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59 盟約
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ドワーフ族はチュノスによって虐げられ、ほとんど奴隷のような扱いになっているそうだ。
「既にご存知かもしれませんが、この冬はチュノスに食料が少なく、ドワーフ族もまた滅びてしまうかもしれません。破滅を前にしているドワーフ族に、異世界人の知恵かペテルグの軍事力を貸していただけないでしょうか?」
「わが国は鉄が無い。よってチュノスの兵を倒せる武器が無い」
「護衛を付けていただければ、腕のいい職人数名だけをこちらに連れてきましょう。この冬に武器をそろえることができれば、ペテルグ国はチュノスとも互角に戦えるのではないのですかな?」
「兵力差が埋まらない限り、将軍として兵は出せません」
「兵力差は埋まります。チュノスの重装歩兵はご存じですな」
「何度も煮え湯を飲まされたからな」
「あの鎧は粗悪品です。我々ドワーフ族はチュノスの隷属から逃れるために、誇りを捨ててあのような鎧を作りました。チュノスを倒せる国が現れるのをずっと待っていたのです。ドワーフ族の保護を約束していただけるならば、あのような重いだけの鎧など簡単に貫く剣でも槍でも作りましょう」
あの分厚い鎧を貫ける剣が作れるのか?であれば勝算が見えてくる。マハカムに攻める気配だけでも見せてもらい、さらにチュノス内部でドワーフ族が蜂起したら、城どころか王城まで落とせるかもしれない。攻城戦に固執する必要すら無いか。砦を無視して進軍して野戦に持ち込み、機動力で落とすという手もある。
「客人よ。少し我々だけで考えさせてもらいたい。客室を案内するからそこで待っていてくれないか?」
王妃の言葉で現実に戻された。
「よく考えてください。ドワーフには時間が残されていません」
「アラヒト。チュノスに勝てると思うか?」
「ドワーフの武器次第ですね。どう戦うか、どこで戦うか、新しい武器をどう作るかで話が変わってきます」
「しかし・・・亜人と盟を結ぶなど前例が無いぞ」
アンナも似たような話をしていたな。亜人が居ても人との交わりは少ないと。ましてや盟約となるとな。しかしこれ・・・
「チュノスが仕掛けた罠の可能性は無いですか?」
「無いだろうな。アラヒト、これを見ろ。あのドワーフは雪山をわざわざ超えて、手土産にとドワーフ族の剣を持ってきた。このような質の高い剣を大量に作ってもらえるなら、数の差はそこまで大きくは無い。あのドワーフに嘘偽りは無いと俺は信じる」
王が持っている剣は、たしかにチュノスの兵から手に入れた剣とは存在感が違う。これならあの鎧ですら両断するかもしれない。あとで工房で試してもらうか。
「ムサエフ。将軍としてどう思う?」
「アラヒトさんと同意見です。大前提としてあの鎧を貫ける武器が必要です。王がおっしゃる通りだとすれば、あのスットロい重装歩兵を騎馬と剣で切れると思うと胸が躍りますね。ドワーフ族が滅びたとしたら、我々は独自に製鉄技術を確立し、鉄製の武器を作らなくてはいけません」
王妃の美しい顔に陰りが見える。意思決定をする時のこの顔が美しいんだよな。
「カラシフ。春の遠征に耐えられるだけの蓄えはあるか?」
「水は現地調達しなくてはいけませんが、食料は十分にあります。統治に必要なだけの食料もギリギリ用意できるでしょう。馬が必要でしたらタージから買いつけます」
「サーシャ。チュノスの内情はどうなっている?」
「去年のマハカム遠征の失敗、それに水害による不作で食糧難が起きています。タージから食料を買っていたようですが、タージ国内の内戦が大きくなってからは手に入りづらい状況のようです。マハカムがチュノスになにかを売っている気配もありません」
リザの潜入がここまで効いていたのか。なんでもやっておくもんだな。
「決まりだな。これほどの好機など孫の代まで無いだろう。ペテルグはドワーフと盟を結ぶ。ただし武器が先で、我が国に勝算が見えてからだ。どう戦うかはアラヒトとムサエフで詰めろ。サーシャ。チュノス内部にいる諜報部員を使って、ペテルグに連れてくるドワーフ族の技術者の護衛に当たれ」
「承知しました。不足分の諜報員をチュノス内部に入れますが、それでよろしいですね?」
「任せる」
食糧不足で弱ったチュノスの兵に対して、ドワーフによる鉄製武器。
とはいえほとんど倍の戦力と強固な城に対して、これだけで足りるか?
