異世界マッチョ

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13 マッチョさん、戦場に立つ

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 うーん。まったく緊張がほぐれる気配が無い。
 「すいませんフェイスさん。一分ほど待っていただけますか?」
 とりあえずポージングをしておく。
 「ふむっ!」
 モスト・マスキュラー。基本にして王道。何度もこのポーズを取ってきた。私には慣れた作業だ。足の指先から頭のてっぺんまでしっかりと意識させ、筋肉を固める。
 (おお、マッチョさんやる気だ!)
 (いつもよりデカく見えるぞ!)
 デカいと言われて悪い気はしないが、これは緊張をほぐすためのルーティンだ。筋肉を緊張させ、弛緩させる。10秒のポージングと、5秒のインターバル。これを三セット。言われるほどたいしてやる気ではない。が、やらないと死ぬ。
 「お待たせしました。」
 「おう・・・ってかなんだそれ。」
 「神への祈りみたいなものです。」
 「ああ、なんか変わった宗教なんだってな。」
 間違いではない。

 「開門!俺とマッチョが出たら重装用の盾を四枚入れて、すぐに閉じろ!」
 「了解!開門!」
 わずかなすき間から先鋒のオークが入ってこようとする。フェイスさんの剣によってあっさり倒された。大剣ではなく普通のサイズの剣だ。城門を攻撃していた部隊もあっという間に倒した。
 「露払いが終わったらお前が前衛だ。俺が援護に入る。まぁスキにやれ。」
 「はい!」
 うお、本当に魔物の群れだ。数の圧力に怯みそうになった。
 「ぜんぶ倒す必要は無いぞ。適当にやれ。実戦で憶えていけばいい。」
 前に出たらいきなりオークたちが襲ってきた。ワケも分からないまま、とりあえず襲ってきた一体を倒す。
 「一体ずつ倒してもキリがねぇ。とりあえず木をぶった切る感覚で、横殴りに吹っ飛ばせ!」
 返事をする余裕もない。
 言われるがままに倒す。三体、あるいは四体まとめて吹き飛ばせた。
 「!」
 小柄なオークに足元に入られた。これは足が削られるかと思ったら、フェイスさんがオークの腕と頭を一瞬にして刈り取った。
 「お前はデカい分だけ足元がおろそかになる。小柄な方は俺に任せろ。取りこぼしは俺がやる。」
 「ありがとうございます。」
 (まぁ、ふつう前衛の方がキツいんだけれどもな。後衛をやらせるにはマッチョの経験値が足りな過ぎる。)
 言われた通りに薙ぎ払った。教わった通りのことを教わったフォームでやる。筋トレの基本だ。右手だけで斧を使うと筋肉が偏るな。左手に斧を持ち替えて敵をなぎ倒す。
 想像よりも魔物を倒すことに抵抗感が無い。生臭いし、うるさいし、気持ち悪いし、怖いけれども、襲い掛かってくる敵を倒すということには本能的な快感があるのだろう。私はだんだん気持ち良くなってきた。戦闘というものも、なかなかいいものだ。筋肉にも効く。
 「マッチョ、上だ!」
 死体の山を踏み台にして、上を取ってきた。とっさに両手に持ち替えて吹き飛ばす。横殴りよりもはるかに筋肉に効く。というか、これは私が今までやってきた筋トレとはかなり違う。斧を振り回しているのではなく、斧の重さに振り回されている。
 軍が来るまで持つのだろうか?呼吸が荒くなってきた。心拍数が100を超えているのが分かる。これでは筋トレではなく有酸素運動だ。
 「マッチョ、死体を蹴って吹っ飛ばせ!踏み台を作らせるな!」
 「ふんっ!」
 死体を蹴って吹き飛ばす。襲ってきた敵をなぎ倒す。
 「三歩下がれ!斧じゃなくてこいつを使え!」
 フェイスさんが前に出て大剣を素早く抜いた。私の疲労を見て前衛と後衛を入れ替えてくれたのだろう。斧の代わりに細い剣を渡された。が、私が剣を使う事は無かった。フェイスさんが鬼人のような働きで城門に敵を寄せ付けない。 
 
 「ブフォ、ブヒャホ!」
 魔物の叫び声が聞こえた。なにか指示を与えたのだろうか。
 さっき吹き飛ばした仲間の死体を、私たちから距離を取りながら投げてきた。台座作りだ。
 「クソッ。仲間の死体をぶん投げてきやがった。高さと数で勝負する気だ!」
 (思っていた以上に賢い。他の門が抜かれなきゃいいけれどな。できるだけこっちに引きつけたいが、相手の出方が分からねぇ。)
 仲間の死体を投げていたオークに矢が突き刺さって倒れた。城壁からの援護だ。台座作りをしていたオークたちが次々に的になって倒れていく。この援護はありがたい。
 「さすがだな。この距離で当てられるか。」
 大剣で死体を吹っ飛ばしながら、フェイスさんにはまだ余裕がありそうだ。これで高さで負けることは無くなった。私は呼吸を整えて二セット目の準備をする。
 
 「ブフォ、ブヒヒャホ、ブッフォオー!」
 また指示が出た。今度はなんだ?
 ・・・!槍か!
 「こっちの嫌がることばかりしてきやがるな。今度は射程で有利を取ってきた。」
 弓を見て考え方を変えたのだろうか。魔物の賢さも侮れない。
 「マッチョ、槍を相手に剣でどう戦うのか見せてやる。ちゃんと見てろ。」
 「はい。」
 槍兵がフェイスさんを襲う。すかさず距離を詰めたフェイスさんが大剣でなぎ倒した。
 「これが対策その一だ。距離を詰めたらたいていの槍使いは対処できない。それに乱戦で味方を攻撃しがちにもなるから、気持ちを入れて踏み込めばどうにかなることが多い。」
 こちらを見ないで話している。第二波が来る。今度は距離そのままに槍そのものを破壊して踏み込み、返す刀で魔物をぶった切った。
 「これが対策その二だ。魔物の武器は粗悪品が多い。武器さえ壊せば怖いのは数だけだ。お前もちょっとやってみろ。武器破壊の方だ。」
 「はい。」
 フェイスさんと入れ替わる。私に槍が襲いかかる。たしかにボロい槍だ。斧を振り回したらあっさり壊れた。壊れた相手に斧をぶち込む。なるほど。
 「横殴りに数を減らせないだけに厄介ではあるな。だが、デカい得物を大振りしなくていい分だけ、俺たちをラクにさせるぞ。そしてこういうこともできる。マッチョ、かがめ!」
 さっき倒した敵の槍を、フェイスさんが敵陣に放り投げた。あれだけ敵がいればどれかに当たる。奇声を上げて敵が倒れた。

 「ブフォー!」
 ひときわ大きな号令だ。魔物の苛立ちが伝わる。
 槍兵が撤退してゆく。どういうことだ?
 どすん、という大きな音が聞こえた。この振動、もしかして歩いているだけなのか?だんだん近づいてくる。遠目から見てもはっきり見える。デカい。あれが固有種か。
 「ふん。よっぽどさっきの投擲が気に入らなかったみたいだな。数じゃなく、最大火力をぶつけに来るぞ!」
 あんなデカい魔物、どうやって倒せばいいんだ?
 「よぉ、マッチョ。お前ついてるなぁ。固有種と戦れるなんて、そうそうないぞ?」
 フェイスさん、すごく楽しそうな顔だ。というか目がイってしまったまま笑顔だ。
 選ぶ余地が無かったとはいえ、私は師事する相手を間違えてしまったかもしれない。
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