63 / 133
63 マッチョさん、助言する
しおりを挟む
体調の話をあとでフェイスさんにしたら、とりあえずやれることをやっておけと言われた。他に対応のしようが無いからなぁ。現場でどれほど動けるものなのだろうか。とりあえずフェイスさんと模擬戦をやってみたところスタミナがほとんど無かった。この体調で睡眠不足まで加わったら誰だってイライラする。
ツイグは龍族の二人とずいぶんと仲良くなったようだ。クレイとダニエル。私には見分けがつかないが、ツイグには分かるらしい。彼の場合はあの性格も武器だな。
三週間ほどダラダラ過ごしたのち、再びフェイスさんと模擬戦をやった。二本取れたか。動きもスタミナも戻ってよかった。二週間前にトロールに攻めてこられていたら、私が持たなかった。
模擬戦の汗を流しに清流へと向かった。ジェイさんが水へと向かう私を見てついてきてくれた。ジェイさんはこの里で一番の強さをもった龍族なのだそうだ。だからこそ墓守として遺跡まで派遣されたのだろう。
「・・・水に入るつもりじゃないだろうな?」
「少し確認してから入ります。今度は浮くはずです。」
「・・・あの辺を使え。胸までの高さしかないし、水の流れも遅い。」
「ありがとうございます。」溺れかけたのによく許可が下りたものだ。それだけ信仰が大切にされているのだろう。
汗を流し、水面に写る自分の肉体を見る。キレは失われわずかに脂肪が残っている感覚がある。これで体脂肪率一ケタということは無いだろう。であるならば私は水に浮くはずだ。
水面で膝を抱え込んで丸くなる。
浮いた。
なんとか体脂肪率を上げることに成功したようだ。
あとはいつも通りの生活を送り、襲ってくる魔物を倒せばいい。そうやって今回も生き残れるはずだ。
「ちゃんと浮いたので、少し泳いでみてもいいですか?」
「・・・好きにしろ。」
泳いでみるとこの清流の凄さを実感できる。10m、いや20m先でも見えそうなくらいの透明度だ。龍族がここを聖地とした気持ちも分かる。清流という自然の美しさが持つ光と水の対比に、神や精霊の存在を感じたとしてもおかしくない。さらに食料まで恵んでくれるのだ。
私が溺れかけた、いや溺れた場所の近くまで泳いでいた。
深いな。10~15mというところか。水の流れはゆっくりとしている。
うん。水底にあるあの岩を見たんだった。
うん?
どこかで見たような形だな。
・・・!
あれは石碑じゃないのか?ドワーフの里で見たものとおなじ形をしている。
水から上がってジェイさんに話かけてみた。
「見ていてくださってありがとうございました。泳げました。」
「・・・見ていたから知っている。」
「龍族の方々は深いところまで泳げるものなのですか?」
「水の中は我らの領域だ。30分程度なら呼吸しないでも泳ぎ続けられる。」
それは凄いな。
「あのあたりに岩が埋まっていたんですが、あれって自然の岩っぽくないんですよね。」
「・・・コトハギの岩と言われているものだな。なにか記号のようなものが彫られている。」
コトハギ。なにか神事に用いる言葉だった気がする。
「その記号のようなものって、解読されているんでしょうか?」
「いや。我らは歌や踊りでものごとを伝えるからな。文字を扱うのは人族やエルフ族だけだろう。」
初代王の暗号文であれば、たぶんあれは例の石碑だ。うーん、先に族長に話した方がいいだろうか?