「もう一つか、できれば二つ。策か武器が欲しいところですね。現状ではまだまだ足りない気がします」
チュノス国内の簡易地図を見ながら、全員が考え込んでいる。
ムサエフも同様の感想を持ったようだ。
「戦力を分散させられたら各個撃破できるかもしれませんね。どう分散させるか・・・」
「サーシャ。チュノス国内で買収によって内乱を起こせる可能性はあるか?」
「もう少し探ってみないと分かりません。ですがチュノス王の悪政にうんざりしている機運はあります。どこかの家を味方につけて、身分と土地を保証したら可能性はあると思います」
「この冬の間にできそうか?」
「難しいところですが・・・戦局がペテルグに傾けばあるいは」
「ドワーフ族の蜂起があれば戦力は散るが・・・実質的にドワーフ族の大半を見殺しにする下策になるな」
戦力分散による弱体化。攻城戦。あるいは野戦に持ち込むか。
議論が煮詰まったな。
「どこまで攻めるか、という目的すら決まらない。ドワーフを見殺しにするような作戦では我々の中に内紛の火種を抱えるというわけか。まぁ今日のところはこれまでだな。まずはドワーフと盟を結び、鉄製武器をどこまで量産できるかが見通せてから考えてもいいだろう」
「王妃様のおっしゃる通りですね。軍部も練兵を増やします」
「内政部も再確認しておきます。食べ物が無くては勝てませんから」
「諜報部はドワーフ族がまとめてペテルグに入れるかどうか、探りを入れてみようと思います。内戦中のタージを経由すれば、ドワーフ族をまとめて庇護できるかもしれません」
この冬が終わったら、チュノスとペテルグは戦争になるか。
「既にご存知かもしれませんが、この冬はチュノスに食料が少なく、ドワーフ族もまた滅びてしまうかもしれません。破滅を前にしているドワーフ族に、異世界人の知恵かペテルグの軍事力を貸していただけないでしょうか?」
「わが国は鉄が無い。よってチュノスの兵を倒せる武器が無い」
「護衛を付けていただければ、腕のいい職人数名だけをこちらに連れてきましょう。この冬に武器をそろえることができれば、ペテルグ国はチュノスとも互角に戦えるのではないのですかな?」
「兵力差が埋まらない限り、将軍として兵は出せません」
「兵力差は埋まります。チュノスの重装歩兵はご存じですな」
「何度も煮え湯を飲まされたからな」
「あの鎧は粗悪品です。我々ドワーフ族はチュノスの隷属から逃れるために、誇りを捨ててあのような鎧を作りました。チュノスを倒せる国が現れるのをずっと待っていたのです。ドワーフ族の保護を約束していただけるならば、あのような重いだけの鎧など簡単に貫く剣でも槍でも作りましょう」
あの分厚い鎧を貫ける剣が作れるのか?であれば勝算が見えてくる。マハカムに攻める気配だけでも見せてもらい、さらにチュノス内部でドワーフ族が蜂起したら、城どころか王城まで落とせるかもしれない。攻城戦に固執する必要すら無いか。砦を無視して進軍して野戦に持ち込み、機動力で落とすという手もある。
「客人よ。少し我々だけで考えさせてもらいたい。客室を案内するからそこで待っていてくれないか?」
王妃の言葉で現実に戻された。
「よく考えてください。ドワーフには時間が残されていません」
「アラヒト。チュノスに勝てると思うか?」
「ドワーフの武器次第ですね。どう戦うか、どこで戦うか、新しい武器をどう作るかで話が変わってきます」
「しかし・・・亜人と盟を結ぶなど前例が無いぞ」
アンナも似たような話をしていたな。亜人が居ても人との交わりは少ないと。ましてや盟約となるとな。しかしこれ・・・
「チュノスが仕掛けた罠の可能性は無いですか?」
