30 / 133
30 マッチョさん、尊敬の目で見られる
しおりを挟む
王都に移り住んでからの私はけっこう忙しい。筋トレ、栄養摂取、グランドマスターによる戦闘指南、筋トレ、栄養摂取、初代人間王の手記の翻訳、筋トレ、栄養摂取、現人間王への進捗の報告、筋トレ、栄養摂取。
ギルドメンバーとしての仕事をまったくしていないが、王から直接頼まれた仕事をやっているので仕方が無い。こうして朝から晩まで働いていると、サラリーマンだった頃の自分を思い出す。忙しすぎてカロリーが足りていない気がしたので、一週間ごとに体重をしっかりと記録することにした。体重計を始め、幸い王城にはいろんなものが置いてあり、わりと使いたければスキに使わせてもらえる。
王城に用意された私の部屋は豪華すぎて落ち着かなかったので、もう少し狭い一人部屋に変えてもらった。常駐メイドの類もお断りして、私が部屋にいない時に掃除と洗濯だけをお願いした。
私は自己管理を自分でやりながらトレーニングをしたい派なのだ。
王に呼び出されるまで自室待機だったので、部屋でストレッチをしていたら、宮廷衛士に呼ばれた。
「マッチョさん、お時間です。王のところまでご案内します。」
宮廷衛士に通されて、まだ行ったことが無い通路へと通された。
「ここから先は、マッチョさん一人で行ってください。王家の機密がある場所なので、私は近づいてはいけないのです。突き当りの部屋です。」
そんな重要な場所に、なにがあるのか。
一人で通路を進み、扉をノックする。
「入っていいぞ。カギはかけていない。」
「失礼します。」
目の前の光景に驚く。これは・・・トレーニングマシンの数々ではないか!
やはり宮廷内にあったのか。むぐぐぐ、全身が見える大きな鏡に、チンニングマシン、ベンチ、重さの順番でしっかりと整理されたダンベルにバーベル、さらには樹脂で作ったストレッチバーまで。ここまで見事な個人トレーニングの機材は以前にいた世界でもなかなか見たことが無いぞ。もちろん私のトレーニングルームよりはるかに規模は上だ。王家の所有物と比べること自体がナンセンスなのだが、なぜか悔しい。
「来たかマッチョ。時間通りだな。」
王は先にトレーニングをしていたらしい。汗がにじんでいる。
「見事な機械の数々だろう?これは初代人間王がドワーフ王に頼んで造ってもらったものらしい。今でも一年に一度、ドワーフ王に異常が無いか見てもらっている。いくつかの機械は壊れるたびに作り直したらしいがな。」
この中のいくつかは、数百年もののトレーニングマシンか。異常もなく動いているということは、それだけドワーフの技術が高いのだろう。私がいた世界よりも工作精度が高いのではないだろうか。
「王家の秘密なのではないのですか?なぜ私に見せても良いとなったのでしょうか?」
「その秘密も、少しずつ解禁しようと思っている。条件が揃えばだがな。」
条件?