「ジェイさん、ちょっと族長のところへ案内していただけませんか?」
「・・・族長はトロール対策のために多忙だ。急ぎの話なのだろうな?」
「ええ。」
「なら案内しよう。」
少しだけ彼とはくだけた関係になれた気がする。
どうにも龍族というものは、自分たちの信仰については熱心だが他人や他種族に対してあまりに興味が薄い。ソロウで浴衣まで作った龍族というのは、よっぽど変わり者だったのだろうな。
「族長、マッチョを連れてきました。コトハギの岩について話があるそうです。」
フェイスさんと軍議の最中だったようだ。
「お邪魔でしたでしょうか?」
「いや。話はだいたい終わったところだ。どうしたマッチョ?」
「清流の底にある岩のひとつに、初代王の暗号文が彫ってあるかもしれません。」
「例のアレか。祈ったら勇者になるやつか。」
「たぶんそうだと思います。」
族長がいまいちピンと来ていなかったようなので、私はどういう経緯でドワーフに勇者が産まれたのか話した。
「ふーむ、そういうことがあったのか。聖地に埋めたのか、もともと聖地だったのか・・・」
「マッチョ、それ読めないのか?」
「水深でざっくり15mくらいですよ?そんなに沈んだら溺れてしまいますよ」実際につい最近溺れそうになった、いや溺れたのだ。
「記号を書いてあることは知っていたが、それが意味を持つとなると確認はした方がいいだろうな。ジェイ、彼を沈めて読ませることができるか?」
「やれます。行くぞマッチョ。」
沈めるってなんだ?
清流に私が潜ったあとに、ジェイさんが上から泳いで私を押す。
これでどれほど深くても私は潜れる。まぁ息が続く限りの話だが。
なるほど。沈める、だ。
水中なのでぼやけて見づらい。目で確認できない部分は指先で文字を確認する。何度か息継ぎをするために上昇し、再び挑戦する。ほぼドワーフの里にあった石碑と同じ文章だった。
”精霊の恩寵を求める龍族に永く伝える。この場で強く求めよ。さすれば与えられん”
決まりだな。ここで祈ればおそらく水の精霊の恩寵が得られるだろう。
「ドワーフの里にあったものと同じ文章が書かれています。ここで祈れば水の精霊の恩寵が得られるかもしれません。」
「我らが祈るべき対象がこことはな・・・あまりに身近すぎて意識すらしたことがなかった。」
カラカラと音が聞こえた。鳴子の音か?
「来たぞ!全員配置に着け!マッチョ来い!作戦通りに行くぞ!」
龍族も殺気立つ。
これから戦争が始まるのだ。
ツイグは龍族の二人とずいぶんと仲良くなったようだ。クレイとダニエル。私には見分けがつかないが、ツイグには分かるらしい。彼の場合はあの性格も武器だな。
三週間ほどダラダラ過ごしたのち、再びフェイスさんと模擬戦をやった。二本取れたか。動きもスタミナも戻ってよかった。二週間前にトロールに攻めてこられていたら、私が持たなかった。
模擬戦の汗を流しに清流へと向かった。ジェイさんが水へと向かう私を見てついてきてくれた。ジェイさんはこの里で一番の強さをもった龍族なのだそうだ。だからこそ墓守として遺跡まで派遣されたのだろう。
「・・・水に入るつもりじゃないだろうな?」
「少し確認してから入ります。今度は浮くはずです。」
「・・・あの辺を使え。胸までの高さしかないし、水の流れも遅い。」
「ありがとうございます。」溺れかけたのによく許可が下りたものだ。それだけ信仰が大切にされているのだろう。
汗を流し、水面に写る自分の肉体を見る。キレは失われわずかに脂肪が残っている感覚がある。これで体脂肪率一ケタということは無いだろう。であるならば私は水に浮くはずだ。
水面で膝を抱え込んで丸くなる。
浮いた。
なんとか体脂肪率を上げることに成功したようだ。
あとはいつも通りの生活を送り、襲ってくる魔物を倒せばいい。そうやって今回も生き残れるはずだ。
「ちゃんと浮いたので、少し泳いでみてもいいですか?」
「・・・好きにしろ。」
泳いでみるとこの清流の凄さを実感できる。10m、いや20m先でも見えそうなくらいの透明度だ。龍族がここを聖地とした気持ちも分かる。清流という自然の美しさが持つ光と水の対比に、神や精霊の存在を感じたとしてもおかしくない。さらに食料まで恵んでくれるのだ。
私が溺れかけた、いや溺れた場所の近くまで泳いでいた。
深いな。10~15mというところか。水の流れはゆっくりとしている。
うん。水底にあるあの岩を見たんだった。
うん?
