異世界マッチョ

文字の大きさ
13 / 133

13 マッチョさん、戦場に立つ

しおりを挟む
 うーん。まったく緊張がほぐれる気配が無い。
 「すいませんフェイスさん。一分ほど待っていただけますか?」
 とりあえずポージングをしておく。
 「ふむっ!」
 モスト・マスキュラー。基本にして王道。何度もこのポーズを取ってきた。私には慣れた作業だ。足の指先から頭のてっぺんまでしっかりと意識させ、筋肉を固める。
 (おお、マッチョさんやる気だ!)
 (いつもよりデカく見えるぞ!)
 デカいと言われて悪い気はしないが、これは緊張をほぐすためのルーティンだ。筋肉を緊張させ、弛緩させる。10秒のポージングと、5秒のインターバル。これを三セット。言われるほどたいしてやる気ではない。が、やらないと死ぬ。
 「お待たせしました。」
 「おう・・・ってかなんだそれ。」
 「神への祈りみたいなものです。」
 「ああ、なんか変わった宗教なんだってな。」
 間違いではない。

 「開門!俺とマッチョが出たら重装用の盾を四枚入れて、すぐに閉じろ!」
 「了解!開門!」
 わずかなすき間から先鋒のオークが入ってこようとする。フェイスさんの剣によってあっさり倒された。大剣ではなく普通のサイズの剣だ。城門を攻撃していた部隊もあっという間に倒した。
 「露払いが終わったらお前が前衛だ。俺が援護に入る。まぁスキにやれ。」
 「はい!」
 うお、本当に魔物の群れだ。数の圧力に怯みそうになった。
 「ぜんぶ倒す必要は無いぞ。適当にやれ。実戦で憶えていけばいい。」
 前に出たらいきなりオークたちが襲ってきた。ワケも分からないまま、とりあえず襲ってきた一体を倒す。
 「一体ずつ倒してもキリがねぇ。とりあえず木をぶった切る感覚で、横殴りに吹っ飛ばせ!」
 返事をする余裕もない。
 言われるがままに倒す。三体、あるいは四体まとめて吹き飛ばせた。
 「!」
 小柄なオークに足元に入られた。これは足が削られるかと思ったら、フェイスさんがオークの腕と頭を一瞬にして刈り取った。
 「お前はデカい分だけ足元がおろそかになる。小柄な方は俺に任せろ。取りこぼしは俺がやる。」
 「ありがとうございます。」
 (まぁ、ふつう前衛の方がキツいんだけれどもな。後衛をやらせるにはマッチョの経験値が足りな過ぎる。)
 言われた通りに薙ぎ払った。教わった通りのことを教わったフォームでやる。筋トレの基本だ。右手だけで斧を使うと筋肉が偏るな。左手に斧を持ち替えて敵をなぎ倒す。
 想像よりも魔物を倒すことに抵抗感が無い。生臭いし、うるさいし、気持ち悪いし、怖いけれども、襲い掛かってくる敵を倒すということには本能的な快感があるのだろう。私はだんだん気持ち良くなってきた。戦闘というものも、なかなかいいものだ。筋肉にも効く。
 「マッチョ、上だ!」
 死体の山を踏み台にして、上を取ってきた。とっさに両手に持ち替えて吹き飛ばす。横殴りよりもはるかに筋肉に効く。というか、これは私が今までやってきた筋トレとはかなり違う。斧を振り回しているのではなく、斧の重さに振り回されている。
 軍が来るまで持つのだろうか?呼吸が荒くなってきた。心拍数が100を超えているのが分かる。これでは筋トレではなく有酸素運動だ。
 「マッチョ、死体を蹴って吹っ飛ばせ!踏み台を作らせるな!」
 「ふんっ!」
 死体を蹴って吹き飛ばす。襲ってきた敵をなぎ倒す。
 「三歩下がれ!斧じゃなくてこいつを使え!」
 フェイスさんが前に出て大剣を素早く抜いた。私の疲労を見て前衛と後衛を入れ替えてくれたのだろう。斧の代わりに細い剣を渡された。が、私が剣を使う事は無かった。フェイスさんが鬼人のような働きで城門に敵を寄せ付けない。 
 
 「ブフォ、ブヒャホ!」
 魔物の叫び声が聞こえた。なにか指示を与えたのだろうか。
 さっき吹き飛ばした仲間の死体を、私たちから距離を取りながら投げてきた。台座作りだ。
 「クソッ。仲間の死体をぶん投げてきやがった。高さと数で勝負する気だ!」
 (思っていた以上に賢い。他の門が抜かれなきゃいいけれどな。できるだけこっちに引きつけたいが、相手の出方が分からねぇ。)
 仲間の死体を投げていたオークに矢が突き刺さって倒れた。城壁からの援護だ。台座作りをしていたオークたちが次々に的になって倒れていく。この援護はありがたい。
 「さすがだな。この距離で当てられるか。」
 大剣で死体を吹っ飛ばしながら、フェイスさんにはまだ余裕がありそうだ。これで高さで負けることは無くなった。私は呼吸を整えて二セット目の準備をする。
 
 「ブフォ、ブヒヒャホ、ブッフォオー!」
 また指示が出た。今度はなんだ?
 ・・・!槍か!
 「こっちの嫌がることばかりしてきやがるな。今度は射程で有利を取ってきた。」
 弓を見て考え方を変えたのだろうか。魔物の賢さも侮れない。
 「マッチョ、槍を相手に剣でどう戦うのか見せてやる。ちゃんと見てろ。」
 「はい。」
 槍兵がフェイスさんを襲う。すかさず距離を詰めたフェイスさんが大剣でなぎ倒した。
 「これが対策その一だ。距離を詰めたらたいていの槍使いは対処できない。それに乱戦で味方を攻撃しがちにもなるから、気持ちを入れて踏み込めばどうにかなることが多い。」
 こちらを見ないで話している。第二波が来る。今度は距離そのままに槍そのものを破壊して踏み込み、返す刀で魔物をぶった切った。
 「これが対策その二だ。魔物の武器は粗悪品が多い。武器さえ壊せば怖いのは数だけだ。お前もちょっとやってみろ。武器破壊の方だ。」
 「はい。」
 フェイスさんと入れ替わる。私に槍が襲いかかる。たしかにボロい槍だ。斧を振り回したらあっさり壊れた。壊れた相手に斧をぶち込む。なるほど。
 「横殴りに数を減らせないだけに厄介ではあるな。だが、デカい得物を大振りしなくていい分だけ、俺たちをラクにさせるぞ。そしてこういうこともできる。マッチョ、かがめ!」
 さっき倒した敵の槍を、フェイスさんが敵陣に放り投げた。あれだけ敵がいればどれかに当たる。奇声を上げて敵が倒れた。

 「ブフォー!」
 ひときわ大きな号令だ。魔物の苛立ちが伝わる。
 槍兵が撤退してゆく。どういうことだ?
 どすん、という大きな音が聞こえた。この振動、もしかして歩いているだけなのか?だんだん近づいてくる。遠目から見てもはっきり見える。デカい。あれが固有種か。
 「ふん。よっぽどさっきの投擲が気に入らなかったみたいだな。数じゃなく、最大火力をぶつけに来るぞ!」
 あんなデカい魔物、どうやって倒せばいいんだ?
 「よぉ、マッチョ。お前ついてるなぁ。固有種と戦れるなんて、そうそうないぞ?」
 フェイスさん、すごく楽しそうな顔だ。というか目がイってしまったまま笑顔だ。
 選ぶ余地が無かったとはいえ、私は師事する相手を間違えてしまったかもしれない。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

処理中です...