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14 マッチョさん、吠える
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見た目はオークなのだが、まるで体格が違う。推定身長3m30cm、体脂肪率20%。体重が約250kgというところか。右手にあれは・・・こん棒と言えばいいのだろうか。丸太のような木を持っているな。矢の援護があったが、当たってもはじき返された。なんという強靭な肉体だ。
「来るぞ!お前は盾を使え!」
左手に盾を、右手には斧を持った。私の技量ではフェイスさんのように、あの特大のこん棒を弾けないだろう。
二人ともアーチの外に出る。城門に近づけたら、この魔物単体で城門を破られてしまう。
目の前にいると迫力に気圧されそうになる。なにか食べているな。なんだ?
こん棒の横殴りが来る。私とフェイスさんをまとめてなぎ倒しに来た。速い!
フェイスさんが受け流しながら吹っ飛ばされるのが視界に入った。倒されないで立っている。私は盾で受けたが、重い一撃だ。吹っ飛ばされて宙に浮き、そのまま倒されてしまった。
「クソッタレが!おい、大丈夫か!?」
吹っ飛ばされるなど久しぶりの経験だ。そもそも私のカラダを見て吹っ飛ばそうという発想になる人間はなかなかいない。
「大丈夫です。やれます。」
フェイスさんが相手の右手を剣戟で抑え込んでいる。私も立ち上がって敵に斧を叩きつけたが、斧が通らない。
「クソッ。身体強化魔法か?このデカさでこの速さだものな!」
(頭もキレて、魔法も使える。統率力もある。オークキングか?)
これはどうやったら倒せるのだろう?重くて強い相手。重さ。
ふと私が尊敬するカリスマトレーナー、ランドクルーザー岡田の話を思い出した。トレーニーは腰を痛めやすい。なぜなら筋肉がある分だけ上体が重くなるからだ。腰だけではなく、関節も痛めやすい。筋肉は強くなっても、関節が強くなることは無いからだ。
膝だな。
斧を横殴りにして膝に当てる。弾かれたが少し効いたようだ。
「なるほどな。じゃぁ俺も。」
フェイスさんも相手の右手をけん制しつつ膝を狙いだした。ダメージが蓄積されれば膝をつくだろう。少しでもオークに近い生き物であれば、膝をつかせて頭を割れば倒せるだろう。
「!」
フェイスさんが膝を狙った瞬間に、オークのこん棒が私に向かってきた。防御技術が稚拙な方から倒しに来たか。とっさに盾を構えたが、宙に吹っ飛ばされて、今度は頭から落ちてしまった。
「マッチョさぁーん!」
ルリさんの声が遠くから聞こえる。風景が歪んで見える。軽い脳震盪か。
ふぅ。疲れた。少し休もう・・・
・・・そういえばさっきあの魔物が食べてたもの、なんだったんだろう。
!
鹿だ。あれは鹿だった。
そうか。この近辺の肉の値段が高いのはお前みたいな魔物のせいだったのか。
お前が俺の肉を食ったんだな。だから俺はタンパク質を探すハメになっているのか。
全身の筋肉が怒りに震えている。私と筋肉の意思がひとつになった。
あれは、筋肉の敵だ。
私は斧を杖かわりにして立ち上がり、顔を上げて魔物を見た。
もはや恐怖心はない。あれは私の筋肉、いやこの周辺住民すべての筋肉の敵だ。そう思うと怒りだけが私を支配した。私は盾を捨てた。両手で打ち込まないと、あの敵は倒せない。
助走を取り、走って相手の膝関節を狙う。
「うおおおおお!」
足の踏ん張り、膝の角度、腰の回転、肘の角度、手首の返し。すべてが完璧に揃った。
斧が敵の膝に入った。全力で打ち込めば入るじゃないか。
「ブファオオウ!」
よく分からない奇声を上げながらこん棒を横殴りに入れてきた。
「マッチョ、かわせ!」
かわす必要は無い。
「ふんっ!」
斧を振り回したら重めのダンベルを持ち上げる時のような声が出た。
こちらは武器。相手はこん棒。叩きつけたらこちらが勝つ。こん棒はマキのように割れ、敵が膝をついて倒れた。敵は足も武器も失ったが、私にも余力はほとんど無い。
軽く助走をつけて飛んだ。たいした高さにはならなかったが、脳天を直撃させられる高さが出ればいい。オークが右手で私を払いのけようとするところが見えた。また吹っ飛ばされるのか?いや、フェイスさんの剣速のほうが早い。敵の肘に叩き込まれたフェイスさんの剣は、オークの腕の軌道を変えた。
最後の、渾身の一撃を脳天に叩きつける。固い。が入る。入れ!広背筋の余力をすべてくれてやる!
