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55 マッチョさん、休暇を消化するためにソロウに向かう
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「ああそうそう。王家から今回の仕事の報奨金が来とるぞ。ずいぶんと儲けたのう。ギルドで預かっておくから、使いたい時には受付に言いなさい。」
「あれ。金貨で手渡しじゃないんですか?」
「重すぎる上にかさ張るんじゃよ。ギルドカード自体が手形になっているから、そちらを使った方が便利じゃろう?金貨10枚以上の大口決済用じゃがのう。」
そんな機能があったのか。百万円相当の決済となると使う人も限られてくるな。
「いくらくらい貰えたんですか?」
「ざっくり1500くらいだったかのう。受付で明細がもらえるからそれで確認しなさい。金貨1000もあれば爵位や領地も買えるが、マッチョ君はそういうものが欲しいタイプではなさそうじゃのう。」
「お金の使い道は考えてあります。」
「ふーむ、爵位よりも高価なものなのかの?」
「いくらかかるか分からないんです。しかし、私の宗教上もっとも重要なものです。」
さすがに金貨1000枚もあればトレーニングマシンが作れそうな気もするが、油断はできない。この世界で王家しかトレーニングマシンを所有していない以上、実質的にまだこの世界には存在していない新兵器の研究開発費と変わらない可能性はあるのだ。
王都はどうにも人が多すぎて疲れる。
タベルナで筋トレをするか、ソロウで筋トレをするか。
まずはソロウだな。フェイスさんに昔見たという初代王の暗号文の話を聞いておきたい。
ギルド本部の馬車を借りてソロウへ向かった。ドワーフ王たちと来た時は通り過ぎただけだったから、じっくり滞在するのは久しぶりだな。
・・・あれ。なんだか筋肉質な人間が増えていないか?
「あれー、マッチョさんご無沙汰っすー!」
・・・誰だ?
身長170cm、体重65㎏、体脂肪率14%。なかなか鍛えられているじゃないか。
「どちらさまでしょうか?」
「俺っすよ!ツイグっす!」
ツイグか!ずいぶんと筋肉質になって分からなかった。彼はトレーニング自体あんまり続かなそうだと勝手に思っていたのだが、なかなかどうしてしっかりと続けていたようだ。
「ツイグ。ずいぶんいい筋肉が付きましたね。」
「ですよね?最近になって俺も気づいてきたんすよ!んで、実際に大きくなってきたら楽しくなってきちゃって。」
肉体の変化が喜べるほどになったのか。彼はもう立派なトレーニーだな。
「マキ割りのバイトは続けてますか?」
「ええとですね。あれは他の人に頼まれて譲ってしまったんですよ。」
頼まれて譲った?
「マッチョさんがいなくなってから、ギルドの仕事がヒマになってしまって。で、ソロウ以外で儲けようっていう人が増えてきたんです。でもギルマスに強さを認めてもらわないと、他の街のギルドでは働けないでしょう?」
そういうシステムだったのか。
「で、なんとかギルマスを倒そうっていうことで、まずはギルマスから一本取ったマッチョさんを見習おうって話になったんすよ。それでマッチョさんから色々と教わった俺が、今度はみんなに色々と教えることになったんすよ。食事とか鍛え方とか。何人かはもうよそのギルドで働いてるっすよ。」
ソロウに筋トレブームが巻き起こっていたとは知らなかった。
だから筋肉質な人間が増えていたのか。仕事が無くなっても他の土地に行ってきちんと稼ごうという意欲も素晴らしいが、その手段として筋トレを選んだのもいい。
タベルナ村の筋肉もなかなか良かったが、目的を持った筋肉というものもまたいいものだ。見応えがある。
