異世界マッチョ

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12 マッチョさん、魔物災害に遭う

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 フェイスさんが病院に運ばれて三日目になる。今日くらいには退院になるはずだ。お見舞いに行ったら、訓練中の事故だからと逆に気を使われた。いい人だ。私はフェイスさんのアドバイスの通りに練習場で止まった的に木刀を当て、マキ割りのバイトを公衆浴場で始めた。
 そしてこのギルドマスター不在時に、ルリさんが八面六臂の大活躍だ。ギルマス代行としてありとあらゆる雑務を引き受けている。というか、彼女以外にはできないらしい。本当に優秀な人だ。
 今日も魔物退治に行こうとギルドに依頼を見に行ったら、ルリさんが私の筋肉に見向きもしないくらい、かなりテンパっていた。根つめ過ぎなんじゃないだろうか。さてと、今日はどっち方向に行こうかな・・・
 「ギルマス代行、ギルド本部から伝書鳩が来ました。赤紙です。」
 「!」
 ルリさんの顔色が変わった。
 「ギルドマスター代行として私が読みます。」
 (おい、赤紙ってかなりヤバいやつじゃなかったっけ。)
 (最上級の警戒だったな、たしか。)
 なにやらひそひそ話が聞こえる。なにかが相当にヤバいみたいだ。
 ルリさんの顔色がさらに変わる。
 「魔物災害の予報です。狼煙を黄色に変えて、いつでも城門を閉められるように準備してください。斥候を四方へ送って。あと、こちらからも黄色の紙でハトを送って。街道も立ち入り禁止に。冒険者のみなさんは依頼をこなさずに、ギルドで待機していてください。」
 皆がザワついている。ルリさんが忙しそうなので、近くにいた人たちに聞いてみた。
 「魔物災害ってなんですか?」
 「マッチョさん知らないんですか?魔物の集団が来るんですよ。」
 「逃げたり倒されたりしたら、いままで行っていた場所に魔物が行けなくなるでしょう?そうすると、そいつらは自分たちが安全なところにまとまって集まるようになるんです。集まったところにさらに行き場を失った魔物たちが増えていく。増えていった魔物たちはアタマが少しおかしくなる。集団ヒステリーって言ったらいいんでしょうかね。そいつらが集団で大きな街とか、とにかく人が多いところを襲う。これが魔物災害です。」
 その割には落ち着いている。大勢の魔物が来るというのに。
 「大変なことに聞こえるのに、なにか皆さん落ち着いてますね。ザワついていたのも一瞬でしたし。」
 「魔物災害の時って魔物を倒しやすいんですよ。動きが単調になるし、怖いのは数だけだし。」
 「ソロウは城塞都市ですからね。相手が軍隊でもない限り、簡単には落ちないですよ。城門を閉じて軍隊の到着を待つだけです。」
 「ふつう王都とかに出るんですけれどもね。魔物撤退数が多いと魔物災害が起きやすくなりますから。軍に大量の魔物が追われたみたいなことが無いと、あんまり起きないもんなんですよ。」
 魔物撤退数。
 依頼に無かった魔物が街道とかで私を見て勝手に逃げたりしたことは、報告していなかったな。今度から報告するようにしよう。そして今回は黙っておこう。
 うん?なにか音が聞こえるな。地鳴りみたいな・・・
 「南門監視所から報告!魔物の狙いはこのソロウです!」
 「城門緊急封鎖!軍が来るまで耐え抜きます!狼煙を赤に変えて、赤紙で軍駐屯地へハトを送って!」
 ちょっと怖い。
 (俺が王都で魔物災害に遭ったときは、地鳴りなんか無かったけれどもな。)
 (多くてもふつう100かそこらって言われているのに、こんな地鳴りまでするって、100なんてもんじゃないでしょう。)
 「皆さんは南門の上に集まって、用意してある石を落としてください。城壁を登ってくる魔物もいいます。弓を扱える人は城壁から狙撃をしてください。私も行きます。」


 南門から見える光景はどう見ても100なんてものでは無かった。うーん、300から500くらいかな。ぜんぶオーク。オークの軍団だ。ギルドの人数は約20名。軍が来るまで耐えきれるんだろうか。
 「あー、これ普通の魔物災害じゃねぇな。たぶん固有種がいるパターンだわ。」
 フェイスさんだ。無事に退院できたようだ。少し責任を感じていたのでほっとした。
 「フェイスさん!なんで寝てないんですか?私がいるじゃないですか!」
 ルリさん怒ってる・・・というか忙しすぎてちょっと不安定になってないか。
 「地鳴りが聞こえたんだから、そりゃ来るだろう。たかがアタマを打ったくらいでいつまでも寝てらんねぇよ。」
 泡を吹いていたんだけれど、本人が大丈夫というなら大丈夫なのだろう。
 「ギルマス、固有種ってなんすか?」
 「ちょっと変わった能力を持った魔物だ。統率力に優れていたり、武力に優れていたり。ふつうの魔物とちょっと違った能力を持っていて珍しいから固有種って言うんだ。」
 へー、そういう魔物もいるのか。
 「うーん、城門が破られる可能性もあるな。おいルリ!そのまま指揮を頼む。街の人間も狩り出して配置しろ。石を投げるくらいできるだろう。あと他の門もいちおう監視しておけ。あの数でなにか策を練られると援軍が間に合う前に街が落とされるぞ!」
 「了解しました!・・・ってフェイスさんは?」
 既に投石は始まっている。城壁を登って城門を開けるつもりなのだろう。玄関から入れないなら、別のところから入ってきて仲間を招き入れればいい。この程度の知能は魔物にもあるんだな。
 ズドンという大きな音が振動と共に伝わってきた。丸太のようなものを持ってきて、集団で城門に攻撃を仕掛けている。
 「あ、やっぱり城門を狙ってきたか。いるなー、固有種。けっこう賢いぞ。」
 どうしたらいいんだろうか。
 「よし、じゃぁ行くか。マッチョ、お前も来い。」
 「はい。・・・はい?」
 「はい?じゃねぇよ。城門を落とされたらアウトだって言ったじゃねぇか。城門を守るために外に出て戦うんだよ。お前と俺で。」
 戦う。
 300匹以上を相手に?私が?
 「二人で行く気ですか?無茶ですよ!」
 「じゃーこの中に俺から一本取ったやつ、いるか?」
 いないようだ。
 「門のアーチの中だけ限定で戦うから、それほど難易度は高くない。数が居ると言っても、まとめてかかってこられるのはせいぜい4,5匹程度だ。無茶ってほどでもねぇだろう。狭い分だけ少数精鋭の方がいい。」
 そういうものなのか。
 「じゃー行くか。マッチョついてこい。」
 冒険者やギルド職員の目を見ると、とても断れる雰囲気ではない。
 「分かりました。」
 生まれて初めての戦場だ。筋肉が硬直しているのが分かる。
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