どこかで見たような形だな。
・・・!
あれは石碑じゃないのか?ドワーフの里で見たものとおなじ形をしている。
水から上がってジェイさんに話かけてみた。
「見ていてくださってありがとうございました。泳げました。」
「・・・見ていたから知っている。」
「龍族の方々は深いところまで泳げるものなのですか?」
「水の中は我らの領域だ。30分程度なら呼吸しないでも泳ぎ続けられる。」
それは凄いな。
「あのあたりに岩が埋まっていたんですが、あれって自然の岩っぽくないんですよね。」
「・・・コトハギの岩と言われているものだな。なにか記号のようなものが彫られている。」
コトハギ。なにか神事に用いる言葉だった気がする。
「その記号のようなものって、解読されているんでしょうか?」
「いや。我らは歌や踊りでものごとを伝えるからな。文字を扱うのは人族やエルフ族だけだろう。」
初代王の暗号文であれば、たぶんあれは例の石碑だ。うーん、先に族長に話した方がいいだろうか?
「ジェイさん、ちょっと族長のところへ案内していただけませんか?」
「・・・族長はトロール対策のために多忙だ。急ぎの話なのだろうな?」
「ええ。」
「なら案内しよう。」
少しだけ彼とはくだけた関係になれた気がする。
どうにも龍族というものは、自分たちの信仰については熱心だが他人や他種族に対してあまりに興味が薄い。ソロウで浴衣まで作った龍族というのは、よっぽど変わり者だったのだろうな。
「族長、マッチョを連れてきました。コトハギの岩について話があるそうです。」
フェイスさんと軍議の最中だったようだ。
「お邪魔でしたでしょうか?」
「いや。話はだいたい終わったところだ。どうしたマッチョ?」
「清流の底にある岩のひとつに、初代王の暗号文が彫ってあるかもしれません。」
「例のアレか。祈ったら勇者になるやつか。」
「たぶんそうだと思います。」
族長がいまいちピンと来ていなかったようなので、私はどういう経緯でドワーフに勇者が産まれたのか話した。
「ふーむ、そういうことがあったのか。聖地に埋めたのか、もともと聖地だったのか・・・」
「マッチョ、それ読めないのか?」
「水深でざっくり15mくらいですよ?そんなに沈んだら溺れてしまいますよ」実際につい最近溺れそうになった、いや溺れたのだ。
「記号を書いてあることは知っていたが、それが意味を持つとなると確認はした方がいいだろうな。ジェイ、彼を沈めて読ませることができるか?」
「やれます。行くぞマッチョ。」
沈めるってなんだ?
清流に私が潜ったあとに、ジェイさんが上から泳いで私を押す。
これでどれほど深くても私は潜れる。まぁ息が続く限りの話だが。
なるほど。沈める、だ。
水中なのでぼやけて見づらい。目で確認できない部分は指先で文字を確認する。何度か息継ぎをするために上昇し、再び挑戦する。ほぼドワーフの里にあった石碑と同じ文章だった。
”精霊の恩寵を求める龍族に永く伝える。この場で強く求めよ。さすれば与えられん”
決まりだな。ここで祈ればおそらく水の精霊の恩寵が得られるだろう。
「ドワーフの里にあったものと同じ文章が書かれています。ここで祈れば水の精霊の恩寵が得られるかもしれません。」
「我らが祈るべき対象がこことはな・・・あまりに身近すぎて意識すらしたことがなかった。」
カラカラと音が聞こえた。鳴子の音か?
「来たぞ!全員配置に着け!マッチョ来い!作戦通りに行くぞ!」
龍族も殺気立つ。
これから戦争が始まるのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる