異世界マッチョ

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56 マッチョさん、旅に出る

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 私はフェイスさんに、ドワーフの里での出来事を話した。フェイスさんはものすごく楽しそうに聞いてくれるな。
 「へぇー。魔物災害に固有種が二体。精霊の恩寵を受けた勇者まで出てきたのか。で、精霊の恩寵をもらえる場所まで見つけたと。んで初代王の高炉の復元かぁ。お前は面白そうでいいなぁ。ソロウのギルマスはヒマだぞ。そこそこ強くなってきたギルドメンバーを鍛え上げるのはまぁまぁ面白いけれどな。」
 「ですが、どうにも私は戦うのには向いていないのではないかと考えるようになりまして。」
 フェイスさんが呆れ顔になった。なにかヘンなことでも言ったのだろうか?
 「あのなぁ。俺から一本取れて、剣聖に鍛え上げてもらえる戦士なんてそうそういないぞ?人間の中ではお前は飛び切りに強い方なんだよ。ソロウのギルドメンバーが多少強くなったとはいえ、俺から一本取ったやつなんかまだいないんだからな。」
 私はけっこう強かったのか。あんまり自覚が無かった。
 「お前の場合、やたら固有種に当たるからなぁ。あれは倒しきれなくても恥でもなんでもねぇんだよ。そもそも人間ひとりで倒せるような強さじゃねぇし、抑え込めて時間を稼げたら上出来だ。だいたい死人も出てないだろうが。」
 「まったく強さの実感が湧かないんですよねぇ。」
 「はぁぁ・・・ヘンなところで手間がかかるな、お前。やっぱりあれか。敵を倒した数が足りねぇのかなぁ・・・逃げちゃうもんなぁ・・・」
 フェイスさんがなにやら考え込んでいる。
 「よし、俺も休暇を取ろう。マッチョ、お前の休暇はあと何日だ?」
 「今日も含めて14日分ですが。」
 「その休暇、俺が貰うぞ。お前に見てもらいたい場所もあるし、ついでに自信もつけさせてやる。」
 そういうやつを求めてソロウに寄ったワケでは無いのだが。
 「ちょっと話が変わりますけれど、以前に遺跡で初代王の暗号文を見たって話をしていましたよね?それってどこですか?この話を聞きに来たんですよ。」
 「都合がいいな。お前に見せたい場所があるってのも、そこが通り道だ。ついでに見ていけばいい。」
 なかば強引に決められたが、私はフェイスさんと休暇を使って旅に出ることになった。

 「ギルマスとマッチョさんとご一緒させていただくなんて光栄っす!」
 ツイグも連れていくことになった。途中から水や食料が手に入らなくなるので、荷物持ちが必要なのだそうだ。ぷらぷらしていたので聞いてみたら二つ返事でついて来た。装備を整え、いつものハムをいちおう15日分。けっこうな重量になったが旅先で食料が手に入らないのであれば仕方が無い。
 「で、どこ行くんすか?」
 「タベルナの先のさらに先。限界領域までだ。」
 「ま、マジっすか・・・あのー俺・・・」
 「来るんだよな?」
 「は、はいっす・・・」
 ツイグがビビりまくっている。
 「どういう所なんですか、そこ。」
 「人間というか、どの種族もそこから先までは行けないっていう場所だ。俺たち冒険者の限界を知る場所でもある。水と食料がそこから先は手に入らないからな。」
 つまり人間が生きていくことのできない場所まで旅をするのか。
 「そこになにがあるんですか?」
 「あそこにも初代王の痕跡があるんだ。初代王ですらそこから先には進めなかったと言われている。一度お前も行った方がいいと思ってな。人間が人間の小ささを知るには、あそこに行くのが一番だ。」
 僻地の極みみたいな場所に行くのか。あんまり楽しそうな旅という感じでは無いなぁ。
 「いや、それよりもトロールっすよ・・・シャレになんないっす・・・」
 その魔物の名前は初めて聞いたな。今まで行った土地では出なかった魔物だ。
 「だからいいんじゃねぇか。魔物災害も起きないからマッチョが行っても問題無いしな。」
 うーん。なんだかイヤな予感がする。
 「トロールってどういう魔物なんですか?」
 「俺の知る限り飛び切りのアホだ。連携もしないで襲ってくるんだが、倒しても倒しても引かねぇし逃げねぇ。つまり魔物災害自体が起きねぇ。」
 「つまり、ずーっとトロールに襲われ続けるんです。昼も夜も関係なく・・・」
 ぜんぜん楽しそうな旅では無いな。ひたすらしんどそうだ。
 「ゴブリンを100匹倒しても自分の強さに納得できないんだろ?好きなだけトロールを倒して自信をつけたらいい。他の魔物と違って逃げないしな。」
 もう少しやり方が無かったのだろうか?
 いや、荒療治もまたひとつの方法だな。筋トレで肉体に変化が起きることで自信がつくように、魔物を倒すことを積み重ねて自身の強さに自信をつけていくしかないのかもしれない。
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