異世界マッチョ

文字の大きさ
4 / 133

4 マッチョさん、装備を整えて肉を食べる

しおりを挟む
 村長が地図を見ながら歩き、あっさりと武器屋が見つかった。
 武器屋の看板は剣の絵になっていた。ああ、文字が読めない人にはこういう配慮も必要なのだなと感心する。
 「あ、ここですね。私は武器とか使ったことが無いので、初めて来ました。」
 とにかく入ろう。
 「ごめんください。」
 「あいよ。」
 「武器を見せていただきたいのですが。斧をみせてもらえますか?」
 「斧。うーん、斧ねぇ。」
 親方が渋っている。なにがマズいのだろうか?
 「あんまり使い手がいなくてね、ウチでは作らなくなったんですよ。ほら、剣とか槍のほうが使い勝手がいいでしょう?子どもの頃に棒で遊んだりしているうちに、使い方もなんとなく憶えちゃいますからね。」
 「無いんですか?」
 「親方、アレがあるじゃないですか!」
 丁稚さんが割って入ってきた。
 「バカ野郎!あんなもん扱える人間・・・ん?」
 「この方なら扱えるんじゃないんですか?こんなデカい筋肉の人、見たことないですよ。」
 「ああ、うん。まぁとりあえず人数集めて倉庫から持ってこい。」
 「へーい!」
 どんな斧が出てくるんだ。
 うん、斧が出てきた。想像よりもすごく大きいけれど。
 人間のカラダの半分くらい、推定40kgってとこか?
 「いや、強い斧を作ろうと思って作ってみたはいいんですが。これを扱える人がいなくて。この通り重そうでしょう。」
 「ちょっと持たせてもらえますか?」
 片手で持つと、なかなか筋肉に来る。
 軽く振ってみる。
 ああ、よく工夫して作られているな。握り手のところがダンベルのようで、やたら手に馴染んですっぽ抜けることも無さそうだ。巾があるから盾としても使えるかもしれない。それに、トレーニングに用いればかなりの高負荷が望めそうだ。
 「お、お客さん、それ両手斧ですよ。片手でそれを・・・」
 「この方のおかげで、うちの村に来たオークが逃げたんですよ?」
 「逃げた?へぇー、いやまぁ、これを片手で持ち上げるような人を見たら逃げるかぁ・・・」
 「これ、おいくらくらいでしょう?」
 「ああ、お代はいただけません。人が使えないようなものを作ってしまった時点で、鍛冶屋失格です。それは戒めのために置いておいたんです。」
 こんな立派なトレーニング道具、いや武器をタダでもらうのは気が引ける。
 「さすがにタダというわけには。」
 「あーじゃぁこうしましょう。そこまで大きい斧だと、持ち歩いている時点で怪しまれます。その武器を背中で背負えるような、サヤみたいなもんをうちで作りますので、お代はそれでということで。あとはメンテナンスもできればウチでお願いします。それを背負ってうちに来ていただけるだけで、いい宣伝になるので。」
 うーん、ずいぶんと安く上がってしまった。引き下がらなそうだったので、好意に甘えることにした。
 「しかしその、ずいぶんと変わった格好ですねぇ。その恰好で魔物退治をするんで?」
 「いやその、ちょっと宗教的なものでして。魔物退治をするんであれば、きちんとした服も欲しいんですが。」
 「ではそちらの方も私の店で誂えさせていただきます。ここまで大きいカラダの鎧なんて、そうそう無いですよ。おい、寸法を取らせてもらえ。」
 「へーい。」
 既製服が着られないのは、異世界でも同じなのか。
 「ついでに、下着や普段着も頼めますか?」
 「服屋とも商売柄付き合いがあるんで、なんとかしますよ。」
 会計を聞いて村長が驚いていた。相場よりも相当に安くしてくれたようだ。
 「いいんですか?そんなに安くしていただいて。」
 「いやー嬉しいんですよ。武器なんて使ってナンボですからねぇ。まさかこの大斧が日の目を見る時が来るとはなぁ・・・」作ってみて良かったという顔をしている。こういうのを職人魂とでも呼ぶのだろう。
 「三日後くらいには出来上がっていると思うんで、取りにいらしてください。お待ちしています。」
 ふう。これで装備の問題は片付いた。肉だ。肉が食べたい。


