異世界マッチョ

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3 マッチョさん、ギルドへ行く

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 城門を入ってすぐのところでロバと荷台を預けて、私たちは街の中を歩いた。
 建物はレンガ製や石積みなどが混在している。
 お店の看板がカタカナなので、とりあえず文字が読めるのがありがたかった。そういえば最初から言葉も通じたなぁ。 
 「まずはギルドへ向かいましょう。オーク討伐依頼のお金を払い戻してもらって、あなたに差し上げますから。」
 「はい。」
 服を買おうにも肉を食おうにもお金が必要になる。うーん、今後の生活はどうしたものだろう?食べるものも住むところも必要になるなぁ。
 ギルドの建物はレンガで出来たドイツ様式。なかなか格式があるようだ。
 村長とギルドに入ったとたん、若い眼鏡をかけた女性が目を輝かせてこちらに向かってきた。
 「冒険者希望の方ですね?」
 カラダだけ見て決められた。強そうと思われるのは悪くない。
 「いや、先に依頼の取り消しをお願いします。タベルナ村のオーク討伐依頼です。」
 「あっ、失礼しました!ではこちらのカウンターへどうぞ。」
 すごくカラダを見られている。この子はたぶん筋肉フェチだな。
 異世界にも筋肉フェチがいるのか。
 村長が手続きをしている間、少しギルドの中を見てみた。
 休憩所のようなところにたしかに強そうな雰囲気の人間が数人いる。剣に槍に弓か。
 しかし、全体的になんかこう、タベルナ村の村人ほどでは無いにしろ、線が細い。あの肉体で戦うのはなかなか大変なのではないだろうか。
 村長の手続きが終わったようだ。
 「ではこれをお渡しします。改めて村を代表してお礼を申し上げます。」
 革袋にズシリとした重さ。やはり硬貨なのか。
 「ありがとうございます。正直なところ、路銀が尽きかけていたので助かります。」というか、この世界のお金も持っていなければ貨幣価値も分からないのだが。
 「街道のオークにも討伐依頼が出ていました。ギルドメンバーではないので少額しか支払われませんでしたが、手続きを済ませて報酬に追加しておきましたよ。」 
 この村長、デキる人だ。

 「あのー、本当に冒険者希望の方ではないのですか?」
 さきほどの眼鏡の女性に話しかけられた。
 ふむ、よく見ると程よく鍛えられた女性だ。体脂肪率20%を切る程度。必要以上の筋肉は付けないが、とっさの時に動きやすい程度の鍛え方をしている。なにかスポーツでもやっていたのだろうか。
 「ちょっと異国から来たもので、冒険者というものが分かっていないのです。」
 「冒険者というのはですね。ギルドが身分と能力を保証したなんでも屋さんです。主な仕事は魔物退治とかですね。」
 やはり身分保障が手に入るのか。これは助かる。
 「誰でもなれるものなのですか?」
 「ええ。強ければ誰でもなれます。」
 おおお、これだ。とりあえずの生活の糧は用意できそうだ。
 「この方を見たらオークも逃げましたぞ。」
 「それはすごい!強そうですものね。この方。失礼ながらお名前は?」
 「街尾スグルと言います。」
 「マッチョさんですね?」
 少し発音しづらい名前らしい。マッチョという名前で今後は通すことにした。
 「冒険者になろうと思います。正直なところ、お金があまりないので。」
 「あはは!ではこちらのカウンターで、お名前と年齢をお書きください。」
 カタカナで書類を埋める。
 「こちらが身分証になります。再発行手続きはお金がかかるので、失くさないようにしてくださいね。あちらの壁に貼ってあるのが現在の依頼です。」
 けっこうあるなぁ。あまり冒険者が多くないのだろうか。
 「罰則とか規約とか義務みたいなものはありますか?」無理矢理働かされるとか、戦場に連れていかれるとか。
 「ギルド員への暴行とか、虚偽の報告とか、あとは窃盗や殺人などの犯罪全般にはペナルティがありますね。義務はまぁ依頼さえ週にひとつくらいこなせれば、特にありませんよ。」

 うん?異世界なら、魔法とかポーションといったものもあるんだろうか?
 「あのー、戦闘で傷ついた場合に回復する薬みたいなものって、売ってますか?」
 「え、ないですよ。」
 え、ないの?
 「そういう便利なものがあれば、ギルドが人手不足になって依頼が来てもこなせない、なーんてことは無くなると思うんですけれどもねぇ。」
 うーん、この言い方だと、回復魔法みたいなものも無いな。筋トレの回数を増やして、超回復をしてからさらに筋トレして限界まで肥大化みたいなことを考えていたのだが、思っていたカンジと違った。
 「ということは、魔物と戦って怪我をしたら?」
 「なんとか街に帰って来て病院に行くしかないですね。」
 さらっと恐ろしいことを言われた気がする。魔物が多くなっでギルドが人手不足になったということは、その人手が病院にいるか死んだか廃業したということだろう。
 ずいぶんスパルタンな異世界に来てしまったようだ。私が読んだ異世界転生のマンガは、もう少しラクそうなやつだった。
 
 しかし稼ぎが無ければ生活もできぬ。
 こういうところだけ元いた世界と同じとは、なかなかに世知辛い。そういや村長をほったらかしだった。
 「すいません村長、付き合わせてしまって。」
 「いえいえ。マッチョさんがこの街に不慣れでしょうから、しばらく付き合うつもりだったんですよ。私のことは気にしないでください。」なんか村長もマッチョさんって呼んでる。
 「ではお言葉に甘えて。服も必要ですし。」
 「服というよりも、装備が必要になりますね。」
 ああそうか。戦うための服が必要なのか。しかしなにを選択したらいいのやら。
 「マッチョさんでしたら、どんな武器でも使えそうですけれどね。」
 村長、それは呑気過ぎるでしょう。剣も槍も弓も使ったことが無い。素人が簡単に扱える武器。   
 「うーん。」
 「あのー、私が提案してもよろしいでしょうか?」
 ああ、ギルドの人の意見も聞いた方がいいな。
 「お願いします。」
 「斧とかどうでしょうか?筋力と破壊力が直結しますし、技能的なものがあまり必要ないですよ。」
 ふむ。そういえば以前、広背筋のトレーニングにマキ割りを使っていたトレーニーの記事を読んだことがある。筋トレの用具に近い道具ならば使いこなせるかもしれない。
 「よさそうですね。実際に見てみたいです。」
 「では地図を差し上げますので、武器屋の方へ行ってみてください。先ほどの報酬でだいたい装備は整うはずですよ。」
 装備に、服に、肉か。
 新しい生活にはなにかとお金がかかる。
 「ついでに宿も紹介していただけませんか?」
 「ではギルドと提携している宿を紹介しますね。それも地図に書き込んでおきます」
 この女性、実に有能だ。
 「失礼。あなたのお名前も聞かせてください。」
 「ルリと申します。マッチョさん、よろしくお願いします。」
 「こちらこそ、よろしくお願いします。」
 分からないことがあったら、彼女に聞けばいいだろう。
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