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128 マッチョさん、戦う
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言葉少なに皆で朝食を摂り、私はまた勇者を乗せた馬車を引いて走った。
「罠っぽいものも無さそうだニャー。」
「いつぞやのゴーレムの時のように魔王の力を与える、という事をしていないのかもしれぬな。我らとの決戦に向けて力を蓄えているのかもしれぬ。」
「ふつうの魔物が来ても、マッチョさんがいると近づけませんものね。」
なるほど。万を超える魔物を倒した先に魔王がいるものだと思っていたが、いまや私に対して軍勢というものは効果が無いのだ。魔王にも同様に効果が無いが。
「ミャオさん、魔王が居そうな場所ってどの辺ですか?」
「もうちょっと先に岩山があって、そこから魔王の気配を感じるニャー。」
もうすぐこの旅も終わる。とは言っても二泊三日では温泉旅行のような旅だったな。
ミャオさんの言った通り、岩山を見つけた。
頑丈そうな山だ。ちょっとやそっとでは崩れそうもないな。横穴がある。
「この先から魔王の気配を感じるニャー。ここが家なんじゃないのかニャー。」
「僕もここまで近づくと感じます。いますね。」
ジェイさんとフィンさんも同意した。分かっていないのは私だけか。
「少しだけ食事を摂ってから進みましょう。」
私はいつもよりも糖質を多めに摂ることを勧めた。どれほどの長さの戦いになるか知らないが、糖分が切れた状態で戦えるものではないだろう。最後の晩餐になるかもしれない食べ物が炭水化物になるとは、なんとも不思議な気分だ。
装備、水、作戦。戦うために必要なものはすべて確認した。
「行きましょうか。」
四人がわずかに緊張しながらうなずいた。魔王はすぐそこだ。
横穴の中は想像と違い快適だった。適度な温度に適度な湿度。アタマもカラダも良く動く環境だ。
壁がほんのりわずかに光っている。この世界にはこういう石があるのだろう。王都の地下で見た石と同じような光り方だ。
ミャオさんを先頭に罠に注意しながら進む。
途中で天井が落ちたり大きな岩が転がってきたりという小賢しい罠があったが、すべて私が破壊した。
かがり火のようなものが見え、開けた場所に着いた。天井は高く光っている。どことなくギルドの訓練所を思い出す。
「これ・・・見てください・・・」
「ニャンだこれ・・・」
無数の人の石像が安置されていた。いや・・・これは石像になった人間か!
「・・・我がコレクションだよ。」
四人の身体が同時に光った。魔王へ先制攻撃をしかけようとジェイさんが動いたところを私が手で制した。話しているのだから、少しくらい聞いてもいいだろう。
黒いマントに杖、長く黒い髪。精霊が私たちに教えてくれた姿そのものの存在がそこにはあった。
しかし、いつの間にそこに居たのだ?
身長155cm程度、体重80㎏程度、体脂肪率・・・40%を超えているというのか?
「ほれ。そこの右手にある人物。そいつは我を最初に封印した勇者だよ。なかなかいい男だろう?隣に居るやつは最初に失敗した奴だ。」
立派に武装した男性の石像が二つ並んでいた。古い時代の勇者だった人たちだろう。
「精霊の力をお主らは恩寵と呼ぶのだったかな?我が魔法と原理は似たようなものでな。簡単なものから難しいものまである。お主らが封印と呼ぶ恩寵は、最上位の難易度だと分かってここへやって来たのか?」
初耳だが・・・嘘をついている雰囲気では無い。
「なぜこの大陸に魔物を呼ぶのですか?」
「我の仕事だからだよ。我は魔王だからね。悪魔に魔王として召還され、すべてが終わったら我は好きに生きられる。しかしここでの生活も気に入っている。病気もしなければ怪我もしない。老いることことも無ければ死にもしない。常に体調は万全で欲しいものはほとんど手に入る。」
・・・ちょっとだけ羨ましいかもしれない。永遠にトレーニングができる。
「我らも勇者としての仕事をしに来た。お前を封印する!」
「・・・できるかな?封印されることは我の仕事ではないぞ!」
気づいたらジェイさんの目の前まで魔王は移動し、ジェイさんを杖で吹っ飛ばしていた。
身体強化魔法か!
