異世界マッチョ

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74 マッチョさん、プレゼンをする

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 王城の一部を借りて、今までの翻訳の成果を人間王に報告した。
 魔王についてはまだ分からないということを先に話した上で、初代王がどのように統治を行ったのかという話をさせてもらった。
 「ふーむ・・・なるほど・・・話を聞くに、どうやら初代王は弱小国から人間国の統一を始めたようだな。」
 「そうだと思います。強い国家だったから人族を統一できたという印象は受けませんでしたね。」
 「ハトによる高速通信も初代王が考えたのか。どうも我々はまるで進歩が無いという気がしてくるな。いまの国家制度の大半は初代王の時代のものではないか。」
 「と、特筆すべきは教育の有用性だと思われます!才能のある人物を見落とさないことと同時に、貧民救済や反逆防止にも一役買っているように思われます!」
 「ふむ・・・これは一考の余地があるな。新しい産業が作られるのも人が全てだ。今の国の在り方は少々諸侯と王家の力が強すぎる気もしてくる。いや、三人ともよくやってくれた。」
 「ありがたいお言葉です。」
 「あ、ありがとうございます!」
 大仕事が一段落した。これからもペンスとイレイスの二人はいい仕事をしてくれるだろう。
 「だいたいこれで終わりか。魔王についての記述が無かったとはいえ、初代王がいかに偉大だったか分かる素晴らしい内容だったな。細かく読み込んだ上でなにか疑問を感じたら質問させてもらおう。今日はご苦労だった。」
 無事にプレゼンが終わった。人間王も簡単に魔王や精霊について分かるとは思っていなかったようだ。先祖が偉大だったと分かった分だけ翻訳の価値もあるというものだ。

 先にペンスとイレイスの二人が退室し、私と人間王の二人だけになった。
 「ドワーフ国に行ったのはロゴスと言ったか?彼からの報告はどうなっている?」
 「初代王が作ったものを色々と作っているらしいです。」
 「・・・武器か兵器か?」
 「よく分からないらしいです。作りながら考えているんじゃないでしょうか。」
 ロゴスとドワーフ国が手記から作っているものはトレーニングマシンであると私は確信している。職権乱用と言われても公私混同と言われてもいい。
 私はこの異世界でマイトレーニングマシンが欲しいのだ。
 「そうか・・・実物を見てみないことには何なのか分からないだろうな。ドワーフ国に行って見てきたいかマッチョ?」
 「行きたいですね。便利なものが作られているんでしたら、私も欲しいです。」
 「・・・初代王はドワーフに何を作らせたのだろうな。」
 トレーニングマシンだ。
 「それこそ実物が無いと分からないでしょうね。」
 どこまで知らないフリができるのだろうか。

 トレーニングマシンで思い出した。
 「話は変わりますが、筋トレの解禁ってどこまで進んだのですか?」
 「まだたいして進んではいないな。軍に情報の一部を渡した程度だ。サバスの大量生産に成功したのはいいのだが、味が良くなくてな。あれが普及しないまま情報を出すわけにはいかないのだ。」
 サバスの大量生産自体が国家プロジェクトになっていたのか。
 「たぶん大丈夫だと思いますよ。先日ソフィーさんに相談されて、解決のメドが付きましたから。」
 私は先日あったことを人間王に話した。
 「ほう、タベルナ村の村長か・・・」
 なにか考え事をしている。
 「実はな、タベルナ村を町へと格上げして、軍を駐留させる話が出ているのだ。初代王の高炉も近くにある上に、実質的にソロウ・カンチュウの食料基地のようなかたちになっている。人間国としては簡単にタベルナを魔物や夜盗などに取られるワケにはいかないのだ。」
 人間王はタベルナ村に行った事が無いのだろう。魔物はともかく夜盗など出ないし、出たとしても村人にあっさりとボコボコにされるだろう。今やタベルナ村は筋肉濃度で言えば人間国最大の濃さなのだ。
 「それと同時に、ロキ殿をどこに配置するべきかも決めかねている。王都で勇者として鍛えることも大切なのだが、肉牛を育成するための人材も育ててもらわないといけないからな。タベルナも候補に挙がったのだが、食料供給を一元化することは危険だと思うのだ。軍を駐留させたとしても絶対の安心があるとは言えない。いろいろと悩みどころでな。」
 ふーむ。
 「他の候補地というはどこなのでしょうか?」
 「俺の直轄領ではタベルナ以外に無くてな。諸侯の領土に使えそうな場所もあるが、土地を借りるとなれば色々とややこしい問題が起こってくる。さすがに軍の護衛も無しに勇者殿を諸侯の土地に行かせるワケにもいかない上に、魔物退治に出払っていて使える軍が無いからな・・・ん?いや・・・待てよ・・・」
 人間王の表情が柔らかくなった。
 「あったぞ。俺の直轄領で牛が育ちそうなところが。海洋保養地リベリだ。」
 「良かったじゃないですか、問題が解決しそうで。」
 「うむ。リベリに行くには諸侯の一人、ドレスデン卿の領土を通過しなくてはいけないのだ。諸侯の領土を軍が通過するには、軍が諸侯を攻撃しないという保証のために金が必要でな。」
 なんだ。イヤな予感がする。
 「軍でロキ殿を護衛するという発想が間違っていたのだ。マッチョよ、リベリへロキ殿と種牛たちと一緒に行ってはくれないだろうか?お前が行くならそもそも魔物が襲ってこないだろう。」
 うーん。便利に使われているなぁ・・・じゃぁこちらも見返りをもらおう。
 「リベリとやらに行くのはいいのですが、私からもひとつお願いしてもいいでしょうか?」
 「うむ。聞ける話であれば聞こう。」
 「ロキさんとジェイさんに、王家のトレーニングルームの使用許可をいただけないでしょうか?」
 人間王が難しい顔をして黙り込んでしまった。
 「うーむ・・・うーん・・・・・・・あれは王家の秘中の秘なのだ。一部公開も反対を押し切っての話なのだぞ。また難しい提案をしてくれおって・・・」
 「勇者が強くなることが魔王への最大の対抗策でしょう。彼らにはトレーニングもサバスも必要ですよ。」
 「うーむ・・・よし。一応部外秘ということで部屋の使用を許可しよう。マッチョが指導してやってくれ。」
 つまり指導の名目で私もあれらのマシンを使うことができるのだ。俄然やる気が出てきた。
 「リベリから帰って来たら一度ドワーフ国に視察に行かせよう。俺もなにが作られているのか気になるしな。」
 さらにやる気が出てきた。
 この人間王、なかなかに仕え甲斐がある上司である。
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