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44 マッチョさん、揺らぐ
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私はいまロキさんと初めて出会った草原にいる。
魔物災害も解決したし、ドワーフの里に魔物が出ることも少なくなるだろう。
しかし見事な草原だ。畜産とはまずは牧草地を作るところから始めなくてはいけないのか。人間王が仕事を急がせるワケだ。栄養面だけ見たら豚だけも事足りるだろうが、戦意高揚を目的とするならば豚だけでは足りないのだろう。よい筋肉を作るにあたり、食事はたしかに重要だ。似たような食事で栄養摂取をすることも追い込みをかける時にやることはあるが、やはり楽しみというものが無いと厳しいトレーニングは続かない。
そう。筋肉だ。いつだってそれが問題になる。
嫉妬や混乱は収まったが、好奇心はさらに募っていった。
ドロスさんが言うように、ロキさんのあの肉体は筋トレをしたとしてもどうにか作れるような肉体ではない。トレーニーの理想形をそのまま肉体で表現したようなものだ。だが手本があるのであれば、私もあの肉体に近づくべきではないのか?
神の肉体、という言葉をふと思いついた。
たしかに神がかっている筋肉の付き方だった。
「ふーむ。神の肉体。」
私にとっての神の肉体とはランドクルーザー岡田の肉体だ。だがそれを上回る凄い肉体を、この異世界で見てしまった。あのような肉体が見られただけでも異世界に飛ばされた価値があったというものだ。しかし、あれを究極の肉体として目指すべきなのだろうか。そして、私は今の体幹を重視したままのトレーニングでいいものだろうか。
いや、神の肉体という言葉が思いつくくらいなのだ。現実的な目標としてはよろしくないだろう。
いつかソロウのドクターに注意されたな。私の肉体はいつか関節が悲鳴を上げると。ロキさんが現実離れした筋肉を身につけて、それでもなお肉体の他の部分に悪影響を与えずに動けるのは、あくまで精霊の恩寵があるからなのだ。そして人を超えた肉体になるが故の反動もある。
こちらはただの人間だ。それに人知を超えた存在に頼ってまでカラダを作り上げることは、トレーニーの姿勢としてもいかがなものかと思ってしまう。ありとあらゆる科学的な理論や栄養摂取を貪欲に取り入れることには躊躇が無いにも関わらず、精霊に頼るというのはどうにもトレーニーとしての私の腑に落ちない。
これはドーピングに対する嫌悪感に似ているかもしれない。
魔法で回復して超回復ループを作るのはセーフだ。回復しかしていないのだから。この辺の機微はなかなかトレーニー以外には分かってもらえないかもしれないし、トレーニーの間でも邪道と呼ぶ声があってもおかしくない。
トレーニングについて考えながらぼんやりと遠くを見ながら歩いていたら、足元になにかがあることに気づかなかった。
かがんでよく見てみる。
なにか記念碑のようなものがあるな。かなり古い。
石でできていて、なにかが彫ってある。初代王の暗号文だ。
”精霊の恩寵を求めるドワーフに永く伝える。この場で強く求めよ。さすれば与えられん”
これか。
ロキさんはこの場で祈ったのだ。そして精霊の恩寵を手に入れたのだ。
おそらくここでの祈りによって、血統に関係なくドワーフ族の誰かに恩寵が与えられるのだろう。もしかしたら、精霊信仰は誰にでも精霊の恩寵が与えられる可能性があるからこそ広がったのかもしれない。
そういえばフェイスさんもいつか言っていたな。古い遺跡で初代王の暗号文を見たことがあると。もしかしたらそこも精霊の恩寵を手に入れられる祈りの場なのかもしれない。そしてフェイスさんが見た遺跡以外の場所にも石碑があるのだろう。その手がかりは王都にある手記の中にある。わざわざ碑文を残すくらいだ。別の碑文の場所も記録してあるだろう。
初代王は精霊のことをこの時代の人たちよりも詳しく知っていたのかもしれない。だから精霊の恩寵を受けられる場所を探し当てられたのか?いや、もしかしたらこの世界の人たちにとって精霊はもともと身近に感じられたものなのかもしれない。あまりに信仰の対象が遠い存在であるとしたら、大陸で唯一の宗教になどならないのではないだろうか?
うーむ。仮説に仮説を重ね過ぎている気がする。理屈として飛躍しすぎだろうか?