「ということは、フェイスさんは毎日のように大忙しというか、ギルドメンバーの相手をしているんですか?」
「みんなを鍛えてますね。ギルマスはまた強くなったと思うっすよ。まだギルマスから一本とった人はいないっすね。マッチョさんだけっす。」
毎日生活を賭けている人間相手に真剣勝負をしているのだ。魔物と戦うのとはまた違う怖さがあるな。そりゃフェイスさんも強くなるだろう。
「今回はギルマスに会いに来たんすか?マッチョさんは王様に頼まれて色々と仕事しているって話には聞いてるっすけど。」
「ええ。フェイスさんに聞きたいことがありまして。」
ソロウのギルドだ。ルリさんは不在か。
見慣れない職員さんがいる。この人もたぶんもと軍属だな。所作にスキが無い。
受付で手続きをしてギルマスの執務室に入ったら、フェイスさんがスクワットをしていた。
「おおマッチョ、久しぶりだな。」
「フェイスさん、なんでスクワットをしているんですか?」
「なんだかお前の真似をして強くなってきている連中が増えてな。そいつらをぶっ倒すために俺もお前がやってたことを思い出して鍛えてたんだよ。こんな感じで上下動していただろう?」
ギルマスとして相手の強さを見極めることよりも、負けることがイヤらしい。
うーん、しかし・・・
「姿勢が正しくないですね。背筋は伸ばし、腰の横軸を地面と水平にして、ゆっくりと下ろしたりゆっくり上げたりするのが正しい作法です。」
「ふーん。やってみるか。うおっ、キツいなこれ・・・」
綺麗なフォームだ。たったこれだけの助言でいきなり正しいフォームになるのか。持って生まれた運動神経の良さもあるだろうが、日ごろ肉体を使う仕事をやっていることが影響しているのかもしれない。フェイスさん、ナイススクワットです。
「で、なにしに来たんだお前。ルリならギルドがヒマなんで代役を入れてエルフ国に遊びに行ったし、帰ってきてもお前がやるような仕事はここには無いぞ。」
「フェイスさんにお話を聞きに来たんですよ。あと休暇をいただいたんで、こちらで過ごそうかと思いまして。」
「なんだか忙しくしているって話は聞いてる。まぁ俺の話はあとだ。お前のほうはなんか色々面白いことあったんだろう?お前の冒険の話を聞かせてくれ。」
根っから旅や冒険が好きなんだな、この人は。
「あれ。金貨で手渡しじゃないんですか?」
「重すぎる上にかさ張るんじゃよ。ギルドカード自体が手形になっているから、そちらを使った方が便利じゃろう?金貨10枚以上の大口決済用じゃがのう。」
そんな機能があったのか。百万円相当の決済となると使う人も限られてくるな。
「いくらくらい貰えたんですか?」
「ざっくり1500くらいだったかのう。受付で明細がもらえるからそれで確認しなさい。金貨1000もあれば爵位や領地も買えるが、マッチョ君はそういうものが欲しいタイプではなさそうじゃのう。」
「お金の使い道は考えてあります。」
「ふーむ、爵位よりも高価なものなのかの?」
「いくらかかるか分からないんです。しかし、私の宗教上もっとも重要なものです。」
さすがに金貨1000枚もあればトレーニングマシンが作れそうな気もするが、油断はできない。この世界で王家しかトレーニングマシンを所有していない以上、実質的にまだこの世界には存在していない新兵器の研究開発費と変わらない可能性はあるのだ。
王都はどうにも人が多すぎて疲れる。
タベルナで筋トレをするか、ソロウで筋トレをするか。
まずはソロウだな。フェイスさんに昔見たという初代王の暗号文の話を聞いておきたい。
ギルド本部の馬車を借りてソロウへ向かった。ドワーフ王たちと来た時は通り過ぎただけだったから、じっくり滞在するのは久しぶりだな。
・・・あれ。なんだか筋肉質な人間が増えていないか?
「あれー、マッチョさんご無沙汰っすー!」
・・・誰だ?
