45 / 111
45 太陽
しおりを挟む
リーベリを経由して、マハカム王家の馬車がうちの前に着いた。贅沢な飾りに王家の紋章らしきものが堂々と描かれている。さすがは一国の王女様だな。
侍女が馬車の扉を開くと、太陽のような赤毛の女性が笑顔で降りてきた。ゆるやかなパーマがかかった赤毛が腰まで伸び、動くたびにふわりと揺れる。長く小さな鼻に、クルミを想像させる大きく茶色い瞳が丸く朗らかな顔つきによく似合っている。近づいてくると長いまつ毛まで赤い。
太陽が大地に降り立った、というカンジだな。
「あなたがアラヒト様でしょうか?」
「私がアラヒトです。アンナ・マハカム姫ですね。歓迎します」
にっこりと笑った後に、宮廷作法らしき礼をした。
なるほど。俺が抱いた女性を下賤などと言う人間がいるのはこれか。
今まで会った人間とは所作がまるで違う。
サーシャたちの所作は的確な重心移動と、有事の際の俊敏性に重きを置いている。
アンナの所作は自分の美しさを最大限見せつけるための動きだ。日本舞踊に近いかな。
「アンナ・マハカムです。アンナとお呼びください。もはや王家の人間ではなく、ただのアンナです。こちらは侍女のクレアです。私では及ばないこともあるだろうと教育係として連れてきました」
侍女の所作はサーシャたちに似ている。実質的には護衛だろうな。
「私、とても楽しみにしていましたのよ?異世界の才に満ち溢れた殿方と結ばれるなど、マハカムでもありえないお話ですもの」
「立ち話もなんですから、まずは家に入ってもらいましょうか」
「可愛い別邸ですこと」
本宅なんですが。城を家にしていた女性が侍女みたいなことなんてできるのかな。
アンナは家の中をサーシャに案内されて、最後に俺が紅茶を飲んでいる食堂へとやって来た。対面へ座るように促す。アンナの椅子をクレアが引こうとしたが、アンナは自分で椅子を引き座った。背筋を伸ばして背もたれには腰かけない。仕事の交渉でもしているかのような隙の無い見事な居住まいだ。
「まずはこの家の生活に慣れてください。外出はこの屋敷の誰かを連れてお願いします。なにかありましたら外交問題に発展しますので」
「ご配慮に感謝します」
「マハカムについては、山を挟んでこのペテルグの南にあるということしか知りません。どういった国なのでしょうか?」
「そうですね・・・果物が美味しいですよ!あとは香辛料や野菜などは他国に比べてよく育つと聞いています。土地が良いのか野菜はたくさん獲れます」
へぇー。なんだかよさげな土地だな。
「それに綿です。そうそう!アラヒト様が多くの女性を求めているというので、たくさんの織物を持ってきたんですよ!皆さんで着る服を作りましょう!」
「それはありがたい。仕立てのいい服ができたらここで働いている皆も喜ぶでしょう」
いまのところ王女様っぽいところとその美貌を除けばふつうの女性だな。
困るのは目的が分からないことだ。
「この家では俺に仕える侍女という立場になるのですが、ご理解されていますか?」
「もちろんです。殿方に仕えるためにやってきたのですから」
「家の中での仕事はサーシャや他の女性たちを参考にしてください。彼女がこの家の女主人ですから、サーシャの指示は俺の命令だと思ってください」
「よく分かりました。サーシャ様、世間知らずの女ですがよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。私も王女様だとは思わずに指導させていただきます」
紅茶とタバコを持って来させて、自室にサーシャを呼んだ。最近はタバコの質が安定してきたので、紙巻きたばこを作ってもらった。桐箱に保管して火さえあればいつでも吸えるようにしている。葉巻もパイプも悪くはないが、俺は紙巻きの方が好みだ。
「アンナとクレアのふたりをどう見た?君の意見が聞きたい」
「クレアの方は護衛ですね。アンナの方はやはり目的が分かりません。本当に異世界人の殿方と結ばれたいというだけで別の国に侍女として来るんでしょうか?」
目的が分からないってところが怖いんだよな。
「本日はるばるやって来た女性たちですので、床入りも本日にしますか?」
「長旅で疲れているだろうし、しっかり休んでもらって疲れが取れてからでいいだろう。クレアとは同室にしてやってくれ」
「ではそのように伝えておきます」