「なんで魔法が使えるんだ?マッチョさんがいるのに・・・」
「言っただろう。魔法というものは簡単なものから難しいものまであると。いくら大精霊が我を弱体化させようとしても、お主たちが言う固有種程度が使える魔法ならいくらでも使えるのだ。多少威力は弱まっているがな。ほれ、この通り。」
氷の槍が次々と空中に作られてゆく。ほんのわずかのあいだ魔王の魔法を見て固まっていたら五個ほど氷の槍がまとめて落ちた。フィンさんの弓だ。
「こちらにも精霊の恩寵があります!魔法が多少使えたからと言って、五人を相手にすることは難しいはずです!魔法も弓で落とせます!」
「・・・お主らも知っているはずだな。我の封印に成功したところでこれが最後の封印になると。仮に我が破れて封印されたとしても、最後の封印が解けたらこの大陸を魔物が跋扈する大陸にしてやろう!」
先のことなどどうでもいい。まずは目先の脅威を潰す。
「戦いましょう。作戦通りにお願いします。」
私は大斧を鞘から出した。
襲ってくる氷の槍を叩き落とす。ロキさんが突っ込んで魔王が片手で受けたところをジェイさんが追撃するがかわされる。この魔王、接近戦も強いぞ。
ミャオさんが氷の槍を足場にして魔王に奇襲をかける。受け流されて反撃を食らいそうなところをフィンさんがけん制する。攻撃は他の人に任せて、私は指揮と防御に専念した。一人でも落ちたら一気に食われそうだ。
・・・ん?
私にだけ魔王は突っかけて来ないな。普通だったら指揮官から落としにくるものじゃないのだろうか?
「ロキさん、私と交代してください。守備をお願いします。」
私は魔王に斧の一撃を食らわせようと前に出た。魔王は両手で杖を持ち私の攻撃を受け止めた。
両手で、だ。
ミャオさんの奇襲が入るが身体強化魔法で弾かれた。
私が魔王とつばぜり合いをしていると、発射待機中だった氷の槍が全て落ちた。
これだな。
「どうやら魔王に近づくと魔法弱体化が強く作用するようです。援護お願いします!」
「おのれ大精霊め!フザけた能力を持った人間を召還しおって!」
魔王のブラフで無いならば、この陣形が最適のはずだ。このまま押し切る。
「罠っぽいものも無さそうだニャー。」
「いつぞやのゴーレムの時のように魔王の力を与える、という事をしていないのかもしれぬな。我らとの決戦に向けて力を蓄えているのかもしれぬ。」
「ふつうの魔物が来ても、マッチョさんがいると近づけませんものね。」
なるほど。万を超える魔物を倒した先に魔王がいるものだと思っていたが、いまや私に対して軍勢というものは効果が無いのだ。魔王にも同様に効果が無いが。
「ミャオさん、魔王が居そうな場所ってどの辺ですか?」
「もうちょっと先に岩山があって、そこから魔王の気配を感じるニャー。」
もうすぐこの旅も終わる。とは言っても二泊三日では温泉旅行のような旅だったな。
ミャオさんの言った通り、岩山を見つけた。
頑丈そうな山だ。ちょっとやそっとでは崩れそうもないな。横穴がある。
「この先から魔王の気配を感じるニャー。ここが家なんじゃないのかニャー。」
「僕もここまで近づくと感じます。いますね。」
ジェイさんとフィンさんも同意した。分かっていないのは私だけか。
「少しだけ食事を摂ってから進みましょう。」
私はいつもよりも糖質を多めに摂ることを勧めた。どれほどの長さの戦いになるか知らないが、糖分が切れた状態で戦えるものではないだろう。最後の晩餐になるかもしれない食べ物が炭水化物になるとは、なんとも不思議な気分だ。
装備、水、作戦。戦うために必要なものはすべて確認した。
「行きましょうか。」
四人がわずかに緊張しながらうなずいた。魔王はすぐそこだ。
横穴の中は想像と違い快適だった。適度な温度に適度な湿度。アタマもカラダも良く動く環境だ。
壁がほんのりわずかに光っている。この世界にはこういう石があるのだろう。王都の地下で見た石と同じような光り方だ。
ミャオさんを先頭に罠に注意しながら進む。
途中で天井が落ちたり大きな岩が転がってきたりという小賢しい罠があったが、すべて私が破壊した。
かがり火のようなものが見え、開けた場所に着いた。天井は高く光っている。どことなくギルドの訓練所を思い出す。
「これ・・・見てください・・・」
「ニャンだこれ・・・」
無数の人の石像が安置されていた。いや・・・これは石像になった人間か!
