やベッドや服を提供するんだからな。あと過去に因縁があった集団とも同じ屋根の下で暮らすことになるから、和解が必要なら俺を頼ってほしい」
「・・・あまりに俺たちにとって都合が良すぎる。考えさせてほしい」
「俺にとっても都合がいいんだよ。優秀な人間はどれだけいても損は無い」
いきなりこういう話は信じてはもらえないか。
「こちらの準備が出来次第、使いを渡す。雪が降りだす前には準備ができているはずだ」
名家への俺のお披露目も兼ねていたので多くの人間から話しかけられたが、いちいち憶えきれないほど人間が寄ってきた。だからこそ近づいて来なかった人間の方が印象に残った。
あとでサーシャに聞いたところ、彼こそラドヴィッツ家当主、オナー・ラドヴィッツ。若いが戦いも統治も巧みだと評判が高い。その国内随一の名家であるラドヴィッツ家は今回の戦争に参加できなかったことを理由に、東側の街道を半分作ることを明言した。戦争に参加しなかった分だけ労働力や食料を提供する、というのが名家のしきたりなのだそうだ。他の名家の連中もラドヴィッツ家に倣い、食料提供や労働力を王家に提供することとなった。
カラシフによるとこれで冬には東から西へと街道がつながる目途が立ったとのことだ。高速流通網ができてしまえばモノの回転率も上がる。消費と生産が順次拡大し始めたらジャガイモだけで決済はしづらくなるだろう。
人に会いすぎて疲れたけれど、王城まで来たからには予言者様に顔を出さないワケにはいかないな。
「アラヒト様、どちらへ行かれるのですか?」
「預言者様に顔を出せって言われていたろ?ちょっとだけでも会ってくる」
「・・・お忘れかもしれませんが、アラヒト様はもう預言者様には会えませんよ」
・・・ああ、そうか。
俺が作った武器でいっぱい人が死んだんだもんな。精霊は血の匂いを嫌う、だったか。もうあの全てを見透かすような赤い瞳を見ることもできなくなったのか。戦争ってのは色んなものが変化するもんだな。
「忘れてたよ。もう預言者様には会えないんだな」
「今後は王妃様だけがお会いすることになるでしょうね」
・・・なんだろうな、この違和感。
国のために戦った人間を、穢れているかのような扱いをする預言者様と精霊に苛立っているのか?他の国でも預言者様や精霊はこういう感情を抱かれているのだろうか?だから預言者様の言葉は疎んじられ、国のために戦う人間には民衆や国がついて来るというかたちになってしまうんだろうな。
乱世が続く中で、預言者様は今後ますます立場が悪くなるかもしれない。
すぐに国がどうこうなるような話ではないが、なにか引っかかるものがあるな。
城を離れて事前に打ち合わせていた通り、顔を隠して城下町へと向かう。
なにが売られているのか見るためだ。
ジャガイモいくつと交換になるのか数字で書かれている。やはり商人というのは目ざといな。もう商売に数字を用いるようになっている。数字がこの国に出来てからまだ半年経ってないぞ。
ざっくり見たところジャガイモや人参といった根菜が多い。紅茶は質の高い高級品から安物までそろっていた。塩やコショウ、香辛料はやや高価か。果物も高い。自分の家で育てて自分の家でだけ消費するのだろう。
砂糖がアホみたいに高い。そういえばサーシャがジャムを好んで食べていたな。ウチだから食える高級品なのだろう。バターやチーズの類もあるがこれまた高級品か。鶏肉や豚肉は果物などよりは安い。珍しいところだと熊肉や馬肉も売られていた。
「大麦も小麦も高いな」
「収穫量が少ないからでしょう。一般的な人々にとってパンは特別な食べ物です。ふだんの主食はイモですね」
安い炭水化物とタンパク質があるという点だけがかろうじての救いという感じだな。燻製肉も売っているが、買うと高くつくのでたいていは村単位で作るそうだ。
うーむ・・・バターもチーズも、水車や風車が安定すればそれなりの量が作れるな。
塩は岩塩の発見を待たないと安くはならなさそうだ。
増やすなら麦か。大麦小麦なら保存も効く。
「来年は適当な土地を借りて、麦を育ててみるか。もっとたくさん獲れる麦の育成方法があるかもしれない」
「では用意させておきます。そろそろ時間ですので、私についてきてください」
諜報部に丸投げして良かったな。数日のうちに孤児の大将たちと会う約束が出来た。
広場に案内されると、見たことの無い美少女たちに囲まれて、いかにもヤンチャそうな美少年たちが大人しく座っていた。
何人かは生傷があるな。
俺は顔を表に出して、彼らに自己紹介をした。
「なんで君たちは怪我をしているんだ?」
「・・・異世界人が俺たちをまとめて潰しに来たと思って、逃げようとしたら返り討ちにされた」
「あなたたち。私たちが本気であなた達を潰したいのだったら、最初に会った時にもう潰していますよ。その程度の知恵も無いのですか?」
あんまり煽らないでくれないか、サーシャ。
「俺は話がしたいだけだ。君たちがここいらの子どもたちの親玉なんだな?」
「そうだ」
いい眼光だな。生きていくために何でもやってきたのだろうが、卑屈さは眼の光の中にはない。
「これから冬になる。どれくらいが生き延びられる?」
「ウチだと半数くらいですね。小さい奴はダメかもしれない」
「ウチは誰も死なせない。絶対に生き残ってみせる」
小さいながらも一国一城の主のような貫録がある。武力で集めるなどしなくて良かった。
「先ほどアレクセイ王様から正式に裁可をいただいた。君たちにものを教え、戦い方を教え、ものの作り方を教え、住む場所と食事とベッドを用意する。そういう場所に住んでみる気は無いか?凍えることもひもじくなることも無い」
何人かの表情が警戒するように変わった。
「俺たちにものなんか教えてなんの得がある?」
「優秀な人間はいくらいても困らないんだよ。君たちはそこを出た後に働いてたっぷりと報酬を得られるようになるし、軍や国は優秀な人間を得ることができる。考えてはもらえないか?」
顔つきを見るに、真剣に考えているな。
「牢獄とは違うのか?」
「ある程度働いてはもらうが、それは規律をしっかりと学んでもらうためだ。居たくなければ出て行ってもらっても構わない。眠っている時間、起きて働いて学んでいる時間は特定の場所に拘束するようなかたちになるが、それ以外の時間は君たちの自由だ。街に出たければ出ればいいし、林や森に入りたければ好きにすればいい。ただ盗みや犯罪は止めてもらう。そのために食事や場所やベッドや服を提供するんだからな。あと過去に因縁があった集団とも同じ屋根の下で暮らすことになるから、和解が必要なら俺を頼ってほしい」
「・・・あまりに俺たちにとって都合が良すぎる。考えさせてほしい」
「俺にとっても都合がいいんだよ。優秀な人間はどれだけいても損は無い」
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