「タベルナ村は知っているな。あそこで養豚を始めたらしい。今後ソロウから王都まで肉が行きわたるのであれば、わざわざ鍛錬の方法を隠す必要もあるまい。魔物退治をするにしても、魔王と戦うにしても、今より精強な兵が必要になるのだ。ギルドの冒険者たちにも強くなってもらわねばな。」
スクルトさんが率いていた兵隊はけっこう立派に見えたが、その上を行く相手と戦わなくてはいけなくなるかもしれない、ということか。たしかにタンパク質不足の問題さえ解決できれば大きな戦力になる。
しかしあの村長さん、やり手が過ぎるな。今なら村長さん念願の公衆浴場もタベルナ村に作ってもらえるのではないだろうか。
「わざわざお前を呼んだのは、これのことだ。」
ずいぶん立派な箱に入っている。20kgのダンベルよりは大きいな。
「初代人間王の愛用品でな。どう使うかまったく分かっていないのだ。」
あまり使われていないせいか、ピカピカに磨き上げられている。金属製の楕円の内側に、持ち手が二つ。持ち手もくるくると回るようになっている。これは・・・
「これを知っているか?マッチョ。武器だという話もあるが、武器にしては使いづらい気がしてな。」
いや、これは武器ではない。触ってみて確信した。アレだな。
「王様、これはバーンマシンという名前のものです。」
「バーンマシン。やはり武器か?」
「いえ、トレーニングの道具です。主に肩を鍛えるのに使うものですが、上半身全体を短期間で鍛えるのに効果的な道具です。」
肩や上半身と聞いて、王の目が光ったのを私は見逃さなかった。王の上半身は私よりも二回り以上も小さかったからだ。
「で、どう使うのだ?これは。」
「こうです。」
持ち手を順手で持ち、肩の高さまで持ち上げて、バーンマシン本体をクルクルと回してみる。
「失礼。腹筋台をお借りして用いると、このようにも使えます。」
腹筋をしながらバーンマシンを回す。
「おおお・・・」
すごく感心されてしまった。
「俺にもやらせてくれ!」
王もすっかり気に入ったようだ。こういう血筋なのだろう。息が切れるまで回し、王は満足そうだった。
「うーむ、素晴らしい道具だ。肩だけでなく腕や胸や背中にまで効いているのが分かるぞ。初代王は素晴らしい道具をつかっていたのだな。」
「順回転と逆回転を交互に繰り返して数セット行うことが、一番効率よく筋肉が育つと思います。」
「そうか。では逆回転にも挑戦してみよう。さきほどと同じ回数だから、30回ほどだな。」
王がクルクルとバーンマシンを回す。いい追い込み方です。
バーンマシンはともかくとして、なんだか既視感があると光景だと思ったら、私が読んだ異世界転生のコミックでこういうシーンがいっぱい出てきていた。主人公は当然のごとく知っているが、異世界の人たちは知らないので一目置かれるみたいなシーンだ。
そういうもう少しラクな異世界転生のほうが良かった。なぜ私は異世界に来てまで、ガチで仕事をして、タンパク質を探し、命がけで魔物まで倒さなくてはいけないのだろうか。
ギルドメンバーとしての仕事をまったくしていないが、王から直接頼まれた仕事をやっているので仕方が無い。こうして朝から晩まで働いていると、サラリーマンだった頃の自分を思い出す。忙しすぎてカロリーが足りていない気がしたので、一週間ごとに体重をしっかりと記録することにした。体重計を始め、幸い王城にはいろんなものが置いてあり、わりと使いたければスキに使わせてもらえる。
王城に用意された私の部屋は豪華すぎて落ち着かなかったので、もう少し狭い一人部屋に変えてもらった。常駐メイドの類もお断りして、私が部屋にいない時に掃除と洗濯だけをお願いした。
私は自己管理を自分でやりながらトレーニングをしたい派なのだ。
王に呼び出されるまで自室待機だったので、部屋でストレッチをしていたら、宮廷衛士に呼ばれた。
「マッチョさん、お時間です。王のところまでご案内します。」
宮廷衛士に通されて、まだ行ったことが無い通路へと通された。
「ここから先は、マッチョさん一人で行ってください。王家の機密がある場所なので、私は近づいてはいけないのです。突き当りの部屋です。」
そんな重要な場所に、なにがあるのか。
一人で通路を進み、扉をノックする。
「入っていいぞ。カギはかけていない。」
「失礼します。」
目の前の光景に驚く。これは・・・トレーニングマシンの数々ではないか!