「・・・我がコレクションだよ。」
四人の身体が同時に光った。魔王へ先制攻撃をしかけようとジェイさんが動いたところを私が手で制した。話しているのだから、少しくらい聞いてもいいだろう。
黒いマントに杖、長く黒い髪。精霊が私たちに教えてくれた姿そのものの存在がそこにはあった。
しかし、いつの間にそこに居たのだ?
身長155cm程度、体重80㎏程度、体脂肪率・・・40%を超えているというのか?
「ほれ。そこの右手にある人物。そいつは我を最初に封印した勇者だよ。なかなかいい男だろう?隣に居るやつは最初に失敗した奴だ。」
立派に武装した男性の石像が二つ並んでいた。古い時代の勇者だった人たちだろう。
「精霊の力をお主らは恩寵と呼ぶのだったかな?我が魔法と原理は似たようなものでな。簡単なものから難しいものまである。お主らが封印と呼ぶ恩寵は、最上位の難易度だと分かってここへやって来たのか?」
初耳だが・・・嘘をついている雰囲気では無い。
「なぜこの大陸に魔物を呼ぶのですか?」
「我の仕事だからだよ。我は魔王だからね。悪魔に魔王として召還され、すべてが終わったら我は好きに生きられる。しかしここでの生活も気に入っている。病気もしなければ怪我もしない。老いることことも無ければ死にもしない。常に体調は万全で欲しいものはほとんど手に入る。」
・・・ちょっとだけ羨ましいかもしれない。永遠にトレーニングができる。
「我らも勇者としての仕事をしに来た。お前を封印する!」
「・・・できるかな?封印されることは我の仕事ではないぞ!」
気づいたらジェイさんの目の前まで魔王は移動し、ジェイさんを杖で吹っ飛ばしていた。
身体強化魔法か!
「なんで魔法が使えるんだ?マッチョさんがいるのに・・・」
「言っただろう。魔法というものは簡単なものから難しいものまであると。いくら大精霊が我を弱体化させようとしても、お主たちが言う固有種程度が使える魔法ならいくらでも使えるのだ。多少威力は弱まっているがな。ほれ、この通り。」
氷の槍が次々と空中に作られてゆく。ほんのわずかのあいだ魔王の魔法を見て固まっていたら五個ほど氷の槍がまとめて落ちた。フィンさんの弓だ。
「こちらにも精霊の恩寵があります!魔法が多少使えたからと言って、五人を相手にすることは難しいはずです!魔法も弓で落とせます!」
「・・・お主らも知っているはずだな。我の封印に成功したところでこれが最後の封印になると。仮に我が破れて封印されたとしても、最後の封印が解けたらこの大陸を魔物が跋扈する大陸にしてやろう!」
先のことなどどうでもいい。まずは目先の脅威を潰す。
「戦いましょう。作戦通りにお願いします。」
私は大斧を鞘から出した。
襲ってくる氷の槍を叩き落とす。ロキさんが突っ込んで魔王が片手で受けたところをジェイさんが追撃するがかわされる。この魔王、接近戦も強いぞ。
ミャオさんが氷の槍を足場にして魔王に奇襲をかける。受け流されて反撃を食らいそうなところをフィンさんがけん制する。攻撃は他の人に任せて、私は指揮と防御に専念した。一人でも落ちたら一気に食われそうだ。
・・・ん?
私にだけ魔王は突っかけて来ないな。普通だったら指揮官から落としにくるものじゃないのだろうか?
「ロキさん、私と交代してください。守備をお願いします。」
私は魔王に斧の一撃を食らわせようと前に出た。魔王は両手で杖を持ち私の攻撃を受け止めた。
両手で、だ。
ミャオさんの奇襲が入るが身体強化魔法で弾かれた。
私が魔王とつばぜり合いをしていると、発射待機中だった氷の槍が全て落ちた。
これだな。
「どうやら魔王に近づくと魔法弱体化が強く作用するようです。援護お願いします!」
「おのれ大精霊め!フザけた能力を持った人間を召還しおって!」
魔王のブラフで無いならば、この陣形が最適のはずだ。このまま押し切る。
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