「ふぅうむうううううううう!」
なかなか上がらないバーベルを持ち上げる時のような声が出た。
手に伝わる感触が変わった。オークの親玉の脳天に斧が入ったのだ。オークは前のめりに崩れ、地鳴りとともに倒れた。
「うおおおおお!」
城壁から歓声が聞こえる。大会の時のように腕でも上げて歓声に応えたいが、腕を上げる余力もない。完全に筋肉を追い込んだ。いや、追い込み過ぎた。息も上がっている。
親玉を落としても、オークの集団はまだやる気らしい。統制が取れていないとはいえ、あの集団がまとめてこちらに向かって来たら・・・
ドドドドと早いテンポの地鳴りが聞こえる。これは・・・
「フェイスさん!援軍来ました!」城壁からルリさんの声が聞こえる。
「開門!マッチョ、城門まで走れ!」
私は指示通りに走った。足が重い。膝も笑っている。だが走った。フェイスさんがしんがりとなり、オークを倒している音が聞こえる。私はただ走った。もうこの場で私にやれることは無い。
城門の内側に入った私は、膝をつき倒れ込んだ。呼吸だ。呼吸を整えろ。
手も上腕二頭筋も少し震えている。筋肉の疲労なのか、あるいは今頃になって恐怖が湧いてきたのだろうか?
フェイスさんが城門に入ってきた。突っ込んできたオークを叩き切り、最後にケリを一撃入れて城門から追い出した。
「閉門!急げ!」
「城門を緊急閉鎖します!下がってください!」
ロープが切れる音がして、重いものがどすんと落ちる振動とともに、城門はあっという間に閉じられた。
それと同時に、ソロウの街は大歓声に包まれた。
「来るぞ!お前は盾を使え!」
左手に盾を、右手には斧を持った。私の技量ではフェイスさんのように、あの特大のこん棒を弾けないだろう。
二人ともアーチの外に出る。城門に近づけたら、この魔物単体で城門を破られてしまう。
目の前にいると迫力に気圧されそうになる。なにか食べているな。なんだ?
こん棒の横殴りが来る。私とフェイスさんをまとめてなぎ倒しに来た。速い!
フェイスさんが受け流しながら吹っ飛ばされるのが視界に入った。倒されないで立っている。私は盾で受けたが、重い一撃だ。吹っ飛ばされて宙に浮き、そのまま倒されてしまった。
「クソッタレが!おい、大丈夫か!?」
吹っ飛ばされるなど久しぶりの経験だ。そもそも私のカラダを見て吹っ飛ばそうという発想になる人間はなかなかいない。
「大丈夫です。やれます。」
フェイスさんが相手の右手を剣戟で抑え込んでいる。私も立ち上がって敵に斧を叩きつけたが、斧が通らない。
「クソッ。身体強化魔法か?このデカさでこの速さだものな!」
(頭もキレて、魔法も使える。統率力もある。オークキングか?)