「無いだろうな。アラヒト、これを見ろ。あのドワーフは雪山をわざわざ超えて、手土産にとドワーフ族の剣を持ってきた。このような質の高い剣を大量に作ってもらえるなら、数の差はそこまで大きくは無い。あのドワーフに嘘偽りは無いと俺は信じる」
王が持っている剣は、たしかにチュノスの兵から手に入れた剣とは存在感が違う。これならあの鎧ですら両断するかもしれない。あとで工房で試してもらうか。
「ムサエフ。将軍としてどう思う?」
「アラヒトさんと同意見です。大前提としてあの鎧を貫ける武器が必要です。王がおっしゃる通りだとすれば、あのスットロい重装歩兵を騎馬と剣で切れると思うと胸が躍りますね。ドワーフ族が滅びたとしたら、我々は独自に製鉄技術を確立し、鉄製の武器を作らなくてはいけません」
王妃の美しい顔に陰りが見える。意思決定をする時のこの顔が美しいんだよな。
「カラシフ。春の遠征に耐えられるだけの蓄えはあるか?」
「水は現地調達しなくてはいけませんが、食料は十分にあります。統治に必要なだけの食料もギリギリ用意できるでしょう。馬が必要でしたらタージから買いつけます」
「サーシャ。チュノスの内情はどうなっている?」
「去年のマハカム遠征の失敗、それに水害による不作で食糧難が起きています。タージから食料を買っていたようですが、タージ国内の内戦が大きくなってからは手に入りづらい状況のようです。マハカムがチュノスになにかを売っている気配もありません」
リザの潜入がここまで効いていたのか。なんでもやっておくもんだな。
「決まりだな。これほどの好機など孫の代まで無いだろう。ペテルグはドワーフと盟を結ぶ。ただし武器が先で、我が国に勝算が見えてからだ。どう戦うかはアラヒトとムサエフで詰めろ。サーシャ。チュノス内部にいる諜報部員を使って、ペテルグに連れてくるドワーフ族の技術者の護衛に当たれ」
「承知しました。不足分の諜報員をチュノス内部に入れますが、それでよろしいですね?」
「任せる」
食糧不足で弱ったチュノスの兵に対して、ドワーフによる鉄製武器。
とはいえほとんど倍の戦力と強固な城に対して、これだけで足りるか?
「もう一つか、できれば二つ。策か武器が欲しいところですね。現状ではまだまだ足りない気がします」
チュノス国内の簡易地図を見ながら、全員が考え込んでいる。
ムサエフも同様の感想を持ったようだ。
「戦力を分散させられたら各個撃破できるかもしれませんね。どう分散させるか・・・」
「サーシャ。チュノス国内で買収によって内乱を起こせる可能性はあるか?」
「もう少し探ってみないと分かりません。ですがチュノス王の悪政にうんざりしている機運はあります。どこかの家を味方につけて、身分と土地を保証したら可能性はあると思います」
「この冬の間にできそうか?」
「難しいところですが・・・戦局がペテルグに傾けばあるいは」
「ドワーフ族の蜂起があれば戦力は散るが・・・実質的にドワーフ族の大半を見殺しにする下策になるな」
戦力分散による弱体化。攻城戦。あるいは野戦に持ち込むか。
議論が煮詰まったな。
「どこまで攻めるか、という目的すら決まらない。ドワーフを見殺しにするような作戦では我々の中に内紛の火種を抱えるというわけか。まぁ今日のところはこれまでだな。まずはドワーフと盟を結び、鉄製武器をどこまで量産できるかが見通せてから考えてもいいだろう」
「王妃様のおっしゃる通りですね。軍部も練兵を増やします」
「内政部も再確認しておきます。食べ物が無くては勝てませんから」
「諜報部はドワーフ族がまとめてペテルグに入れるかどうか、探りを入れてみようと思います。内戦中のタージを経由すれば、ドワーフ族をまとめて庇護できるかもしれません」
この冬が終わったら、チュノスとペテルグは戦争になるか。
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