しかし少なくとも、初代王は精霊の恩寵を手に入れられる場所を知っていたのだ。
なぜ知っていたのかは分からない。だがわざわざ碑文として残したことは間違いがないだろう。
私がなぜこうも精霊の恩寵に惹かれるようになったのか、ようやく整理がついてきた。
私は、それがたとえ自分ではなかったとしても、神の肉体をまた見たいのだ。
ひとりのトレーニーとして。
魔物災害も解決したし、ドワーフの里に魔物が出ることも少なくなるだろう。
しかし見事な草原だ。畜産とはまずは牧草地を作るところから始めなくてはいけないのか。人間王が仕事を急がせるワケだ。栄養面だけ見たら豚だけも事足りるだろうが、戦意高揚を目的とするならば豚だけでは足りないのだろう。よい筋肉を作るにあたり、食事はたしかに重要だ。似たような食事で栄養摂取をすることも追い込みをかける時にやることはあるが、やはり楽しみというものが無いと厳しいトレーニングは続かない。
そう。筋肉だ。いつだってそれが問題になる。
嫉妬や混乱は収まったが、好奇心はさらに募っていった。
ドロスさんが言うように、ロキさんのあの肉体は筋トレをしたとしてもどうにか作れるような肉体ではない。トレーニーの理想形をそのまま肉体で表現したようなものだ。だが手本があるのであれば、私もあの肉体に近づくべきではないのか?
神の肉体、という言葉をふと思いついた。
たしかに神がかっている筋肉の付き方だった。
「ふーむ。神の肉体。」
私にとっての神の肉体とはランドクルーザー岡田の肉体だ。だがそれを上回る凄い肉体を、この異世界で見てしまった。あのような肉体が見られただけでも異世界に飛ばされた価値があったというものだ。しかし、あれを究極の肉体として目指すべきなのだろうか。そして、私は今の体幹を重視したままのトレーニングでいいものだろうか。
いや、神の肉体という言葉が思いつくくらいなのだ。現実的な目標としてはよろしくないだろう。
いつかソロウのドクターに注意されたな。私の肉体はいつか関節が悲鳴を上げると。ロキさんが現実離れした筋肉を身につけて、それでもなお肉体の他の部分に悪影響を与えずに動けるのは、あくまで精霊の恩寵があるからなのだ。そして人を超えた肉体になるが故の反動もある。
こちらはただの人間だ。それに人知を超えた存在に頼ってまでカラダを作り上げることは、トレーニーの姿勢としてもいかがなものかと思ってしまう。ありとあらゆる科学的な理論や栄養摂取を貪欲に取り入れることには躊躇が無いにも関わらず、精霊に頼るというのはどうにもトレーニーとしての私の腑に落ちない。
これはドーピングに対する嫌悪感に似ているかもしれない。
魔法で回復して超回復ループを作るのはセーフだ。回復しかしていないのだから。この辺の機微はなかなかトレーニー以外には分かってもらえないかもしれないし、トレーニーの間でも邪道と呼ぶ声があってもおかしくない。
トレーニングについて考えながらぼんやりと遠くを見ながら歩いていたら、足元になにかがあることに気づかなかった。
かがんでよく見てみる。
なにか記念碑のようなものがあるな。かなり古い。
石でできていて、なにかが彫ってある。初代王の暗号文だ。
”精霊の恩寵を求めるドワーフに永く伝える。この場で強く求めよ。さすれば与えられん”
これか。
ロキさんはこの場で祈ったのだ。そして精霊の恩寵を手に入れたのだ。
おそらくここでの祈りによって、血統に関係なくドワーフ族の誰かに恩寵が与えられるのだろう。もしかしたら、精霊信仰は誰にでも精霊の恩寵が与えられる可能性があるからこそ広がったのかもしれない。
そういえばフェイスさんもいつか言っていたな。古い遺跡で初代王の暗号文を見たことがあると。もしかしたらそこも精霊の恩寵を手に入れられる祈りの場なのかもしれない。そしてフェイスさんが見た遺跡以外の場所にも石碑があるのだろう。その手がかりは王都にある手記の中にある。わざわざ碑文を残すくらいだ。別の碑文の場所も記録してあるだろう。
初代王は精霊のことをこの時代の人たちよりも詳しく知っていたのかもしれない。だから精霊の恩寵を受けられる場所を探し当てられたのか?いや、もしかしたらこの世界の人たちにとって精霊はもともと身近に感じられたものなのかもしれない。あまりに信仰の対象が遠い存在であるとしたら、大陸で唯一の宗教になどならないのではないだろうか?
うーむ。仮説に仮説を重ね過ぎている気がする。理屈として飛躍しすぎだろうか?
しかし少なくとも、初代王は精霊の恩寵を手に入れられる場所を知っていたのだ。
なぜ知っていたのかは分からない。だがわざわざ碑文として残したことは間違いがないだろう。
私がなぜこうも精霊の恩寵に惹かれるようになったのか、ようやく整理がついてきた。
私は、それがたとえ自分ではなかったとしても、神の肉体をまた見たいのだ。
ひとりのトレーニーとして。
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