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40 マッチョさん、悶々とする
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連続式と呼ばれるドワーフ流の飲み比べだ。お互い空のグラスを机に置き、火酒をお互いのグラスに注ぐ。グラスをぶつけたあとに、一気に酒を煽り、グラスの底を机に叩きつける。これをどちらかが潰れるまで繰り返す。ずいぶんと危険な飲み方だ。
ドロスさんは涼しい顔をしている。というか、二人とも喋らなくなってきたので、どれだけ酔っ払っているのか見当がつかない。
「いい酒じゃのう。こういう飲み方はなんだか勿体ないのう。」
「酒だけはなぁ、なにがなんでも旨いモンを作らないとなぁ。酒が明日の仕事を決めるからなぁ。」
里長はあの酔っ払いっぷりで明日も働くつもりなのだろうか。
「お土産に持って帰って、じっくり飲むとしようかのう。」
「おう、くれてやるくれてやる。俺に勝ったららな。」
「新しい剣も欲しいのう。せっかくだから、里長が作る頑丈で軽いやつがええのう。」
「おう、くれてやるるくれてやるる。俺に勝ったららな。」
ほぼ勝負は決まったのではないだろうか。里長は完全にドロスさんに乗せられている。
「里長ぁ、ドワーフなのに人族に連続式で負けちゃうんですかぁ?」
「うるせぇ!まらまらこれかららろ・・・・」
里長の呂律が怪しくなってきている。趨勢が決まったようだ。
さらに追加で二杯。里長がテーブルに突っ伏して大いびきとともに倒れたところで、勝負は決まった。勝者のドロスさんに歓声が上がる。
ドロスさんが自分のグラスに火酒を入れて、もう一杯飲む。スクルトさんが仕事をするタイミングだ。
グラスを机に叩きつけてドロスさんは立ち上がった。
「さて。ワシは疲れたから今日のところはこれで寝かせてもらう。いいかの?」
「勿論です!お見事でした!」
「連続式でドワーフに飲み勝った人間は初めて見ました!」
「明日は指導してくれるんですよね?剣聖、お願いします!」
ドロスさんがドワーフに囲まれてしまったせいで、スクルトさんは完全にタイミングを失ったようだ。
「・・・スクルト。なにをしようとしている?」
スクルトさんがビクリとした。手斧はベルトの背中側に刺して隠している。
「い、いえ特に・・・」
「妙な気配が見えたと思ったが、気のせいじゃったか。どうも今日は自信が揺らぐ日じゃのう・・・」
その直感は正解です、ドロスさん。
「ではスクルト、ワシの代わりにドワーフたちと飲んでいけ。」
「は、はい!」
ドワーフたちが湧き立つ。ドロスさんはとっとと今日のベッドを教えてもらい、そのまま眠るつもりのようだ。ドロスさんから一本取るよりはマシだろうが、スクルトさんも明日は使いものにならないかもしれない。
少しトレーニングをしようと私は外に出た。前回の魔物災害では負荷が大きすぎて回復が大変だったが、今回はあまり働いていないので負荷が足りない気がする。何発か魔法を捌いただけだ。
スクワットをしながら今日のことを思い出す。
精霊の恩寵について考えていた。
精霊の声を聞くという伝承があるということは、この世界には精霊がいることになる。声が聞こえるくらい身近な存在としてだ。そしてあの身体能力。身体強化魔法か、それ以上に上乗せされた能力に見えた。人族最強である剣聖ドロスですら時間がかかった固有種を一撃で倒す強さ。
精霊の恩寵さえあればどんな魔物でも倒せそうだというのに、初代人間王のパーティですら魔王は封印することで精一杯だったのか。魔王という存在はどれほど桁違いなのか。そんなものが存在していたらおちおち筋トレもできないではないか。
いや。先のことよりもまずは今の状況で肝心のことが分かっていない。
なぜロキさんは唐突に精霊の恩寵を受けることになったのだ?
なぜ里長ではないのだ?
うーむ、筋トレの最中だというのに、筋肉以外のことを考えている。筋肉が嫉妬しそうなので、私はトレーニングを止めることにした。意識が筋肉に行かない以上はトレーニングの効果があまり期待できない。
嫉妬?
私は、精霊の恩寵を受けたロキさんの肉体に嫉妬していたのか。
こういう感情は久しぶりだ。自分で鍛え上げた肉体ではなく、他人の肉体を羨ましいなどと思うとは。
あまりいい傾向ではないな。
トレーニーは自分で鍛え上げた肉体を信じるべきだ。捧げた時間もエネルギーも労力も、そしてその結果としての肉体も、すべて自分の責任に依るものだ。肉体を育てるにも才能があるし、大きな切れた筋肉を作るには体質もある。だが、私が私の肉体を信じなければ、誰が私の肉体を信じるというのだ?
