異世界マッチョ

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54 マッチョさん、休暇をもらう

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 ここ数日、ドワーフ王たちが話して作業しているあいだに私は黙々とトレーニングを続けた。
 新しいトレーニング方法を試すのもいいものだな。今回の山籠もり特訓に私は満足していた。タベルナ村へ帰れば良質なタンパク質が待っているのだ。気合いが入らないワケが無い。
 ドワーフ王たちの収穫も大きかったようだ。耐火レンガと接合材についてだいたいメドがついたので、里へ持ち帰って研究してみるらしい。高炉を補修するにはいちど炉を閉めないといけないので、今回はここまでとのこと。
 「そういえば武器屋さんと丁稚さん、食事とかどうされていたんでしょうかね?」
 「なにか持ってきて食べていたぞ。一度火を入れてしまうと、俺たちも炉から離れられねぇからなぁ。やっぱりそういう時用の食い物を持ってきているんだろう。」
 「あのお弟子さんに伝えなくてはいけないこともあるでしょう。お弟子さんと師匠で水入らずで過ごす大切な時間なのですから、私たちは村でマッチョさんと過ごしましょう。」
 師匠か。そういえばフェイスさんに聞くことがあったな。遺跡で見たという初代王の暗号文の話だ。

 ドワーフ王たちを王都に連れて行き、人間王と話する。
 「ふむ。では初代王の高炉は作れそうだし、タベルナの近くにある高炉も直せそうだということだな。」
 「ああ。俺たちはこれを持ち帰って里で作れないか研究してみるよ。」
 「人間王様、今回はご配慮いただきありがとうございました。」
 「構わん。人間国からもひとり初代王のメモの解読にドワーフ国へ行っている。この件だけではなく、食堂に書かれていたように末永い交誼といきたいものだな。」
 「燃料やら鉄鉱石やら、いろいろと必要なものが多いからなぁ。こちらもできるだけ急いで高炉を完成させるよ。ああそうだ。マッチョ、これをドロスに渡してくれないか?」
 試し打ちの剣だ。研ぎが終わったらずいぶんと立派な剣になったなぁ。軽くて薄くて硬そうだ。
 「分かりました。間違いなく渡しておきます。」
 「・・・なかなかいいな、それ。」
 「ん?なにか言ったか?」
 「いや。俺も新しい武器が欲しいなと思ってな。高炉の件は頼むぞドワーフ王。」
 「言われなくても俺たちが欲しいんだ。止められたってやるよ。」
 はっはっは、という笑い声が響く。
 「マッチョ、ご苦労だったな。ドワーフ国への依頼に続き、そのままドワーフ王の警護までやらせてしまった。二週間ばかり休暇を与えるから少し休んでおけ。報酬はギルド本部のほうへ回しておく。」
 「ありがとうございます。」
 「ありがとな、マッチョ。また遊びに来いよ。」遊びに行ったワケではない。
 「マッチョさん、魔物災害やら人間国の案内やら、本当にありがとうございました。」
 「いえいえ。」
 そういえばずっと私は働いていたのか。けっこう筋トレをしていた印象だったので、あんまり働いていた感覚が無かった。実務はドロスさんとスクルトさんがやってくれていたからなぁ。
 高炉ができるまではかなりかかりそうだ。私専用のトレーニングマシンの完成は遠いが、着実に作れるという希望が見えてきている。

 スクルトさんの護衛付きでドワーフ王とカイトさんは里へと帰った。
 さて。私は休暇をどう使おうか。
 まずはドロスさんのところだな。
 ギルド本部に来たのも久しぶりな気がする。受付で手続きを済ませてグランドマスターの部屋へと行く。
 「マッチョ君、変わりは無いようじゃの。しかし今回は忙しかったのう。魔物災害やら、初代王の暗号やら。大変じゃっただろう。」
 「色々と多すぎてまだ少し混乱していますね。ああ、ドワーフ王からこれを渡すように頼まれました。」
 ドロスさんに里長の剣を渡す。
 「ふむ、なかなかの出来栄えじゃのう。さすがはドワーフ王が作った剣なだけはある。」実際は試作品なんですけれどね。
 「ドワーフ王と飲み比べをして勝った賞品だと思うと、ますますいいのう。」
 「可愛そうなので吹聴しない方がいいんじゃないでしょうか。」
 「ふぁはっ!そうじゃのう。ドワーフが酒で負けたなどと広められたくはないか。言わんでおいてやるか。」
 「人間王が羨ましがっていましたよ。」たしかに出来はいいのだ。
 「うむ。それくらいのモノではあるのう。あとで試し切りをさせてもらおう。」
 「ところで、以前にフェイスさんが言っていたんですが、遺跡に初代王の暗号文が書かれたものがあるらしいですね。ドロスさんは他にそんなものを見たことがありますか?」
 「ドワーフの大食堂に書かれていたような文字じゃろう?ワシは知らんのう。人間国内でもある程度拓けた場所にしかワシは行っていないからのう。ああいう文字自体初めて見た。」
 僻地や未知の土地となると、やはり軍人ではなく冒険者じゃないと行かないのか。
 「では冒険者の報告にああいうのは出てきたりしませんでしたか?」
 「うーむ。ギルドへの報告義務自体、魔物関連が大半だからのう。それに僻地まで足を運べるほどの腕を持った冒険者など多くはおらんぞ。本部付けでも二組程度かのう。それでもフェイスたちよりあちこち行った人間はおらんのではないかの。」
 やっぱりフェイスさんは凄い人だったのか。
 「いちおう各ギルドに通達して、なにか分かったらキミに教えよう。僻地だとすればキミ以外に行って読める人間がいないからのう。」
 そうか。翻訳チームの人間が僻地に旅に出るのは無理がある話だな。魔物だって出るかもしれないのだ。安全な王都とは違う。
 「ところでマッチョ君、せっかくだから闘技場でちょっと訓練でもせんかの?」
 「すみません。昨日ちょっとオーバーワーク気味にトレーニングをしてしまったもので、あちこち痛みがあるんです。」
 「そうか、それは残念だ。つまらんのう・・・」
 護衛任務のあいだヒマだったので筋トレに夢中になり過ぎてしまった。よく食べてよく休んでから休暇の使い道を考えよう。
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