異世界マッチョ

文字の大きさ
127 / 133

127 マッチョさん、告白する

しおりを挟む
 私が異世界人であることには、それほど驚かれはしなかった。どうにもこの世界の一般的な人族と私は違って見えていたようだ。言われてみたらたしかに異世界人でも違和感は無いな、という程度の受け入れ方だった。体形以外はそれほどの違いは無かったと思うのだが。
 魔王の封印方法については絶句していた。魔王と戦い魔力を切れさせ、その瞬間に大精霊の力で魔王をこの大陸に封印する。その時から私は大精霊の力が続く限り、この大地に魔王を封印し続ける。封印が成功しようが失敗しようが、私はもう帰れないのだ。
 「マッチョさん・・・あんまりじゃないですか・・・」
 ロキさんは泣きそうだ。
 「・・・どうにかならぬのか?」
 「他に方法があればいいんですが・・・」
 「そういうのはイヤだニャァ・・・」
 「私もです。いかに大精霊に選ばれたからといっても・・・残される側も辛いですよ。」
 だが、他にも伝えなければいけない話がある。
 「もう一つ大事な話があるんです。精霊の力が弱まっているという話はしましたね?これが最後の魔王封印になるかもしれません。」
 「最後ってどういうことなのかニャ?」
 「数百年後になるでしょうが、再び魔王を封印するほどの力を大精霊が持っていないということです。」
 また静かになってしまった。
 我々は魔王を封印しにこの地までやってきた。だが封印が成功しても根本的な解決にはならないのだ。

 「魔王の封印なんて止めて帰ってしまいましょうか?マッチョさんが犠牲になるなんて・・・」
 「魔王がこの大陸にいる限り、魔物はより多くより強力なものが出てくるはずです。辛いですがやはり封印はしなくてはいけません。私たちの責務です。」
 「だーかーらー、そういうのはイヤだニャァ・・・」
 「ロキ殿、ミャオ殿。それ以上は言わないでくれないか・・・我も揺らぐ・・・」
 いいタイミングでジェイさんが止めてくれた。私も悲しむ仲間の姿を見て揺らぎそうになった。
 「そんなに悪くなかったですよ、私の人生。前の世界で一度死んだはずなのにいい仲間に巡り合えましたし。トレーニングも続けられました。それにこの身体です。一生を賭けてもこの肉体を体験することはできなかったでしょう。」
 実際に今の私の身体を作りあげようと思ったところで、人の力でどうにかなる類のものでは無い。筋肉ではなく腱や関節の方が耐えられないだろう。トレーニーであった時の私は人間という生物だったのだ。種としての限界をトレーニングで超えることはできない。

 「マッチョ殿。マッチョ殿が居た世界の話を聞かせてもらえないだろうか?そもそもその世界ではマッチョ殿のように筋肉についての知識や鍛錬法をよく知っているのが普通なのだろうか?」
 私は夢中になって筋トレの話をした。ランドクルーザー岡田との出会い、トレーニーとしての日々、この世界に来てからのトレーニングの悩み、タンパク質の重要性、補給のタイミングの議論、マシントレーニングによる追い込み。いくらでも話はできた。
 気づいたらミャオさんとフィンさんが寝ていた。マニアックな話にはあまり興味が無いようだ。
 「結局はマッチョ殿が肉体を鍛え上げることが好きだったということ以外、異世界のことは分からなかったな。」ジェイさんの顔に笑顔が戻ってきた。
 「トレーニングという単語も初めて聞きましたし、マッチョさんの知識のおかげで特に僕たち二人は精霊に力を借りても反動が小さくなったんです。お話自体は興味深かったんですが、まったく別の世界のお話も聞けると思っていたんですよね。」
 どうにも私は筋トレの話になると熱くなってしまう。私は少しだけ自分が居た世界の話をした。
 「魔物が襲ってこない世界というのも羨ましいものだな・・・」
 「辛いですけれど作りましょう、そういう世界を。たとえ数百年だとしても・・・」
 ほとんど筋トレの話しかしていないが、この二人はうまいことハラが座ったようだ。
 ふと思い立って夜空を見上げてみる。この世界にも月はあるし星もある。私が居た世界の星がどういう配置だったのか憶えていない。私は自分の肉体ばかりを見ていて、世界の在り方や星のまたたきなど真剣に見たことが無かった。それほどまでにトレーニングに夢中になっていたとも言えるし、あまりにも視野が狭いまま生きて来たという気もする。
 明日、私たちは魔王と戦う。
 大精霊の触媒となり封印に協力した幾人もの人たちも、こういう落ち着かない夜を迎えたのだろう
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...