異世界マッチョ

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57 マッチョさん、遺跡に到着する

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 タベルナ村で補給して、徒歩でそのまま西へ向かう。
 また山道か。
 「限界領域の前に遺跡がある。初代王の暗号文もそこにある。」
 「なんでそんな所に行くんすか?」
 「なんだ。言ってなかったのか、マッチョ。」
 「いちおう極秘の仕事ということになっているので。フェイスさんもツイグも他言しないでください。」
 私はツイグにも初代王の暗号文があちこちに残っているということ、それを解読するために王都で働いていることを話した。
 「へぇー、凄い話じゃないすか!なにかこうアガる話っすね!冒険ってカンジで。古代の謎なんていいじゃないすか!」
 「ペラペラ喋るんじゃねぇぞ。いちおう国家機密だ。それに初代王つっても人間の話だ。おとぎ話みたいな綺麗事ばかりじゃねぇだろう。裏の顔を見なくちゃいけねぇかもしれねぇんだからな。」
 将軍にまでなった人の言葉は含蓄がある。フェイスさんも見たくないものをいっぱい見てきたのだろう。

 魔物の雄叫びが聞こえた。
 「あー来たなトロール。さっそくだ、マッチョやれ。」
 あれがトロールか。身長180cm体重120kg程度。体脂肪率の計算が面倒だな。なるほど馬鹿っぽい顔をしている。よだれを垂らして舌を出し、叫びながらこん棒で殴りかかってきた。斧で頭をたたき割る。あっさりしているなぁ。
 「一撃っすか、マッチョさん・・・」
 「これでコイツは強さに自信がねぇんだと。トロールを一撃で倒せるやつなんてそうそういないぞ?」
 「このトロールとか言う魔物、たいして強くないじゃないですか・・・」
 「だからお前が強いんだよ。じゃぁツイグ、次はお前がやってみろ。」
 「・・・はっ?俺弓使いっすよ?」
 「だーかーら、マッチョとの差を見せないとマッチョが納得しないだろうが。ヤバそうなら加勢するから倒してみせろ。」
 「・・・頼んますよ。マジで自信無いんで。」 
 またトロールの叫び声だ。魔物というよりもキリングマシーンだな。
 ツイグの矢は当たったが弾かれた。二発目も当たったが倒れない。
 「胴体はけっこう固い。目か口を狙え。当たれば死ぬはずだ。」
 「そんな小さい的に当てたことなんか無いっすよ!動いてるんすよ!」
 これではツイグは荷物持ちにしかならない。が、今回の旅は大荷物なのだ。私とフェイスさんが戦えばいい。三発目は外した。
 「あーあーあー、しゃーねぇなぁ。」
 今度はフェイスさんが一撃で倒した。
 「よし、進むぞ。こういう要領で十日ばかり暮らすんだ。」
 ツイグが露骨にイヤそうな顔をした。たしかに強くなるかもしれない。が、楽しい旅では無い。

 野営することになった。簡易テントに泊まり、二時間おきに歩哨に出る。
 うーむ。こういうことになるのであれば、この旅の話はお断りすればよかった。
 ランドクルーザー岡田の言葉を思い出す。
  「休息もまたトレーニングの一部である。睡眠が筋肉を育てる」
 筋肉にとって睡眠はトレーニングと同じくらい大切だ。私は最低でも7時間は睡眠を取るようにしているし、異世界でもその習慣は変えなかった。にもかかわらず、まさか睡眠を削らされるとは思わなかった。睡眠不足は筋肉だけではなく思考や心理状態にも影響する。
 筋トレのセオリーに反することをこの異世界ではけっこうやっていると思うが、睡眠不足だけはダメだ。受け付けないというよりも私の身体が持たない。

 山道を進む。トロールが襲ってくる。私が倒す。
 山道を進む。トロールが襲ってくる。ツイグがやっと倒す。倒せなかったらフェイスさんが倒す。
 私はだんだんと無感情になってきた。感情が動かなくなっても仕方ないだろう。
 私は眠いのだ。
 襲ってきた魔物をただ倒しているだけという気分だ。トレーニーの本能でたまに斧を左右で持ち替える。自分が強いとか弱いとか心の底からどうでもよくなってきた。とにかく夜はぐっすりと眠りたい。
 ツイグもずいぶんと疲れてきたようだ。ひたすら戦闘という緊張感は初めての経験だろう。だが私も余裕が無い。肉体以上に気持ちの余裕が無い。安全なところで筋トレをしてから補給をしてぐっすりと眠りたい。

 二日目か三日目になると遺跡が見えてきた。
 「ここだ。立派なものだろう?」
 かつて都市だった形跡が残っている。が、明らかに戦争があったであろう痕跡がそのままになっている。壊れた家やベンチ、焼かれた家や納屋、かつて城だったであろう廃墟。人工物に樹木が巻き付いて苔むしている。人の気配も動物の気配も無い。死んだ街だ。
 「かなり古いみたいですね。」
 「初代王の時代に滅んだと言われている。単純に西の廃墟とか呼ばれているところだな。」
 「ここが西の廃墟っすか・・・すげぇ・・・こんなデカかったんすね・・・」
 「トロールが来なければ、人が住めたかもしれませんね。」
 「どうかな・・・この都市から人が消えて数百年だ。人間が生きていくために必要なものは取りつくしたかもしれないしな。こっちだ。」
 かつて城であったであろう建物の手前に広場のようなところがあり、その中央に小さな石碑がある。
なにか違和感があるが眠いのでどうでも良くなってきた。
 「これが精霊の恩寵に関係あるかどうか知らないけれどな。見てくれマッチョ。」

 最愛の女性サーシャと最愛の我が子の魂、ここに眠る。

 「初代王の暗号ですが、墓標ですね。サーシャという女性と子どものお墓です。この女性の名前は有名なんですか?」
 「いや。初めて聞いたな。ん?サーシャ。」
 「サシスセソで始まる名前ですね。」
 「なんすか?俺も話に入れてくださいよ!」
 「初代王が残した文書の中に、サシスセソで始まる女性の記述があるんです。しかも王家にとってかなり重要な人らしいんです。」
 「たぶん恋人か妻の一人だろうな。でもなんでまたこんな遠くに墓を立てたんだ?カンチュウの近くに立てたら良さそうなモンだけれどな。」
 「なんででしょうね?」
 この都市に関わるなんらかの理由があったのだろう。
 それにしても、こんな遠くにまで初代王はお墓参りをしていたのだろうか?
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