初夜を迎えるというのだったら今日のうちに抱くのが礼儀なのだろうが、別に結婚したワケじゃないからなぁ。俺の顔を見ても特別な反応を示さなかったし、クレアに見えた緊張感のようなものも感じなかった。心の底からここに来るのが楽しみだった、という雰囲気がアンナからはにじんでいた。
「マハカム国内の情勢についてはどれくらい分かっている?」
「仮想敵国ではありませんのマハカムは最も情報が少ない国ですね。リーベリとの交易で稼いでいる農業国家です。チュノスの本隊を何度も相手にしているのですから、軍もそれなりの強さだと思います」
国としての発展、軍の強さ、すべてにおいて中程度だということか。アンナの話を鵜呑みにすれば食糧にだけは困らなそうな言い方だったな。
「ひとつ引っかかることがあるのですが・・・マハカムの織物は私たちが一生かかっても買えないような超高級品です。王族や貴族、リーベリの大商人あたりでなくてはおいそれと手が出るようなものではありません。戦勝の対価として織物で支払ってもいいようなはずなのに、私たちの分まで持ってきているというのが解せません」
十分な対価を国家ではなく、わざわざ俺に贈ったということか。
「他の国にも俺がペテルグで働いているということは知られているだろうが、俺自身のことはどの程度知られているんだ?」
「虚実織り交ぜて流布させていますので、仕事の内容までは分からないかと。風体はさすがに目立ちますので他の国でも知られているかもしれません」
「ペテルグという国にではなく俺に女性と貢物をする、ということにどういう意味があると考えられる?」
「マハカム内部に諜報部でも捕え切れていない大きな問題を抱えていて、異世界人の知恵が欲しいとか・・・もしくはペテルグ王家とアラヒト様の関係を崩すために贈られて来たか・・・」
サーシャは自分の言葉に自信が無さそうだ。
ちょっと会っただけでなにを考えているのか分かるほど、簡単なお姫様ではないということか。
「他の侍女たちにもそれとなくアンナとクレアにマハカムの話を聞き出すように指示しておいてくれ。それとマハカム内部の情報も頼む。間違った情報を掴まされるとこちらが踊ることになる」
「承知しました」
サーシャのことだから既に手配済みだろうな。
侍女が馬車の扉を開くと、太陽のような赤毛の女性が笑顔で降りてきた。ゆるやかなパーマがかかった赤毛が腰まで伸び、動くたびにふわりと揺れる。長く小さな鼻に、クルミを想像させる大きく茶色い瞳が丸く朗らかな顔つきによく似合っている。近づいてくると長いまつ毛まで赤い。
太陽が大地に降り立った、というカンジだな。
「あなたがアラヒト様でしょうか?」
「私がアラヒトです。アンナ・マハカム姫ですね。歓迎します」
にっこりと笑った後に、宮廷作法らしき礼をした。
なるほど。俺が抱いた女性を下賤などと言う人間がいるのはこれか。
今まで会った人間とは所作がまるで違う。
サーシャたちの所作は的確な重心移動と、有事の際の俊敏性に重きを置いている。
アンナの所作は自分の美しさを最大限見せつけるための動きだ。日本舞踊に近いかな。
「アンナ・マハカムです。アンナとお呼びください。もはや王家の人間ではなく、ただのアンナです。こちらは侍女のクレアです。私では及ばないこともあるだろうと教育係として連れてきました」
侍女の所作はサーシャたちに似ている。実質的には護衛だろうな。
「私、とても楽しみにしていましたのよ?異世界の才に満ち溢れた殿方と結ばれるなど、マハカムでもありえないお話ですもの」
「立ち話もなんですから、まずは家に入ってもらいましょうか」
「可愛い別邸ですこと」
本宅なんですが。城を家にしていた女性が侍女みたいなことなんてできるのかな。
アンナは家の中をサーシャに案内されて、最後に俺が紅茶を飲んでいる食堂へとやって来た。対面へ座るように促す。アンナの椅子をクレアが引こうとしたが、アンナは自分で椅子を引き座った。背筋を伸ばして背もたれには腰かけない。仕事の交渉でもしているかのような隙の無い見事な居住まいだ。
「まずはこの家の生活に慣れてください。外出はこの屋敷の誰かを連れてお願いします。なにかありましたら外交問題に発展しますので」
「ご配慮に感謝します」
「マハカムについては、山を挟んでこのペテルグの南にあるということしか知りません。どういった国なのでしょうか?」