 「こちらです。ここの料理はこの街で一番旨いと評判ですよ。」
 村長に連れられて、料理屋へとやって来た。肉だ。やっと食べられる。できればトレーニング後がいいのだが、まずは肉を食べられるところを確保しなければ。
 「いらっしゃいませー」
 「二名でお願いします。」
 「こちらのテーブルへどうぞー!」
 メニューを見せてもらう。ウサギ肉の香草焼、豚肉のピカタ、鶏肉の一枚焼き。肉だ。
 しかしやはり高い。
 歩きながら村長と話していて、おおよその貨幣価値が分かってきた。一般的な街の平均所得がだいたい月に金貨三枚。村の平均所得がだいたい金貨一枚程度。
 さらに銀貨と銅貨があり、銀貨十枚で金貨一枚。銅貨十枚で銀貨一枚。両替の計算がラクなのはいいことだ。
 そしてこのメニューには、銀貨一枚から銅貨五枚くらいが相場になっている。だいたい一万円から五千円という程度だろう。日本の二倍から三倍の値段だなぁ。牛肉に至っては時価だ。生活が安定していない身ではなかなか口にできないだろう。
 「たしかに多少高いですな。しかしまぁ今日は私の奢りですから、お好きなだけ食べてください。」
 「あれ。いいんですか?」
 「昨日と今日と、二度も命を助けられたのです。お金で済むなら安いもんですよ。それに私は村長ですから。こういう時のお金くらい持っていますよ。」
 やはり村長、できる男だ。いつ注文したのか、ビールを飲み始めているし。
 「ご注文いかがなさいますか?」
 「ではこのウサギの香草焼と鶏肉の一枚焼きを二枚ずつ。ホウレンソウと人参の温野菜をひとつ。あと、温かいお茶があればそれも。」
 「私はウサギの香草焼とビールのおかわりをください。」
 「承りましたー」
 異世界の肉か。脂肪分が少なければいいのだが。
 「食べ終わったらヨクジョウへ行きましょう!」
 ヨクジョウ。欲情?え、そういうお店?
 村長の表情が楽しそうだ。だからお金を持ってきていたのか?
 「食べたら浴場へ行って、汗を流して、さらに一杯ひっかけて、寝る。これが街の最高の楽しみですよ!」
 ああ、公衆浴場の方でしたか。
 「そういう施設があるんですか。」
 「なんでも病気にかかりにくくなるということで、初代の人間王が始めたことらしいですよ。それ以来、大きな街には浴場が造られているんですよ。うちの村にも欲しいもんですねぇ。」
 人間王。王がいるのか。
 「人間王って、どんな方なんですか?」
 「噂では立派な方らしいです。まぁ私のような一介の田舎者がお目にかかることはありませんよ。」
 「うーん、汗を流せる設備があるなら、先に宿へ行きましょうか。ちょっと信仰上のことをやってしまいたいので。」
 「もちろんですよ。信仰は大事ですからね。」
 「お待たせしましたー。ビールとお茶とウサギの香草焼です。」
 「まずはいただきましょうか。」
 見た目はよくあるジビエのようだ。ウサギを選んだのは成功だったな。ほとんど赤身肉に近い。味は淡泊だが、しっかりとアミノ酸の匂いを感じる。筋肉が喜んでいるのが分かって嬉しい。
 「この味付けが旨いですよねぇ。本当にビールがよく進む。」
 村長、なにげに遊び慣れている。
 「お待たせしましたー。鶏肉の一枚焼きと、ホウレンソウと人参の温野菜です。」
 うーん、鶏肉のほうは失敗だったか。ずいぶんと脂っこい。味は旨いのだけれども、皮がまるまるついたモモ肉だった。皮を外していただくことにしたら、炙り直して村長のつまみになった。
 ホウレンソウと人参の温野菜は、多少鮮度が落ちている分加熱しているのだろう。栄養計算も難しくなる。レンジで温めた温野菜の数字は憶えているが、茹でた野菜の場合はどう計算するのか忘れてしまっている。
 「やはり食べますなぁ。食べないとそれだけ立派なカラダにならないのでしょうな。」
 「食べることは肉体をつくるもとになりますからね。」
 「ふーむ、なるほど。そういう宗教なのですか。」
 ふだんの夜食はせいぜいプロテインやアミノ酸やバナナ程度なのだが、こういう状況では取れる時にタンパク質を取るしかない。セオリーに反するが、対応してゆくしかない。
 「店員さん、ちょっといいですか?」
 「はーい、なんでしょう?」
 「持ち返られる肉とか卵などはありますか?」
 「あー、ゆで卵くらいならどうにかなるかもしれませんねぇ。肉はちょっと傷みますから、持ち帰りはできませんね。どれくらい必要ですか?」
 「とりあえず十個ください。」
 「分かりました。ゆで卵持ち帰りで。」
 「あとお茶のおかわりください。」
 「ビールももう一杯。」
 「了解しましたー」
 うん?魔物退治に行く人たち用の食料があるんじゃないのだろうか。
 それならおそらく日持ちも効く。
 まずはゆで卵で良しとしよう。これで明日の朝もなんとかなる。タンパク質を探す作業はしばらく続きそうだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

処理中です...