他人の肉圧で圧倒されることなど、この世界に来てから初めてのことだ。嫉妬だけではなく、私は少し混乱もしているのだろう。
私はストレッチを入念に行い、その夜は悶々としながら眠りについた。
ドロスさんは涼しい顔をしている。というか、二人とも喋らなくなってきたので、どれだけ酔っ払っているのか見当がつかない。
「いい酒じゃのう。こういう飲み方はなんだか勿体ないのう。」
「酒だけはなぁ、なにがなんでも旨いモンを作らないとなぁ。酒が明日の仕事を決めるからなぁ。」
里長はあの酔っ払いっぷりで明日も働くつもりなのだろうか。
「お土産に持って帰って、じっくり飲むとしようかのう。」
「おう、くれてやるくれてやる。俺に勝ったららな。」
「新しい剣も欲しいのう。せっかくだから、里長が作る頑丈で軽いやつがええのう。」
「おう、くれてやるるくれてやるる。俺に勝ったららな。」
ほぼ勝負は決まったのではないだろうか。里長は完全にドロスさんに乗せられている。
「里長ぁ、ドワーフなのに人族に連続式で負けちゃうんですかぁ?」
「うるせぇ!まらまらこれかららろ・・・・」
里長の呂律が怪しくなってきている。趨勢が決まったようだ。
さらに追加で二杯。里長がテーブルに突っ伏して大いびきとともに倒れたところで、勝負は決まった。勝者のドロスさんに歓声が上がる。
ドロスさんが自分のグラスに火酒を入れて、もう一杯飲む。スクルトさんが仕事をするタイミングだ。
グラスを机に叩きつけてドロスさんは立ち上がった。
「さて。ワシは疲れたから今日のところはこれで寝かせてもらう。いいかの?」
「勿論です!お見事でした!」
「連続式でドワーフに飲み勝った人間は初めて見ました!」
「明日は指導してくれるんですよね?剣聖、お願いします!」
ドロスさんがドワーフに囲まれてしまったせいで、スクルトさんは完全にタイミングを失ったようだ。
「・・・スクルト。なにをしようとしている?」
スクルトさんがビクリとした。手斧はベルトの背中側に刺して隠している。
「い、いえ特に・・・」
「妙な気配が見えたと思ったが、気のせいじゃったか。どうも今日は自信が揺らぐ日じゃのう・・・」
その直感は正解です、ドロスさん。
「ではスクルト、ワシの代わりにドワーフたちと飲んでいけ。」
「は、はい!」
ドワーフたちが湧き立つ。ドロスさんはとっとと今日のベッドを教えてもらい、そのまま眠るつもりのようだ。ドロスさんから一本取るよりはマシだろうが、スクルトさんも明日は使いものにならないかもしれない。
少しトレーニングをしようと私は外に出た。前回の魔物災害では負荷が大きすぎて回復が大変だったが、今回はあまり働いていないので負荷が足りない気がする。何発か魔法を捌いただけだ。
スクワットをしながら今日のことを思い出す。
精霊の恩寵について考えていた。
精霊の声を聞くという伝承があるということは、この世界には精霊がいることになる。声が聞こえるくらい身近な存在としてだ。そしてあの身体能力。身体強化魔法か、それ以上に上乗せされた能力に見えた。人族最強である剣聖ドロスですら時間がかかった固有種を一撃で倒す強さ。
精霊の恩寵さえあればどんな魔物でも倒せそうだというのに、初代人間王のパーティですら魔王は封印することで精一杯だったのか。魔王という存在はどれほど桁違いなのか。そんなものが存在していたらおちおち筋トレもできないではないか。
いや。先のことよりもまずは今の状況で肝心のことが分かっていない。
なぜロキさんは唐突に精霊の恩寵を受けることになったのだ?
なぜ里長ではないのだ?
うーむ、筋トレの最中だというのに、筋肉以外のことを考えている。筋肉が嫉妬しそうなので、私はトレーニングを止めることにした。意識が筋肉に行かない以上はトレーニングの効果があまり期待できない。
嫉妬?
私は、精霊の恩寵を受けたロキさんの肉体に嫉妬していたのか。
こういう感情は久しぶりだ。自分で鍛え上げた肉体ではなく、他人の肉体を羨ましいなどと思うとは。
あまりいい傾向ではないな。
トレーニーは自分で鍛え上げた肉体を信じるべきだ。捧げた時間もエネルギーも労力も、そしてその結果としての肉体も、すべて自分の責任に依るものだ。肉体を育てるにも才能があるし、大きな切れた筋肉を作るには体質もある。だが、私が私の肉体を信じなければ、誰が私の肉体を信じるというのだ?
他人の肉圧で圧倒されることなど、この世界に来てから初めてのことだ。嫉妬だけではなく、私は少し混乱もしているのだろう。
私はストレッチを入念に行い、その夜は悶々としながら眠りについた。
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