これはどうやったら倒せるのだろう?重くて強い相手。重さ。
ふと私が尊敬するカリスマトレーナー、ランドクルーザー岡田の話を思い出した。トレーニーは腰を痛めやすい。なぜなら筋肉がある分だけ上体が重くなるからだ。腰だけではなく、関節も痛めやすい。筋肉は強くなっても、関節が強くなることは無いからだ。
膝だな。
斧を横殴りにして膝に当てる。弾かれたが少し効いたようだ。
「なるほどな。じゃぁ俺も。」
フェイスさんも相手の右手をけん制しつつ膝を狙いだした。ダメージが蓄積されれば膝をつくだろう。少しでもオークに近い生き物であれば、膝をつかせて頭を割れば倒せるだろう。
「!」
フェイスさんが膝を狙った瞬間に、オークのこん棒が私に向かってきた。防御技術が稚拙な方から倒しに来たか。とっさに盾を構えたが、宙に吹っ飛ばされて、今度は頭から落ちてしまった。
「マッチョさぁーん!」
ルリさんの声が遠くから聞こえる。風景が歪んで見える。軽い脳震盪か。
ふぅ。疲れた。少し休もう・・・
・・・そういえばさっきあの魔物が食べてたもの、なんだったんだろう。
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鹿だ。あれは鹿だった。
そうか。この近辺の肉の値段が高いのはお前みたいな魔物のせいだったのか。
お前が俺の肉を食ったんだな。だから俺はタンパク質を探すハメになっているのか。
全身の筋肉が怒りに震えている。私と筋肉の意思がひとつになった。
あれは、筋肉の敵だ。
私は斧を杖かわりにして立ち上がり、顔を上げて魔物を見た。
もはや恐怖心はない。あれは私の筋肉、いやこの周辺住民すべての筋肉の敵だ。そう思うと怒りだけが私を支配した。私は盾を捨てた。両手で打ち込まないと、あの敵は倒せない。
助走を取り、走って相手の膝関節を狙う。
「うおおおおお!」
足の踏ん張り、膝の角度、腰の回転、肘の角度、手首の返し。すべてが完璧に揃った。
斧が敵の膝に入った。全力で打ち込めば入るじゃないか。
「ブファオオウ!」
よく分からない奇声を上げながらこん棒を横殴りに入れてきた。
「マッチョ、かわせ!」
かわす必要は無い。
「ふんっ!」
斧を振り回したら重めのダンベルを持ち上げる時のような声が出た。
こちらは武器。相手はこん棒。叩きつけたらこちらが勝つ。こん棒はマキのように割れ、敵が膝をついて倒れた。敵は足も武器も失ったが、私にも余力はほとんど無い。
軽く助走をつけて飛んだ。たいした高さにはならなかったが、脳天を直撃させられる高さが出ればいい。オークが右手で私を払いのけようとするところが見えた。また吹っ飛ばされるのか?いや、フェイスさんの剣速のほうが早い。敵の肘に叩き込まれたフェイスさんの剣は、オークの腕の軌道を変えた。
最後の、渾身の一撃を脳天に叩きつける。固い。が入る。入れ!広背筋の余力をすべてくれてやる!
「ふぅうむうううううううう!」
なかなか上がらないバーベルを持ち上げる時のような声が出た。
手に伝わる感触が変わった。オークの親玉の脳天に斧が入ったのだ。オークは前のめりに崩れ、地鳴りとともに倒れた。
「うおおおおお!」
城壁から歓声が聞こえる。大会の時のように腕でも上げて歓声に応えたいが、腕を上げる余力もない。完全に筋肉を追い込んだ。いや、追い込み過ぎた。息も上がっている。
親玉を落としても、オークの集団はまだやる気らしい。統制が取れていないとはいえ、あの集団がまとめてこちらに向かって来たら・・・
ドドドドと早いテンポの地鳴りが聞こえる。これは・・・
「フェイスさん!援軍来ました!」城壁からルリさんの声が聞こえる。
「開門!マッチョ、城門まで走れ!」
私は指示通りに走った。足が重い。膝も笑っている。だが走った。フェイスさんがしんがりとなり、オークを倒している音が聞こえる。私はただ走った。もうこの場で私にやれることは無い。
城門の内側に入った私は、膝をつき倒れ込んだ。呼吸だ。呼吸を整えろ。
手も上腕二頭筋も少し震えている。筋肉の疲労なのか、あるいは今頃になって恐怖が湧いてきたのだろうか?
フェイスさんが城門に入ってきた。突っ込んできたオークを叩き切り、最後にケリを一撃入れて城門から追い出した。
「閉門!急げ!」
「城門を緊急閉鎖します!下がってください!」
ロープが切れる音がして、重いものがどすんと落ちる振動とともに、城門はあっという間に閉じられた。
それと同時に、ソロウの街は大歓声に包まれた。
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