やはり宮廷内にあったのか。むぐぐぐ、全身が見える大きな鏡に、チンニングマシン、ベンチ、重さの順番でしっかりと整理されたダンベルにバーベル、さらには樹脂で作ったストレッチバーまで。ここまで見事な個人トレーニングの機材は以前にいた世界でもなかなか見たことが無いぞ。もちろん私のトレーニングルームよりはるかに規模は上だ。王家の所有物と比べること自体がナンセンスなのだが、なぜか悔しい。
「来たかマッチョ。時間通りだな。」
王は先にトレーニングをしていたらしい。汗がにじんでいる。
「見事な機械の数々だろう?これは初代人間王がドワーフ王に頼んで造ってもらったものらしい。今でも一年に一度、ドワーフ王に異常が無いか見てもらっている。いくつかの機械は壊れるたびに作り直したらしいがな。」
この中のいくつかは、数百年もののトレーニングマシンか。異常もなく動いているということは、それだけドワーフの技術が高いのだろう。私がいた世界よりも工作精度が高いのではないだろうか。
「王家の秘密なのではないのですか?なぜ私に見せても良いとなったのでしょうか?」
「その秘密も、少しずつ解禁しようと思っている。条件が揃えばだがな。」
条件?
「タベルナ村は知っているな。あそこで養豚を始めたらしい。今後ソロウから王都まで肉が行きわたるのであれば、わざわざ鍛錬の方法を隠す必要もあるまい。魔物退治をするにしても、魔王と戦うにしても、今より精強な兵が必要になるのだ。ギルドの冒険者たちにも強くなってもらわねばな。」
スクルトさんが率いていた兵隊はけっこう立派に見えたが、その上を行く相手と戦わなくてはいけなくなるかもしれない、ということか。たしかにタンパク質不足の問題さえ解決できれば大きな戦力になる。
しかしあの村長さん、やり手が過ぎるな。今なら村長さん念願の公衆浴場もタベルナ村に作ってもらえるのではないだろうか。
「わざわざお前を呼んだのは、これのことだ。」
ずいぶん立派な箱に入っている。20kgのダンベルよりは大きいな。
「初代人間王の愛用品でな。どう使うかまったく分かっていないのだ。」
あまり使われていないせいか、ピカピカに磨き上げられている。金属製の楕円の内側に、持ち手が二つ。持ち手もくるくると回るようになっている。これは・・・
「これを知っているか?マッチョ。武器だという話もあるが、武器にしては使いづらい気がしてな。」
いや、これは武器ではない。触ってみて確信した。アレだな。
「王様、これはバーンマシンという名前のものです。」
「バーンマシン。やはり武器か?」
「いえ、トレーニングの道具です。主に肩を鍛えるのに使うものですが、上半身全体を短期間で鍛えるのに効果的な道具です。」
肩や上半身と聞いて、王の目が光ったのを私は見逃さなかった。王の上半身は私よりも二回り以上も小さかったからだ。
「で、どう使うのだ?これは。」
「こうです。」
持ち手を順手で持ち、肩の高さまで持ち上げて、バーンマシン本体をクルクルと回してみる。
「失礼。腹筋台をお借りして用いると、このようにも使えます。」
腹筋をしながらバーンマシンを回す。
「おおお・・・」
すごく感心されてしまった。
「俺にもやらせてくれ!」
王もすっかり気に入ったようだ。こういう血筋なのだろう。息が切れるまで回し、王は満足そうだった。
「うーむ、素晴らしい道具だ。肩だけでなく腕や胸や背中にまで効いているのが分かるぞ。初代王は素晴らしい道具をつかっていたのだな。」
「順回転と逆回転を交互に繰り返して数セット行うことが、一番効率よく筋肉が育つと思います。」
「そうか。では逆回転にも挑戦してみよう。さきほどと同じ回数だから、30回ほどだな。」
王がクルクルとバーンマシンを回す。いい追い込み方です。
バーンマシンはともかくとして、なんだか既視感があると光景だと思ったら、私が読んだ異世界転生のコミックでこういうシーンがいっぱい出てきていた。主人公は当然のごとく知っているが、異世界の人たちは知らないので一目置かれるみたいなシーンだ。
そういうもう少しラクな異世界転生のほうが良かった。なぜ私は異世界に来てまで、ガチで仕事をして、タンパク質を探し、命がけで魔物まで倒さなくてはいけないのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる