ち○○で楽しむ異世界生活

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44 宝石

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 カラシフと作り込んだカリキュラムはだいたい予定通りにこなされているようだ。
 必要なものを必修とし、あとは選択授業にする。読み書き計算はできるようになれば、多くの子どもたちが職にありつける。ここでは九九や掛け算や割り算や円周率も教え込んだ。内容的にはほとんど国家の最先端で教えていることと変わりがない。
 たまに様子を見に行っているが、子どもたちがヤンチャ過ぎるくらいで他は特に問題が無さそうだ。諜報部に人員を頼んで正解だったな。子育て経験のある肝っ玉母さんたちが、見事なバランスでうまいこと回してくれている。
 学校運営には面倒も起きなさそうだし、最近はサーシャしか相手をしていなかったからハーレム要員でも補充してもらおうと思っていたら、王妃から王城に呼び出された。

 以前に会議を行った部屋で王妃様に会った。ナイーブな内容みたいだな。
 相変わらず美しいがなにやら憂い顔だ。
 「マハカムが今回の我々の働きについて御礼を送ってくるというのだが、ちょっと困った事になった」
 「私に関係あることでしょうか?」
 「大いにある。今回の防衛戦によって、マハカムに攻め込んでいたチュノスの本隊が撤退したことはもう伝えたな?」
 「ええ、式典前の会議で伺いました」
 「そのマハカムがチュノス軍の襲撃で収穫の一部を強奪されてしまい、我々に払えるものが十分には無いのだそうだ」
 別にいま受け取らなくてもいいじゃないか。
 「貸しにしておくことはできないんですか?」
 「それでは道義が通らない。お前が居た世界ではそれでも良かったのかもしれぬが、国がいつ消えるか分からない時代だからな。次の秋までなど待てん。そこで出された代替案なのだが、お前に王家の女性の一人を贈りたいというのだ」
 王家の女性?
 「それこそペテルグ王家と婚姻関係にあった方が効果的なのではないでしょうか?なぜ私に?」
 「王家間の婚姻は戦争を長引かせるだの、王位継承に関する問題を引き起こすだの問題があってな。姻戚関係を作らぬようにしていたのだ。そこでマハカムは王族でも名家でもないが、軍功があり異世界人であるお前を指名してきたというわけだ。我々が異世界人を囲っているのは周知の事実だからな」
 ・・・気位の高い気取った女と結婚でもしろというのか?ハーレムに結婚は不要だ。
 「私は結婚する気は無いですよ」
 「妾も断るつもりでかなり厳しい条件を伝えたのだがな・・・王族であることは維持するが、その王女の王位継承権は剥奪。その子どもの継承権も剥奪。異世界人は妻でも側室でも無い侍女の立場を求めていると。世間知らずゆえ侍従は一人だけつけるが、とにかくお前に贈りたいということなのだ」
 狙いはなんだ?
 「どういう方なのでしょう?」
 「王位継承権十位、アンナ・マハカム。結婚適齢期をやや逃したらしいがマハカムの宝石と呼ばれているほどの美女だと聞いている。マハカム王も可愛がっていた秘蔵っ子だ」
 かなり上位のお姫様じゃないか。ますます意味が分からない。

 「・・・ずいぶんと前の話になるが、マハカムの王族女性を贈られた国はすべてマハカムによって滅ぼされるか吸収されている。今のマハカムがあるのは王族の女性によるところが大きい。先ほど記憶官にも確認した。この大陸で最も歴史ある王家の女性には、我々が知らぬ能力でもあるのかもしれぬ」
 色仕掛けで国を弱体化させるということなのだろうが、王家の女性のみが知る秘術のようなものがあるのか?男を骨抜きにしちゃうくらいのやつ?
 「アラヒトよ。お前がペテルグにやって来たのは夏の始まりだったな。もうすぐ本格的な冬になるが、国内も軍事も貿易もすべてが良き方向に動いている。お前が使えなくなるのはこの国にとって圧倒的な打撃だ。だが継承権を奪ってまで王女を贈られるとなると、もはや断れぬ状況なのだ」
 俺抜きで勝手に話が進んでいたのか?いや、俺を煩わせないように動いてくれていたのかもな。
 「贈り物は断れないんですよね?」
 「ここまで進んでしまってはもはや無理だな。雪の中でマハカムと戦争をすることになる。下手すれば共倒れだ」
 防衛力はそれなりに上がったが、他国と戦争ができるほど軍にも国にも余裕は無い。
 「私にその王女様をもらって、それでいて籠絡されずにいろと?」
 「端的に言えばそうなるな。やれるかどうかではなく、やってもらわなくてはいけない」
 これは俺の経験だけでは及ばない問題だ。
 そもそも国一番とも言われる女性が、国を傾けるレベルの手練手管を持って本気で俺を籠絡しようとしてきたら・・・うーむ・・・どうなるんだろう?

 「最悪の場合、お前がマハカム王家の女性に骨抜きにされても構わん。この国でなくともお前は生きていけただろうに、お前はこの国の女のためと言いながら十二分に国に尽くしてくれた。今後も精霊の御名に賭けて今までの生活は保障しよう。お前が相手にしなくてはいけない女性はそういう相手だ」
 苦渋の決断という顔つきだな。
 「そこまで苦い顔をされるならやるだけやってみましょう」
 「すまぬな。今動かしている諸々の計画はすべてカラシフとムサエフに投げても構わん。今後はアンナ・マハカムの相手に集中してくれ」
 正直なところ、実際に会ってみないことにはなにも分からないな。
 
 「アラヒト様。本当にその王女様を受け入れられるんですか?」
 謁見の帰りにサーシャが質問してきた。
 「断れないだろう。相手の攻め方が巧かったということだ。他国からはマハカム国の危機を救った御礼として異世界人に王女を与えたとしか見えないだろうしね」
 その王女をうまく御することができたら、王妃にひとつ貸しが作れるな。
 それにこの状況、それほど悪いとも思えない。
 「サーシャ。その王女がペテルグにやって来て最悪の状況とはなんだと思う?」
 「それは・・・アラヒト様が籠絡されて異世界の知識や技術を盗まれること、もしくはアラヒト様が働けなくなるほどその女性に夢中になることです」
 サーシャにすらそう聞こえていたのか。
 「最悪なのはペテルグが滅びるか吸収されることだ。俺が籠絡されるかどうかとか、俺が仕事をしなくなるとか、俺に関する話だけで済むなら別に問題は無いって話だよ」
 そう。俺一人が女性一人に入れ込んだところで、国が滅びるよりはマシだ。そのアンナという女性が我が家に来て落ち着くまでは、国政に関与もせず助言もしなければいい。既に動いている学校や武器開発は気になるが、通貨や市場を運用するまでまだ時間がある。
 まぁあんまり難しく考えず気楽にやろう。
 女性に溺れても国として問題が無いという話であれば、溺れてみるのもいい。
 ・・・国一番の美女か。
 ちょっと楽しみになってきたな。
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