身長170cm、体重65㎏、体脂肪率14%。なかなか鍛えられているじゃないか。
「どちらさまでしょうか?」
「俺っすよ!ツイグっす!」
ツイグか!ずいぶんと筋肉質になって分からなかった。彼はトレーニング自体あんまり続かなそうだと勝手に思っていたのだが、なかなかどうしてしっかりと続けていたようだ。
「ツイグ。ずいぶんいい筋肉が付きましたね。」
「ですよね?最近になって俺も気づいてきたんすよ!んで、実際に大きくなってきたら楽しくなってきちゃって。」
肉体の変化が喜べるほどになったのか。彼はもう立派なトレーニーだな。
「マキ割りのバイトは続けてますか?」
「ええとですね。あれは他の人に頼まれて譲ってしまったんですよ。」
頼まれて譲った?
「マッチョさんがいなくなってから、ギルドの仕事がヒマになってしまって。で、ソロウ以外で儲けようっていう人が増えてきたんです。でもギルマスに強さを認めてもらわないと、他の街のギルドでは働けないでしょう?」
そういうシステムだったのか。
「で、なんとかギルマスを倒そうっていうことで、まずはギルマスから一本取ったマッチョさんを見習おうって話になったんすよ。それでマッチョさんから色々と教わった俺が、今度はみんなに色々と教えることになったんすよ。食事とか鍛え方とか。何人かはもうよそのギルドで働いてるっすよ。」
ソロウに筋トレブームが巻き起こっていたとは知らなかった。
だから筋肉質な人間が増えていたのか。仕事が無くなっても他の土地に行ってきちんと稼ごうという意欲も素晴らしいが、その手段として筋トレを選んだのもいい。
タベルナ村の筋肉もなかなか良かったが、目的を持った筋肉というものもまたいいものだ。見応えがある。
「ということは、フェイスさんは毎日のように大忙しというか、ギルドメンバーの相手をしているんですか?」
「みんなを鍛えてますね。ギルマスはまた強くなったと思うっすよ。まだギルマスから一本とった人はいないっすね。マッチョさんだけっす。」
毎日生活を賭けている人間相手に真剣勝負をしているのだ。魔物と戦うのとはまた違う怖さがあるな。そりゃフェイスさんも強くなるだろう。
「今回はギルマスに会いに来たんすか?マッチョさんは王様に頼まれて色々と仕事しているって話には聞いてるっすけど。」
「ええ。フェイスさんに聞きたいことがありまして。」
ソロウのギルドだ。ルリさんは不在か。
見慣れない職員さんがいる。この人もたぶんもと軍属だな。所作にスキが無い。
受付で手続きをしてギルマスの執務室に入ったら、フェイスさんがスクワットをしていた。
「おおマッチョ、久しぶりだな。」
「フェイスさん、なんでスクワットをしているんですか?」
「なんだかお前の真似をして強くなってきている連中が増えてな。そいつらをぶっ倒すために俺もお前がやってたことを思い出して鍛えてたんだよ。こんな感じで上下動していただろう?」
ギルマスとして相手の強さを見極めることよりも、負けることがイヤらしい。
うーん、しかし・・・
「姿勢が正しくないですね。背筋は伸ばし、腰の横軸を地面と水平にして、ゆっくりと下ろしたりゆっくり上げたりするのが正しい作法です。」
「ふーん。やってみるか。うおっ、キツいなこれ・・・」
綺麗なフォームだ。たったこれだけの助言でいきなり正しいフォームになるのか。持って生まれた運動神経の良さもあるだろうが、日ごろ肉体を使う仕事をやっていることが影響しているのかもしれない。フェイスさん、ナイススクワットです。
「で、なにしに来たんだお前。ルリならギルドがヒマなんで代役を入れてエルフ国に遊びに行ったし、帰ってきてもお前がやるような仕事はここには無いぞ。」
「フェイスさんにお話を聞きに来たんですよ。あと休暇をいただいたんで、こちらで過ごそうかと思いまして。」
「なんだか忙しくしているって話は聞いてる。まぁ俺の話はあとだ。お前のほうはなんか色々面白いことあったんだろう?お前の冒険の話を聞かせてくれ。」
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