「そうですね・・・果物が美味しいですよ!あとは香辛料や野菜などは他国に比べてよく育つと聞いています。土地が良いのか野菜はたくさん獲れます」
へぇー。なんだかよさげな土地だな。
「それに綿です。そうそう!アラヒト様が多くの女性を求めているというので、たくさんの織物を持ってきたんですよ!皆さんで着る服を作りましょう!」
「それはありがたい。仕立てのいい服ができたらここで働いている皆も喜ぶでしょう」
いまのところ王女様っぽいところとその美貌を除けばふつうの女性だな。
困るのは目的が分からないことだ。
「この家では俺に仕える侍女という立場になるのですが、ご理解されていますか?」
「もちろんです。殿方に仕えるためにやってきたのですから」
「家の中での仕事はサーシャや他の女性たちを参考にしてください。彼女がこの家の女主人ですから、サーシャの指示は俺の命令だと思ってください」
「よく分かりました。サーシャ様、世間知らずの女ですがよろしくお願いします」
「よろしくお願いします。私も王女様だとは思わずに指導させていただきます」
紅茶とタバコを持って来させて、自室にサーシャを呼んだ。最近はタバコの質が安定してきたので、紙巻きたばこを作ってもらった。桐箱に保管して火さえあればいつでも吸えるようにしている。葉巻もパイプも悪くはないが、俺は紙巻きの方が好みだ。
「アンナとクレアのふたりをどう見た?君の意見が聞きたい」
「クレアの方は護衛ですね。アンナの方はやはり目的が分かりません。本当に異世界人の殿方と結ばれたいというだけで別の国に侍女として来るんでしょうか?」
目的が分からないってところが怖いんだよな。
「本日はるばるやって来た女性たちですので、床入りも本日にしますか?」
「長旅で疲れているだろうし、しっかり休んでもらって疲れが取れてからでいいだろう。クレアとは同室にしてやってくれ」
「ではそのように伝えておきます」
初夜を迎えるというのだったら今日のうちに抱くのが礼儀なのだろうが、別に結婚したワケじゃないからなぁ。俺の顔を見ても特別な反応を示さなかったし、クレアに見えた緊張感のようなものも感じなかった。心の底からここに来るのが楽しみだった、という雰囲気がアンナからはにじんでいた。
「マハカム国内の情勢についてはどれくらい分かっている?」
「仮想敵国ではありませんのマハカムは最も情報が少ない国ですね。リーベリとの交易で稼いでいる農業国家です。チュノスの本隊を何度も相手にしているのですから、軍もそれなりの強さだと思います」
国としての発展、軍の強さ、すべてにおいて中程度だということか。アンナの話を鵜呑みにすれば食糧にだけは困らなそうな言い方だったな。
「ひとつ引っかかることがあるのですが・・・マハカムの織物は私たちが一生かかっても買えないような超高級品です。王族や貴族、リーベリの大商人あたりでなくてはおいそれと手が出るようなものではありません。戦勝の対価として織物で支払ってもいいようなはずなのに、私たちの分まで持ってきているというのが解せません」
十分な対価を国家ではなく、わざわざ俺に贈ったということか。
「他の国にも俺がペテルグで働いているということは知られているだろうが、俺自身のことはどの程度知られているんだ?」
「虚実織り交ぜて流布させていますので、仕事の内容までは分からないかと。風体はさすがに目立ちますので他の国でも知られているかもしれません」
「ペテルグという国にではなく俺に女性と貢物をする、ということにどういう意味があると考えられる?」
「マハカム内部に諜報部でも捕え切れていない大きな問題を抱えていて、異世界人の知恵が欲しいとか・・・もしくはペテルグ王家とアラヒト様の関係を崩すために贈られて来たか・・・」
サーシャは自分の言葉に自信が無さそうだ。
ちょっと会っただけでなにを考えているのか分かるほど、簡単なお姫様ではないということか。
「他の侍女たちにもそれとなくアンナとクレアにマハカムの話を聞き出すように指示しておいてくれ。それとマハカム内部の情報も頼む。間違った情報を掴まされるとこちらが踊ることになる」
「承知しました」
サーシャのことだから既に手配済みだろうな。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる